2003.01.01 wed「年賀状」



2003年の年賀状である。

ああ、わたしもこんな絵を描くようになったんだなあ、と感慨もひとしおである。
じわりじわりと、
何かのリミッターが外れつつあるような気がするが、大丈夫だろうか。




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2003.01.02 thu「秋山瑞人・1」

 
※ 今回の日記は「わたしは秋山瑞人が好きだーッ!」という趣旨の内容なので、秋山作品を読んだことのない人には、あまり面白くないかもしれません。


秋山瑞人という小説家がいる。

代表作は
「E.G.コンバット」「イリヤの空・UFOの夏」(ともに電撃文庫)だろうか。
更新停止中に出会った一連の秋山作品に、私は惚れ込んでいた。

デビュー作の「E.G.コンバット(1)」は初版が1998年06月25日。
当時書店員だった私は、この表紙をみたことがある。
だが
「よしみる」の癖のある絵に躓(つまづ)き、購入はおろか手に取りもしなかった。

二度目のきっかけは、サンフェイスさんのサイトで紹介されていた「イリヤの空・UFOの夏」である。
たしか初めて読んだのは、東京の文月さん家に遊びに行く道中だった。だが、読み始めるや、その
文章のうまさに驚愕したのをよく憶えている。無性に誰かに読ませたくなり、その場で文月さんに「とにかく読んで」と手渡してしまったくらいだ。

「イリヤの空・UFOの夏」の既刊(当時は2巻まで。現在は3巻まで刊行)を読み終えた後で、すぐさま「E.G.コンバット(1〜3)」を買い求め、これも
あっという間に読了する。ほとんど「飢え」に近い感覚だった。

笑わされたり驚かされたり泣かされたりしながら最後まで読み終えたところで、実は最終巻「E.G.コンバットFinal(通称E.G.F.)」が出る予定だと知る。
だが、その予定がおかしい。1999年07月に3巻が出てから、かなりの時間が経っている。居ても立ってもいられなくなってネットを調べててまわったところ、現在、雑誌「電撃hp」で連載中の「イリヤの空・UFOの夏」が完結したら、「E.G.F.」に取りかかるという話(噂かもしれない)を目撃した。
「イリヤ」がどういういきさつで始まったのかは分からないが、同時進行で二つの物語を描くのが難しいという理由で、いま「E.G.F.」は停止状態なのだ。

たちのわるい嫌がらせかと筋違いに思ってしまうくらい、そのときの私は「E.G.コンバット」に飢えていた。やむなく、他の秋山作品を片っ端から入手し、むさぼり食うように読んだ。


秋山作品は、「何が起きているか」の描写を、現象や情景にあまり頼らない。
登場人物が「どう感じているか」を読まされているうちに、何が起こっているのか、理解させられてしまうのだ。

それはまるで、
読み手の神経の中に「いま何が起こっているのか」直接情報を流し込むような文章表現である。しかもその流し込み方が異様にウマい

しかも氏の「物語構成」は、
おそろしくさりげなく、そしてズルいくらいに巧(うま)い。再読している時も、これから何が起きるのか何もかもわかっていてなお、それですら自分でも面白いくらいに、その構成に丸め込まれていく。しかもそれを運ぶ文章は、先のとおりの悪質なくらいの絶妙さである。食べ物に例えると、ものすごく味がいい上に、食感が抜群なのだ。読者は、はめられていることにほとんど気がつくことができず(そして気がついてなお)食べるのがやめられない。

なぜなら、もっと丸め込んで欲しい、もっとずるくうまく喜ばせて欲しい、もっとこの美味しい物語を食べたいと、何度も読み返しながら、頭のどこかでそう思ってしまうからだ。

すぐれたエンターテイメント小説は途中で読むのを止められなかったり、続巻に伸びる手を止められなかったりする常習性のような性質をもつが、
秋山作品も、間違いなく一種の麻薬である。

しかも、本というのは
「一回買って読んだらそこまで」という特殊な商品である。美味しかったケーキなら何度も買って食べられるが「このマンガ面白かったなあ、じゃあもう一冊買っておこう」といったような単体商品のリピーターが存在できないのだ。本のくせに常習性のある麻薬。これは辛い。


その残り少ない麻薬を、使い切ってしまう時が来た。
出版されているあらゆる秋山作品の(購入した順番的に)最後の単行本
「鉄(くろがね)コミュニケイション(後編)」を手に取る。
「これを読んだら、もう手に入る秋山作品は最後なんだな・・・」
そう思ったときの恐怖はいまでも忘れられない。そしてそれを読み終わった後の猛烈な寂寞感も。

「鉄」を読み切り、ほどなくして禁断症状が出た天野は、何度も何度も秋山作品を再読することになる。
最新刊の「イリヤの空・UFOの夏(3)」が出たときには、むしゃぶりつくように購入し、丁寧に丁寧に読み進んだ。

「イリヤ」に関しては、単行本未収録である最新話を、雑誌で読むことができる。だが、これにはついに手を出さなかった。
ハヤカワ書房のSFマガジン(2002年04月と05月)に連載されていた「俺はロケット」もあえて読んでいない。
これらを読んでしまうと、
耐えに耐えて脱出しようやくできた余裕、つまり

「自分には、まだ読んでいない秋山作品がある」という状態

が消失してしまうからだ。それは私にとって
「明日から喰う飯がない」のとほとんど同義だった。そして「この人が本を書いているうちは、何があっても死ぬまい」と思ったほどである。





秋山作品の魅力は、その描写力構成力もあるが、やはりキャラクターの魅力も大きい。
この辺は、もう語る人に語り尽くされている感もあるし、読んでない人にはサッパリわからないと思うので、好きなキャラだけ表明しておこう。これはもう
「猫の地球儀」の楽(かぐら)と、「E.G.コンバット」のカデナ・メイプルリーフである。

あと、キャラ萌えではないが、わたしは密かに「E.G.コンバット」の
ペスカトーレが好きだ。
いや、ここではあえて「ペス様」とサンフェイスさん風に呼ばせてもらおう。(以下ネタバレ)

わたしは、ペス様は実戦、もしくは現実というものを知っているのではないかと思う。
だからこそ、実戦に即していない形式と理論だけの、オルドリン訓練校の内容が、あまりに馬鹿馬鹿しく感じ、ああやってふざけているのではないだろうか。「こんな役に立たないこと、勉強しても意味ないじゃん」という感じで。

彼女の正体不明の性格そのものが煙幕になっていて、実力の存在を隠蔽しているが、サンフェイスさんも指摘していたように「アマルスに「隠れた副官」と言わしめ、哨戒任務同行演習に隠されたカラクリを見抜き、密林の戦闘やカデナ救出劇では、誰よりも兵士として冷静な行動をとっていた」ペス様である。「5人がルノアの真意を知って以降、直接ルノアが指導する訓練では確か自発的な邪魔を殆どしなくなった」あたりも、彼女の真の姿が隠されている証左として頷ける。彼女の素顔がみられるときはくるだろうか。


「E.G.F.」がどうなるか、物語の謎が明かされるであろうことも含め、期待感と想像力を抑えるのに苦労する。

そう、謎の真相と「E.G.F.」の結末を、
想像することが、恐ろしいのだ。

予想も想像もしたくない。この物語のラストは、
自分で思いつくよりも、ぜひ秋山瑞人の文章で知りたいと、切実に、思ってしまうからである。




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2003.01.03 fri「秋山瑞人・2」

※ 今回の日記もただの叫びと情報提供です。すみません。


むかーし、エヴァンゲリオンが特需であったころ「エヴァの本ならなんでもいいから同人誌かってきてくれ!」と叫んで名古屋の即売会に行く友人を見送ったという知人がいたが、ホンモノの供給が絶たれてなお、それを渇望する者は「似たもの」か「その周辺のディティール」を追求することで、自分を慰めようとする。

そんなわけでわたしも「電撃hp
(volume10:2001年03月10日号)」を取り寄せた。
ネットで得た情報によると、この号には
「よしみる」の手による「E.G.コンバット」のコミックが掲載されているからである。

「E.G.コンバット」の小説は、キャラクターの挿し絵は随所に見られるが、メカや、敵である「プラネリアム」がきちんと描かれておらず、イメージの把握に苦労していた。その公式な絵が見られると期待して本誌を開いてみたが、実際のそれは、なんというか
全般にデザインが古くさく(しかも80年代臭)、秋山作品のもつ雰囲気との違和感が強烈だった。

いま思えば、描かれたのが1992年の月刊コミックコンプ誌上だったのだから無理もない。そもそも「E.G.コンバット」は、よしみるが原作である。これをもとに秋山氏がノベライズしたわけだが、
それにしても違和感である。

「双脚砲台(ハミングロウル)」は、私の中では、なぜか
アキラの炭団(たどん)+デストロイドモンスター(マクロス)のイメージがあったせいで、あの円柱状で安定の悪そうな脚がどうも認められない。クレイプはモロに「ロボットに変形しますが何か?」という感じで、ガーランド(メガゾーン23)にすこし似た身体の線と、70年代のスーパーロボットを無理矢理量産型にリファインしたような顔で、やはり違和感がすさまじい。そして、一番驚いたのがプラネリアムである。「猿」「エテ公」と言われていたが、コミック版のそれは表面処理に失敗したイクサーΣのようだ。やはり顔はゴリラであってほしいと思うがどうだろう。近いイメージはアップルシードのコットス(SWAT所属のデュナンの部下で、ゴリラっぽい容姿をしたロボット。マスクを外したときの顔がおもしろい)だろうか。いや、しかし「アキラ」と「アップルシード」だと、これもモロに80年代臭なのだが。

このhp誌では、まだ「E.G.F.」は
刊行予定中であり「2001年06月10日発売予定」という記述がある。ちなみに、この号には「イリヤの空・UFOの夏」の2巻最終話分「正しい原チャリの盗み方」が連載されていた。この後で「E.G.F.」はストップしてしまったようだ。

思えば、三巻のあたりから、三年以上も待たされている人のことを考えると、自分はまだ楽な方かもしれない。
なににしても、自分としては待つしかない。

そして、こういうときの時間の過ごし方として、自分は
絵を描くことができる。
「新刊を待ってる間に絵でも描くか」と思ったが、しかし、これだけ好きな作品なのに、どういうわけか
絵が全く降りてこなかった。

絵に出来るシーンを探して(あるいはそれを口実に)ふたたび「E.G.コンバット」と「イリヤの空・UFOの夏」を通読したが、まったくイメージが湧いてこないのだ。

自分が何かの物語をモチーフに絵を描くとき、
狙い所はその「隙間」である。ハーメルンでも、ヨコハマでも、Kanonでも、劇中で描かれていないシーンを描くことが、自分にとってのオマージュであり、いちばん思いつきやすい角度であり、得意な戦法だった。(むしろ、劇中で描かれている部分はすでにビジュアル化、もしくは読者の脳内でビジュアル化されているので、描く必要はそもそもないのだ)

何度も読み返し、唯一その突破を許してくれたのが、イリヤ三巻でのボーリング場のシーンである。
これ以上はネタバレになるので書かないが、しかし、あれは
秋山氏が意図的に作った隙だった。
そしてそこにしか、私の割り込む余地はなかったのだ。

秋山作品には、隙間がない。

広げて膨らまし「面白い切り口」として絵に描いて見せられるような弛(たる)みが無いのだ。

それはこの物語の、緻密さと、完成度の高さを、また別の角度から示すものだった。


この物語に挿絵をつけられる「よしみる」はスゴイと思った。






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2003.01.04 sat「ライトノベル・1」


「ライトノベルファン度調査」というのがあったのでやってみた。
いくつも挙げられているタイトルの中で、読んだことのある作品は以下の通りである。


未来放浪ガルディーン (火浦功 スニーカー)
みのりちゃんシリーズ (火浦功 ハヤカワ文庫JA)
アダルト・ウルフガイ (平井和正 ハルキ文庫)
幻魔大戦 (平井和正 集英社文庫)
小娘オーバードライブ (笹本祐一 スニーカー)
妖精作戦 (笹本祐一 ソノラマ)
星のパイロット (笹本祐一 ソノラマ)
エリアル (笹本祐一 ソノラマ)
星へ行く船 (新井素子 コバルト)

イリヤの空、UFOの夏 (秋山瑞人 電撃)
E.G.コンバット (秋山瑞人 電撃)
猫の地球儀 (秋山瑞人 電撃)
鉄(くろがね)コミュニケイション (秋山瑞人 電撃Gs)

TRAIN+TRAIN (倉田英之 電撃)
R.O.D (倉田英之 スーパーダッシュ)

マリア様がみてる (今野緒雪 コバルト)

LAST KISS (佐藤ケイ 電撃)

聖エルザクルセイダーズ (松枝蔵人 スニーカー)

ロケットガール (野尻抱介 富士見ファンタジア)

星虫 (岩本隆雄 ソノラマ)

処女少女マンガ家の念力 (大原まり子 ハヤカワ文庫JA)
創竜伝 (田中芳樹 講談社ノベルス)
風の歌 星の道 (冴木忍 スニーカー)
吸血鬼ハンターD (菊地秀行 ソノラマ)
スレイヤーズ (神坂一 富士見ファンタジア)
星界の紋章 (森岡浩之 ハヤカワ文庫JA)
蓬莱学園 (新城十馬 富士見ファンタジア)
私闘学園 (朝松健 ソノラマ)


下の方には、一巻だけしか読んでないものもあるし、本家にランクインしている本の中でも、読んでない作品は多かった。そして読んではいるが名前がランキングされてない本も多い。「インフィニティ・ゼロ」とか「ヤングウルフガイ」とか「森奈津子」とかの無いのがちょっと寂しかった。まあ、それは置いておこう。




ところで、
「一般文芸」と「ライトノベル」の違いとはなんだろうか。

細かくはいろいろあると思うが、私が思っているところの結論を言ってしまえば、
それは
「スタイルの違い」である。

仮に、ライトノベルの読者は、10代から30代。そして一般文芸の読者をそれ以上としよう。
当然、読者が感情移入しやすいよう、主人公やヒロインの年齢や舞台設定などに違いがあらわれる。これ自体も「違い」かもしれない。
だが、ライノベ読者と、一般文芸読者を、大雑把ながら「年齢」で比較したとき、両者の間には、ある明確な「読み手の能力としての違い」が出現する。これによって、両者は大きくその読書傾向を分かたれる。

それは「想像力」だ。

10代から30代というこの年齢層には、ナチュラルな「想像力」がある。
そして、これ以上の年齢になると、それが極端に弱くなるのだ。

たとえば

「雨にうたれている少女」

という言葉ひとつ打ち出しても、ライトノベル読者(の年代)は、豊かな想像力で、濡れそぼった彼女の着衣、頬に張りついた髪の線、そこからつたわる雫、何も見ていないような目の表情、雨に煙る街並み、そして、そこに薫る水っぽい空気感まで想像してしまうだろう。

だが、それ以上の年齢層を相手にする場合だと、「そこでどんな少女が雨に打たれているのか」を文中でいちいち描写しないといけないのだ。

これを前提に書かれているということが、ティーンズノベルと一般文芸の一番の差違である。それは読者の能力を前提とした
「スタイルの違い」だ。

ティーンズノベルは、あるていどの描写を読者の
「想像力による脳内補完」に依存することができ、説明を省くことができるために、一行の改行がはやく、テンポのいいスピード感のある文体が可能になる。そして、上手い人にかかれば、行間にとんでもない量の情報を詰め込むこともできるのだ。

一般文芸はそれができないかわりに、緻密な描写で、演出をねちこく濃厚にできる。テンポが遅くなる効果で、じっくりと読ませるのが一般文芸の持ち味だ。(ちょっと乱暴な線引きだが)

(ちなみに「想像力による脳内補完」への依存でこそ成立し、その方向に文体を極めたのが、台詞と効果音だけで受け手に何もかも分からせる
ラジオドラマやCDドラマの脚本であろう。これは声優さんの演技にも大きく依存しているが)



両者の明確な違いは、ここにある。
ただ、作家の特徴というものがあるので、マクロな視点からの非常におおざっぱな分類基準でもあるが。

そして、ライトノベルの特徴が一般に言われるように「読みやすい」ことだとするなら、結局「その年齢層に読みやすい」という点では、一般文芸も同列なのではないだろうか。



おまけ

ティーンズノベルは、「想像力」という読者側の読解能力による底上げがあるために、ファンタジーもどきやSFもどきなどの、ゲームやアニメっぽい現実からやや浮いた世界を描写することに向いている。文体だけではなく、テーマもまた、年齢層の想像力で選ばれるのかもしれない。







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2003.01.05 holy「ライトノベル・2」

一般文芸とライノベ。この双方はどちらが優れているか、という問いがある。だがこれは、先日の日記のように目差すところもスタイルも魅力の質も、まったく別の次元の存在であり、同じ線上で比較評価できるものではない。ただ、それぞれのスタイルの上での、作品単体の優劣があるだけである。

だがそうは言うものの、世間一般に、一般文芸は高尚であり、ライトノベルはくだらない、という不文律も根強くあるようだ。


わたしも秋山作品に出会うまでは、ちょっとライトノベルを馬鹿にする傾向があった。
ライトノベルの中には、たしかに青臭い物語構成で、文章も上手くない作品が多かった。一方、一般文芸はその裾野の広さと歴史の長大さもあって高度に文学的な作品が多数存在し、生まれている。

でも、自分はべつにその両方の全部を読むつもりも、勢力図として比べるつもりもない。どっちかに肩入れして、他方をけなす必要もない。

幸いにして、この全く違う文芸を、
両方たのしめる精神的立場にいるからだ。

そして、自分がまだライトノベルを読めるだけの想像力がある位置にいるからかもしれないが、現時点でもっとも読みやすく評価の高い小説家は、一般・ライトをざっと見渡しても、やはり秋山瑞人氏だと思う。

秋山作品を、ライトノベルのつもりで、旺盛な想像力をもって「設定を想像する」というハードルを越えてきた読者は、そこで差し出される人間描写や構成の「緻密さ」「豪華さ」「心地よさ」「わかりやすさ」に驚かされる。
しかも、そのボリューム感のある文章は、氏の手腕によっていささかもリズムを損なうことなく、ライトノベルの軽快さで、わかりやすく心地よく紙面を流れていくのだ。それは身軽に羽ばたきながら、青空を自由に旋回する20メートル級のシロナガスクジラみたいなもので、
知らずに見た人はたいてい驚く。

平井和正のウルフガイと出会ったときにも、こういうのを見たのだが、この歳になって、しかも、ライトノベルでまたこのバケモノに出会えるとは思わなかった。(そもそも、ウルフガイもライトノベルらしい)

こういう出会いがあるなら、少なくとも偏見だけは持たずに、これからもライトノベルを見ていこうと思う。








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2003.01.07 tue「9ヶ月の記録」


先月から、夜想曲を再開している。

夜想曲を一度しめた理由は、3月の日記のとおり、絵も文章も、かきたいことをぜんぶ出し切れたからだった。

だが、実は
もうひとつの理由がある。

それは、書店の仕事を辞した後に、苦悩して見つけだした
「ある計画」が、本当に成功しうるプロジェクトなのかどうか、検証に検証を重ねるためだった。

更新を停止したその後も、ふと絵や文章をかきたくなるときがあったが、そのときの欲求は逃避だったのだろう。
更新をとめて、自分と向き直ることができたので、この停止期間はつくづく必要だったと思う。


それにしても、何年かかかるかもしれないと覚悟し、人によっては

「いつか・・・一年後か二年後か十年後に、戻ってくるつもりではあるのですが、そのときには、まったく事情も何もかも変わってしまっているでしょう。ですから、事実上の夜想曲の終焉です」


とまで宣言していた「ある計画」の探求が、9ヶ月という短期間で足がかりを掴めたのは、まったくできすぎた幸運である。
更新停止の報を聞いて「うわぁん! やだやだやだやだやだやだやだ(以下エンドレス)」と錯乱したmasterpieceさんをはじめ、応援してくれた知人、そしてかつての夜想曲になんらかの関心をもってくださり、計画探求の精神的な支えになってくださった皆様には、本当に感謝だ。

「ある計画」は、骨子の確立と根回しが完了し、準備もほぼ整いつつある。その上で、夜想曲を開くことができた。

停止期間中に描いていた絵もアップし終え、停止中に思いついていたネタも、だいたい日記で書けた。
そこで、今日から日記に書く内容は、これからはじめる
計画の詳細である。題して

「天野拓美の『日本人はこんなにあくせく働かなくても生きていけるはず』プロジェクト(たぶん内容ごとかなり流動的な仮称)〜」

要するに、
いかに楽して生きるかという今後の人生計画を、バイトしながらだが、9ヶ月もかけて追求してみたのだ。
自分で書いていて何だが、よくもこんな
ステキな計画真剣に追いかけたものである。
この計画は、他の人には容易に応用が利かないのが難点だが、プロジェクトを立案するに至った経緯と、現在までの進行状況を、9ヶ月間の記録として順番に書いていきたいと思う。

(これ以降、続く内容に関してはファイルを換えます)→9ヶ月の夏草戦記
(一月の日記は、このままのファイルで、たまーに更新すると思います)





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2003.01.11 sat〜 2003.01.12 holy
「さよなら月天! 大須探訪替え歌カラオケロリータ根性オフ会」


maniera(まにえら)さんと、Bee(びー)さんに会った。


お二人と知り合ったのは、Beeさんの日記からリンクを貼っていただいていたのを、アクセス解析で逆探知し、ちょっと挨拶してみたのがきっかけだったと思う。
manieraさんは、Beeさんの友人で、ともにサンフェイスさんのところから夜想曲を知ったそうである。ありがたいことだ。

Beeさんが、
寝言日記に影響されて「リモートコントロールダンディ」をはじめたことや、manieraさんが大のガメラファンであること、お二人とも名古屋在住と近所であること、そして「この人たちは面白いに違いない」という、天野が得た根拠のない直感(ウェブ嗅覚かも)などもあって、1月11日の昼から、時間を取って会ってみようということになった。

(両人からのオフ会記録はこちらこちら
(manieraさんの「更新行為手当」より)、さらに、こちらこちら(Beeさんの「日々の記憶」より)です)

お二人とも、ガメラやゴジラなどの
特撮怪獣ものが好きで、合流した上前津の駅から大須へ向かう道中で、すでに

「ガメラ2は劇場に
7回見に行きました! でも劇ナデ(劇場版・機動戦艦ナデシコ)を8回見に行った人が友人にいるので、あまり自慢になりませんねー。あと、ガメラのLDボックス、8万円で買いましたよ! いまじゃ2万円で売られてますが!」

と、
すっかり出来あがっている。

オタクの習性として「同レベルの人種を認めると、無意識にダメ自慢をする」というのがあるが、すでに始まっているようだった。「2万円ですよ、2万円」と、口では悔しそうなことを言っているが、manieraさんはむしろ誇らしげに笑っている。

対面して5分。
ほぼ、思った通りの深度で生きている二人をみながら、自分の嗅覚の鋭さに、私は少し感動していた。




まずは、名古屋の大須にある
「マリリン・バーガー」という、地下のハンバーガーショップで昼食をとる。

このご時世に、
ハンバーガーが680円ミルクシェイクが380円もするという、敢然と時代に逆行した飲食店だが、出てきたのは、花瓶のようなサイズのカップに入った濃厚なシェイクと、片手で持っていられないくらいの重量級ハンバーガーだった。大味かと思ったが、シェイクは濃い割りに甘さもいい具合にスッキリしているし、ハンバーガーはパンがどっしりしていて、肉がふんわりしている。食べ甲斐があってとても美味かった。

店はアーリーアメリカンな感じだが、それでも出てくるのはやはり
ガメラの話である。
manieraさんがガメラ3の試写会に行った際、舞台挨拶に、
縮尺144/144スケール・全身フル可動の前田愛が登場した瞬間、彼は死ぬほど感動したらしい。

 
(左:「ガメラ3」より前田愛  右:トレカブックの表紙)


以前から、彼は
前田愛の熱心なファンだったからだ。
日記などを読む限りでは、manieraさんにとって、前田愛は、
私にとっての井上喜久子さんのような立場なのだと思う。

かなり、ものすごい思い入れがあることが、よくわかっていただけるだろう。彼はキッパリと言う。


「前田愛は、ふつうの人間ではありません」

すでに

この分類である。

照れながらも饒舌に語るmanieraさん。中山忍や前田愛からは、強烈な芸能人オーラが出ていたという話や、金子監督はMCが下手くそで普通の人だったとか、そういう直で見てきた報告が聞けて、楽しかった。

怪獣映画の話がつづく。
ライノベの日記を書いたとき、夜想曲掲示板の方に
「他の小説を読んだことのない人にライノベの素晴らしさを説かれても説得力なし」という旨の文章を書いたが「映画もそうですね」とmanieraさんが話し始めた。
manieraさんは、怪獣特撮ものが好きで、ゴジラ(一部除く)やガメラを絶賛しているが、同時に広いジャンルで多くの映画を見ている。彼に過去にみた映画のベストを5本を挙げてくれと訊くと、ファンでありながらも、
怪獣映画は入らないそうだ。シビアである。こういう人のすすめる怪獣映画は信頼できると思った。



腹ごしらえも終わったので、マリリン・バーガーを出立、
大須の電気街へ向かう。

今回名古屋にきた目的は、オフ会参加と並んで、ウインドウズ機をもう一台買うことだった。
マック(G4)の方は、まだまだ使用にはぜんぜん耐えるし、もし買うとしても、体感速度でいまの三倍くらい処理速度が向上しないと買う気はしない。

ただ、VersaPro(ウインドウズのノートパソコン)が、233MHzなので性能的に頼りないため、もう一台ほしい。中古でかまわないので、4万円くらいで手に入れておきたかったのだ。

大須に詳しいBeeさんに、あちこち案内してもらう。
予算内の中古はたくさんあったが、驚いたことに、
ショップが作っている新品パソコンの方が中古より安かった。中古の倍くらいの性能でありながら、それと同額くらいで売られているのだ。店が買い取った価格に利益を上乗せしているから高くなっているのかもしれないが、それにしても変な話である。技術革新の方が、中古市場を追い抜いてしまったのだろうか。

あちこちまわったが、39800円だと、Celeron 1AGHz・128MB・40GB・CD-RW・10/100baseTX・OSは無しというくらいのスペックだった。以前に見ておいた岐阜のコンプマートでも同程度である。
だが、TWOTOP(という店)では、ほぼ同条件の上、ここでだけ、
Celeron1.7GHz だったので、思い切ってこれを購入する。もうちょっと後で買っても良かったかも知れなかったが、名古屋に出てくることも今後そうなくなるだろう。いい機会だと思ったのだ。





宅急便の手配をした後、俗に言う
大須のダメビル(別名:グッドウィル・アミューズメント館)へ行き、エロゲショップと、オタク系のコミック売場と、コスプレ衣装展示場のフロアに併設という凄まじい立地「M's Melody」=通称「大須のメイド喫茶」を冷やかす。
ここでは、客が入店すると
「お帰りなさいませ、ご主人様」と迎えてくれるようだ。入り口をくぐることでいろんなものを失ったり得たりする、人によっては裁きの門みたいな所である。ちなみにBeeさんから聞いた話では、ちょっと前まで、巫女デーというのがあったらしい。正月企画でメイドさんが巫女服をきて接客していたらしいのだ。無理してでも期間中に来るべきだっただろうか。

入り口から覗ける範囲では、女性客が多かったので、ちょっと驚く。でも、考えてみると、男性で
ここへ入るにはけっこうな覚悟が必要だと思うがどうだろうか。度胸がないので結局入店せず、三人並んで遠くから肉眼で愛でるだけだった(あぶねえなあ)。階級によって色分けされたメイドさんが、奥の方にチラッと見えただけである。

「む、今日は制服が違いますね」

「モデルチェンジしたのかなぁ」

「・・・・・」

こんな店まで5分でこられるmanieraさんとBeeさんの住環境が、なんとなく羨ましいような気もした。

ところで深々とお辞儀をするとスカートの中(アンダースコートだけど)が見えてしまうミニスカメイドというのは、ドキドキするが邪道だと思う。個人的にはピクリとも萌えない。やっぱりメイドさんのスカートは長くて重くなきゃだめだぜとおもうのですがみなさんはどうでしょうか。



そんな感慨を持ちながら、同フロアの店を物色する。
エロゲショップでは、メルティブラッド(月姫の格闘ゲーム)発売記念だろうか。パッケージ絵仕様のシエル先輩ブリスターフィギュアが3150円で売っていた。


街灯部分以外のデキがかなりいい。
しかも、3150円を格安だと思っている自分がいる。無職で賃金が生活費と同額という綱渡り生活なのに新品のパソコンまで買ってしまった自分にはちょっと手を出すことが出来なかった。でもあれで街灯のデキがよかったら、確実に黒天野がひったくっていただろう。危ないところだ。

ほか、中古のオモチャショップなど冷やかす。ソフビの怪獣などを見ながら「メフィラス星人のソフビほしいなぁ」「あの色がいいよね」とmanieraさんたちがニコニコしながら話していた。

いままで、怪獣系の知人がいなかったので、なんというかこういう会話が新鮮である。
ここには、古いオモチャだけではなく、同人誌の転売品もあって面白かった。学習ノートの半分くらいの薄さしかない「マリア様がみてる」の同人誌(たぶん、ひびき玲音)が
18000円で売っていた。これも、欲しい人には安いものなのだろうか。付加価値というのは、わからないものである。





日が暮れてきたので、manieraさんの家にお邪魔した。大須の街から、ほんとに歩いて数分だった。

manieraさんは「前田愛のファン」と書いたが、同じくらい、あるいはそれ以上に
「To Heart のマルチを愛する男」でもある。
部屋に上がってみると、積み布団の上に置かれた枕が目についた。
それは、もっている人は必ず持っている、例によって頭の下に置くには長大すぎる枕だった。

「なるほど」

とりあえず、そうコメントしてみる。

「基本です」

基本らしかった。


manieraさんは、秋葉凪樹のファンでもある。抱き枕の絵も、だから秋葉凪樹だ。

「あの、manieraさん、秋葉凪樹の
『きらきら』って知ってます?」

「・・・・知ってます」

やはり、Kanonをやったことのある人間は、知らないふりをしなければならない作品のようだ。ちょっと危ないのでここまでにしておこう。


manieraさんは、秋葉氏が、
「re-leaf」という同人誌で描いていたマルチの話にひどく感動したという。
話のついでに、その同人誌を見せてもらった。主人に先立たれ、ひとり残されてしまったマルチを描いたお話である。

一読して驚く。ちょうど、ヨコハマ買い出し紀行の世界観をベースに、「わかれのとき」のイメージを広げて、ロボットの寿命について同じようなテーマの小説を書こうと考えていたからだ。

以前あるチャット(IRC)で「永遠に生きるロボットがいるとして、それは人間そっくりの精神や肉体をもっているとして、ものすごく愛した人と死に別れたあと、彼女はどうしたらいいと思いますか」という話をもちかけたが、知らないうちに、こんな風(「永遠の死別」)に広がっているのをみて、最近おどろいたばかりだ。このテーマにはつくづく縁があるらしい。

秋葉氏の同人誌は参考になった。でも、この解釈をそのまま使うことはすまい。
テーマに対する結論が明確に構築できたら、この小説をちゃんと書こうと思う。「永遠の死別」で、本がでるようなら、ぜひ混ぜて欲しいものだ。

manieraさんに、同じ質問をしてみる。彼は

「わたしがオーナーだったら、自分が死ぬ前に、電源は落としておきます。マルチのために」

と答えていた。



お二人は音ゲーも好きで、DDRなどに通っていた時期もあるという。
部屋をよく見ると、ビートマニアのコントローラーが置いてあった。

「これ、三万円です」

「コントローラーで三万円!?」

19800円の『鉄騎』コントローラーは安いと感じられますね」

「三万円というと、さっきのシエル先輩が10人買えますよー、天野さん」

「いや、そんなの、べつに・・・・・くそ、想像したら、いま
すこし幸せだった」

「そうですね、シエル先輩よりは、10人ならザクとかマルチとか、
量産性のあるもののほうが様になってイイです」



そんな話をして部屋をかき回しているうちに、ちょっと小腹がすいてくる。
では、とばかりにBeeさんがシュークリームを出してくれた。

「人生相談にはシュークリームが要ると言うことでしたので」

言ってみるものである。

「いえ、あの、ありがとうございます」

「質問してもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

「ハイ、いまの「ええ」という解答でシュークリーム一個分のインシデント消費ね」

「いや、そんなことは、いいですよ。そんな」

「マイクロソフトのサポートセンターか!」

「あそこマジでそうだから」

「喫茶店で『このコーヒー、ぬるいので煎れなおしてください』とお願いしたら、
二杯分の料金を請求されたような感じだね」

「いえ、それはともかく、どうぞ」

「はい、あの、前の仕事は(事情により中略)のせいですごくキツくって、いまの仕事は(事情により中略)いくらか楽なんですけど、仕事の内容がつまらないんです。どうしたらいいでしょう」

「ええと、じゃあとりあえず『田舎で農業』をやってみましょうか」

「・・・・」

「・・・・」

「え、あれ? いや、すみません、じゃあ、いまのは無しということで」

「じゃあ、次に私が。天野さん
『ロリコン』というのは、どの辺からロリコンだと言えると思いますか」

 いきなり何を聞いて来るんだこの人はと思ったが、答えておく。

「ええと、昔きいた定義だと、一般的には
『対象年齢が12才以下で、かつ自身の年齢と12才分以上離れている相手を愛すること』かな?」

15才以下は『ロリコン』で、さらに8才以下になると『ペドフィリア』って言うのかと思ってた」

「最近はそういう風に変わってきたのかも」

「このへん、あいまいですな」

「あの、そう言えば、以前に『ロリータ』という映画(古い方)みましたけど。あれが本家だとするなら、現代的なロリータはイメージが変化してますね」

「ほう?」

「現代におけるロリータは「ルパン三世・カリオストロの城」の
クラリスに象徴されるイメージなんです。
 
純真無垢な少女を、スケベなオヤジが襲う・・・という図式ですね。
 で、元祖の『ロリータ』の方では、美少女が、家庭を持っていた堅実な中年男性をメロメロにしてしまう話なんです。こっちは、
 
小悪魔的な少女が、真面目なオヤジを翻弄する・・・という図式ですね。こっちが本当だったんですけど、カリ城が、イメージの塗り替えをしてしまったのではないかと思います」

「なるほどー」

「いや、私としては、
どっちでもいいんですけどね」

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

「そういえば、むかし、ゲームセンターで、manieraさんのDDRみてた、
ぷに萌え系の幼女が「すごーい、すごーい」って言ってたのに、manieraさん気がつかなくって、あとで教えてあげたら「なにー!」って血の涙ながして悔しがってましたもんね」

「ううむ、さすが
『クリスティーナ・リッチに殺されてえ』と言っていただけのことはある」

「manieraさん、炉のえらいひとに決定ー」

「そんな、別に・・・というか、私はただ、
つるぺたどじっ娘でないとダメなだけですよ?」

「それを普通、真性というんですってば」

「あと、あの、人生相談って、こんなことでいいんですか?」





さて、名古屋は大須に来たからには、夜はこの店に行かなくてはなるまい。そう
「飲食夜神・月天(がってん)である。
ここは、あいかわらず人気の居酒屋で、土曜ともなるとかなり混むようだ。「月天」では、
巫女さんに給仕してもらえることが最大の魅力なので、カウンターに座るわけには行かない。ボックス席が空く時間をまつ。そうして席の予約がとれたのは、夜も10時になるころだった。

さて「月天」は、前にも紹介したが、有名な巫女さん居酒屋である。
そして、
この一月末で、いったん店を畳むそうだ。そもそも、このオフ会は、Beeさんが月天に来たことがなかったので、企画されたものである。


席に座ってしばらく待つと、巫女さんが注文を取りに来る。でも、例の挨拶がなかった。

「お客様は神様です。何なりとお申し付けください」

これである。聞いた話では、そういう巫女さんに対して、卑猥なことを要求したクソ野郎がいたからだ、という説も流れていた。
真相はわからないが、あの愛らしい挨拶がなくなっていたのは、悲しかった。


「ところで、こういう店のお客さんって、みんな巫女マニアとか、その筋の人なんでしょうか」

「いや、割と普通の客が多いそうですよ」

「でも、前に来たとき、カウンター席にいた人が
2ちゃんねる用語を話してました」

「ほほう、すると・・・」


「いらっしゃいませ」

「巫女キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!(わーい、巫女さんだー)」

「巫女ごときで騒ぐ奴は逝ってヨシ(あんまり騒ぐな、みっともない)」

「オマエモナー(人のこと言えませんよ)」

「詳細キボーヌ(メニューを詳しく教えてください)」

「水うpキボンヌ(巫女さんが手を洗った水が欲しいな)」

「↑誤爆?(店が違うよ)」


「で、注文の料理を持ってくると」


「イタイ客がいるスレはここですか?(お待たせしました)」

「神降臨!(ありがとう)」

「巫 女 、 必 死 だ な ( 藁 (巫女さん、そこまでしなくても(笑))」




「って感じ?」

「いや、さすがにそこまでは・・・あと微妙に古いし」


ところで、月天にはじめてきたBeeさんとしては、もっと非道いものを覚悟していたらしい。北京原人みたいな巫女さんや、高価で不味い非道い料理が出てくるのではないかなど、やはり
イロモノ飲食店という先入感があったようだ。だが、閉店のせいか品数は減っているとはいえ、相変わらず料理の味はいいし、巫女さんも綺麗だ。店長はどこからこんな巫女を仕入れてくるのだろう。だが、その巫女さん居酒屋も、近日閉店である。その後、何らかの形でリニューアルオープンするという話だ。


「閉店したら、次はどんなコンセプトの店になるんでしょうね」

「どこかにウェイトレスの募集要項でも貼ってあれば、条件から推測できるんですけど」

『視力0.2以下』とかね」

「やはり
『眼鏡っ娘居酒屋・委員長』ですか」

「あるいは
『採用基準は身長130センチ以下』

『小学生居酒屋・ロリ月天』年齢は全員『設定は18才』ってことで」

廃刊覚悟で創刊されるエロ雑誌みたいな店ですねぇ」

「眼鏡とか巫女とか以外に、属性ってどんなのがあります?」

「む、ひらめいた!」

「はい?」

『妹居酒屋・おにいちゃん』! 従業員は全員妹キャラで、お客さんのことを『お兄ちゃん』と呼ぶ! 異常にフレンドリーな接客態度が売り! だがこの店・最っ大のポイントは、この時点ですでに『血のつながらない妹』であるという所!」

「またえらくピーキーな・・・」

「基本的に妹属性のない人には、
ほとんど受け入れられないという辺りが最大の問題だな」

大きすぎるわ

(でも、先の「M's Melody」では「おにいちゃん」「おにいさま」とよぶ期間サアビスがあったそうです。なんとかなるのでは・・・?)

「む、ひらめいた!」

「はい」

「妄想戦士ヤマモトでもあったけど、
『ドジっ娘居酒屋・転倒プリンセス』!」

「転倒?」

「目の前でウェイトレスが転倒して、
お店の大事な皿をじゃんじゃん割ってくれる!

「で、お客さんはそれをみて微笑む、と」

「店の中には
バナナの皮が敷き詰められていて、何もないところで転んでも、まったく不自然さを感じません!

「・・・そうか?」

「お客様ひとりにつき、何十枚ものお皿を目の前で割ってくれる(料金は枚数制です)から、もう
ドジっ娘属性の人間にはたまりません!

「じゃあ、採用基準は『ふえ〜ん』と困り顔で泣いてもウザくない娘で、ドジを見ていて微笑ましくなる娘ですか」

「こ、これは採用担当の腕が問われるなあ」

「そういえばさっきの巫女さん『こちらの料理はオーダーストップなんです。ごめんなさい』って言ってましたね。『もうしわけありません』じゃないだなあ」

「む、ひらめいた!」

「はいはい」

女の子に申し訳なさそうに謝られるのが好きな人のためのお店『謝罪居酒屋・ごめんなさい』! 店内でのあらゆる接客用語はぜんぶ『ごめんなさい』で統一! 『ごめんなさい、三名様ですか? こちらへどうぞ。ごめんなさい、メニューです。ごめんなさい、美味しくないかも知れませんけど、お料理です』もう、なにを謝られているのか分からなくなって来て最高! どこかで誤魔化されているような気がしても、お客さんは鷹揚に『いいんだよ』とか『がんばりなさい』とか返答することで偉そうな気分に浸れるという! あ、manieraさん、嬉しそう。ひょっとして、つぼ?」

「いや、そんな。でも『ごめんなさい』っていいですねえ」

「以前に日記で拝見した、
南央美サイン会での『バカばっか』みたいだ」

「あと属性というと、年上とか?」

「む、ひらめいた!」

「はいはいどうぞ」

「ずばり
『年上居酒屋・おねえちゃん』! 従業員は、みーんな年上のお姉さん!!」

「ふつうの飲み屋じゃねえか」



ダメ気味に白熱した議論をかわしながら料理を楽しみつつ、2時間ほど巫女さんを眺めて過ごす。

月天には変な名前の料理があって、面白い。
たとえば「夕日にうかぶ白い満月」というのは、何かが入った球状のおろし大根を、唐辛子ソースの上に乗せたものである。
中身が何なのかわからないのが楽しい。

「ではわたくしのイワヤマリョーザンパで」

とナイフで二つに割って食べる。中はローストビーフが詰まっていて、これがまた美味だった。しかし、こう料理がうまいのも考え物で、巫女さんを愛でに来たはずなのだが、
違う欲望がどんどん満たされていく。

今日は、給仕係として、二人の巫女さんがいたようだ。
ひとりは黒髪で、かわいい巫女さんだった。もうひとりは茶髪だったので見向きもしなかった。
断っておくが、わたしは茶髪がダメなのではない。
「巫女さんで茶髪」というのがダメなのだ。

そういえば、今年の正月は天気がよかったせいか、近所の神社では、お賽銭がたくさん入ったと聞く。
でも、バイトでもいいから、
これくらいのクオリティの巫女さんの一人でも装備しておけば、その神社は、かなりの外貨を稼げると思うがどうだろう。




そんなことを話ながら、閉店が近くなったので、お会計をする。
レジに立ってくれた巫女さんに訊いてみたところ、「月天」の閉店後は、自然薯(じねんじょ)をメインにした飲食店をやるそうだ。店のコンセプトを変えるだけで、スタッフは変わらないらしい。

「でも、どんなお店になるかは、お客様の御要望次第です」

三人の頭のなかで「眼鏡!」「ショートカット!」「チャイナ!」「貧乳!」「転倒!」「謝罪!」など、
いろんな単語が思うさま飛び交っていた。ここにテレパスがいたら目を回しただろう。

「月天」がどんな変貌を遂げるのかは、わからない。
ただ、個人的には、レジに備えてあった「メガネスーパー」のチラシが、未来の何かを暗示しているのではないかと思えて仕方がなかった。というか思いたかった。




さて、てっぺん(12時)回った後は、カラオケである。
しかも今回は、久しぶりの
徹夜カラオケだ。

だが、土曜の夜はさすがに混んでいるらしい。順番待ちでやっと通された部屋は、カウンターのすぐ横、つまりスタッフや入店客や、待っている人とかに、
歌声がモロに漏れ聞こえてしまう場所だった。しかもそこは、子供向けのメルヘンな内装が売りのいわゆる「キッズルーム」である。

だが、
おかまいなしに「ロボット刑事K(水木一郎)」を熱唱する天野がいた。
スタッフが飲み物を持ってきても、なんら動じるところなく歌いあげた。

Beeさんが
「絶唱! カラオケマンの歌(山本正之)」で続く。

そして
「電気ビリビリ(電気グルーヴ)」を、manieraさんがテンポ+3な上に息継ぎ無しで歌っていた。

キッズルームだけに銭湯の椅子くらいの高さしかないミニソファから半立ちになって、爪先もはいらねえキティちゃんのスリッパ(サイズ:15センチくらい)を蹴飛ばして、次々に歌う歌う。
壁のすぐ外、曇りガラスから見えるくらいの位置で、空き部屋を待っているナウなヤングどもに、
あえて聞こえるように「ゲームセンターあらし」とかを吼えるように歌った。連中には歌詞の矛盾とか分からないから大丈夫と開き直って、そのまま「快傑ズバット」も歌う。Beeさんが「アーウーオジャママン」と、これも一般の人間にはほとんどわからない歌を熱唱。分かっている人間爆笑である。天野が「眼鏡の委員長」を歌いあげて「ああ、自分を解放するって、キモチイイなあ!」と笑顔でいると、manieraさんが筋肉少女帯の「日本印度化計画」をこの歌詞で歌いだした。


「基本冥土化計画(編詩:サンフェイスさん)


基本をメイドにしてしまえ!

俺にエロゲをやらせろ
俺はいつでも メイドにこだわるぜ
俺にマンガを読ませろ
俺はそこでも メイドにこだわるぜ

秋葉原で見た バンダナの男よ
俺をいざなえ キュアメイド・カフェに

For away tonight fever !
Natural high and trip !
For away tonight fever !
Natural high !
萌エマス 萌エマス
基本をメイドにしてしまえ!

俺をメイドに会わせろ
幸の薄さが 俺をハイにするぜ
俺をメイドとやらせろ
胸の薄さも 俺をハイにするぜ

東館で見た サークルの女が
コスプレ広場で エプロンを着てた
For away tonight fever !
Natural high and trip !
For away tonight fever !
Natural high !
萌エマス 萌エマス
基本をメイドにしてしまえ!

俺を屋敷に住ませろ
俺はいつでも ご主人様に
富と権力(ちから)を持たせろ
俺はいつでも ご主人様に

相鉄線に 飛び込んだ作者の
最後の言葉が 「お尻を出せおしおきだー!」

Excite !
Natural high and trip !
Excite !
Natural high !
萌エマス 萌エマス 萌エマス 萌エマス ……
基本をメイドにしてしまえ!

 巫女さんもいるでよ〜♪


歌詞カードは
サンフェイスさんのサイトからプリントアウトして持ち込みしているという入念さである。
対象年齢0〜3才くらいの知育オモチャや、イルカの壁紙、アルファベットマットのひいてあるラブリーな子供部屋で、
血管うかせてmanieraさんが歌う。


一同の感想。

サンフェイスさん天才。


つづいてmanieraさんが「LOVE LOVE SHOW」を歌う。とうぜん歌詞は以下のとおり。



「MOE MOE SHOW」


「お兄ちゃん…」

あぁ あなたが欲しいよ そっち行きてぇ
さあ 萌えるよ ココロはビョーキがちさ

この世界 どこにもいないさ(あなたは)
生まれてきた妄想
ゴキゲンよっ

「萌えキャラが隣にいる」だとか言ったら
疑われるけど がんばっちゃうもんね
僕らは兄で父親さ どちらも萌えの化身だよ
今日も明日も脳内で
LOVE LOVE しよう

さあ おいでよ イケナイ遊びをしよう
ねえ 踏みなよ 私はあなたの床

その靴下を 頭に乗せてよ
いつまでも しゃぶるよ
ごちそうさま

「萌えキャラは自分のもの」だとか言ったら
嫌がられるけど それもあるんだよね
できない転向はできない 誰の指図も受けません
会社バレには気をつけて
MOE MOE しよう

雨が続いて カミナリなって 電源が落ち データ飛んでも
あなたのために萌えを綴ろう 今夜はとてもキレイだよ

「萌えには形がないよ」とか言うけど 
触れたくなったら 抱き枕だよね
実在キャラじゃないけれども 萌えは湧き続けるだろう
それじゃさよならお元気で
MOE MOE SHOW
MOE MOE SHOW…



替え歌というのは、歌詞をウェブ上で見ていてすら、
実際に聴くとその破壊力は数倍に跳ね上がる。
「眼鏡の委員長」では、歌詞をしっていた二人が、
それでも悶絶していた。
この種のカラオケの楽しさは、たぶん、歌詞を読んでるだけでは半分もわからねえ。

爆笑ネタが続くせいで、
歌っていないときの方が苦しいくらいだった。



Beeさんも、平井堅の「大きな古時計」の替え歌で応戦する。


「大きなマルチの抱きまくら」

1.

大きなマルチの抱きまくら、manieraさんのまくら
毎日だいてかわいがった、ご自慢のまくらさ

五年前の冬のコミケで、買ってきたまくらさ
いまは、まだ、うごかない、manieraさんのまくら

毎日だきついて、ゴロゴロゴロゴロ
右に、左にゴロゴロゴロゴロ
いまは、まだ、うごかない、manieraさんのまくら



「おー、うまいうまい」天野が拍手する。


2.

ピイイイイイイイイイイイ検閲な抱き枕、manieraさんのまくら



「おい! ちょっと待て!」


(ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ:検閲)った、ご自慢のまくらさ


「自慢してねえって!!」

「マルチがいなかったら、犯罪者になっていたかも知れません」と真面目に語っていたmanieraさんでも突っ込まざるをえない歌詞だった。


それにしても、いろいろな替え歌があるものである。

このほかにもBeeさんは
「はじめ人間ギャートルズ」で「ヤ●ザ人間モモンモン、恐喝カツアゲモモンモン、白い粉だよモモンモン、弾が流れるモモンモン。銃の密売〜モンモンモ〜ン。ガサ入れだー」と、銭湯では「ピクチャーマン」などとも呼称される人種についての差別的な歌を歌ったりしていた。


替え歌となると、天野の持ち歌はあまりない。ちょっと方向性が違ったが、お二人とも「ヨコハマ買い出し紀行」は読んでいるようなので、それ前提で「大きな古時計」の替え歌を歌ってみた。


緑の髪のA7 「初瀬野アルファ」さん。
西の岬にずっといた、美しいロボットさ。
オーナーが帰ってくるのを、ずっとまっていた。
いまはもう動かない その微笑み。

100年やすまずにチクタクチクタク。
オーナーを待って、チクタクチクタク。
いまはもう動かない その微笑み。

まわりの家が消えても、彼女は残っていた。
オーナーが帰ってくるのを、ずっと待ってたのさ。
ひとりのときも さみしいときも ずっとずっとずっと・・・。
いまはもう動かない その微笑み。

ひとりのときも さみしいときも ずっとずっとずっと・・・。
いまはもう動かない その微笑み。

月琴の弦が不意に切れた。お別れを告げたのさ。
アルファ型のその限界が、すぐそこにきていた。
思い出を閉じる(天国へ昇る)アルファさん。カフェアルファともお別れ。
いまはもう動かない その微笑み。

100年やすまずにチクタクチクタク。
オーナーを待って、チクタクチクタク。

いまはもう動かない その微笑み。

いまはもう動かない その微笑み。






いかん。

なんか、しんみりしてしまった。

「夕闇の時代」準拠の歌なので、夜想曲を知っている人の前でしか試せない。いい機会かと、ここで歌ってみたが、Beeさんが
「かえってきたヨッパライ」を、ノンエフェクトでそっくりに歌っているのとか見ていると、やはりここは明るい歌で行くべきだったろうか。

manieraさんとBeeさんは、すごく仲のいい友人同士で、歌なんかもよくハモっている。
終始裏声で歌わざるを得ない
「Earth , Wind and Fire」や、意外に燃える「流星人間ゾーン」など、お見事なものだった。


振り返ると、三人とも
特撮ソングが多かったと思う。
特撮というと、まだ子供向けだと考えられている傾向が強いらしく
「ウルトラ警備隊のうた」など、1967年の歌なのに、表示される歌詞は御親切にぜんぶひらがなである。思えば、やっと、このピンクと黄色で統一されたキッズルームらしい歌が鳴り響くなあと思ったが、実際にこの歌を選んでいる利用客の多くは、いい大人なのではないかと思う。現に私の横で歌いに歌っているのは、特撮マニアと怪獣オタクだ。

「ガメラマーチ」など、その際たるもので「ガメラー、ガメラー、いかすぞガメラ! いかすぞガメラ! いかすぞガーメーラー!」というあたりなど、ほとんどヤケクソでないと歌えない。というか、この頃すでに四時間ほど歌いっぱなしだったため、イイ感じに酸素欠乏症になっていたから逆に気持ちいい。鉄道愛唱歌みたいに何番も続く、コピペしたような単純な歌詞が、妙にたのしかった。

ゲームの歌もあったが歌えそうなのは、To Heart 主題歌
「 Feeling Heart」くらいある。だが、これは当然ハングルで歌った。歌詞はみないで歌えた。(これ、ちょっと難しいネタかも)


最後の最後に、manieraさんが「楽園」を選曲。
これも、当然のようにサンフェイスさんの替え歌歌集で歌った。



「有明」

プリペイドのカードを持って 大きな荷物で
有明に行こう 有明に行こう ゆりかもめで
僕らは大事な時間を意味深く削ってた
カタログのチェックで

冬の日も夏の日も並んでしまうよ
Big Sight いっぱい分の同人誌を漁りあおう
君が思うほど僕は薄いマニアじゃないぜ
萌えと諭吉と欲望を この両手いっぱいに

赤い朝日を浴びて隅田川を渡ろう
そして遥かなあの自由な聖地へ
ひとりきりもいいだろう サークルでもいいだろう
夜はオフで会おう 好きにやればいい

いつか僕らも大人になり老けてゆく
MAKE YOU FREE 永久にヲタク
ボリュームを上げ物欲の波動が
国際展示場前を静かに駆けぬけてゆく…

君が望むのならば淫らな本もいいだろう
ヌいて捨てるほど18禁はある
大手は買えないだろう 企業も売り切れだろう
それじゃ悲しいだろ やるせないだろう

いつも戦果はヤフオクで競られてゆく
MAKE YOU FREE 永久にヲタク




やっぱりサンフェイスさんは天才だと思いながら、カラオケ屋が閉まるまで歌って、店を出た。朝の5時だった。
そのままmanieraさんの部屋にもどって、いろいろ話し込む。

この時間になると、もう、
一日の濃さとか相まって何を話していたのかよく憶えていない。
痕Rの絵の変化についてひとしきり語らった後、サンフェイスさんのテキストを肴(さかな)に盛り上がった。

「サンフェイスさんってすごいですよね」

「あの人のテキストとかヴァーチャル東尋坊を読んでるうちに
『ああ、私も志摩子さま(マリみて)になら踏まれたい』と思うようになってしまいましたよ。もちろん『ごめんなさい』と言われながら! ちくしょう、サンフェイスさんは、私の被虐属性まで開発しやがった。しかも、テキストだけで!」

「ううむ、やっぱり凄い人だ」

こんな話をしながらふと思ったのだが、サンフェイスさんを出汁(だし)に盛り上がる我々は、アイドルの苦労も知らずに騒ぐ
迷惑な非公認ファンクラブに似ているなあと思った。

ところで、このメンツでしきりにサンフェイスさんの話がでるのは、ある意味とうぜんのことである。
三人の共通点が、サンフェイスさんのサイトにあったからだ。

Beeさんなどは、夜想曲を知るきっかけは、サンフェイスさんの文章だったそうだ。
はじめて読んだのが、あの「萌えの記憶」らしい。大変なショックだったそうだ。Bee氏は、
それなりにネットジャンキーだそうだが、その日は、他のサイトにつなげなかったそうだ。それくらいに、その文章はショッキングだった。

そして、トップページに飾られている天野のイラストで、「夜想曲」のことも知ってくださったらしい。
「あの絵を描いた人がここにいるんだなあ」と、Beeさんはしきりに感心していた。
なんかこそばゆいような、変な気分だった。



ところで、Beeさんは、自身の日記に妄想キャラを登場させている。
こういうスタイルの日記は昨今多い。そして、日記に対する苦情として、まれに変なメールがくるという話をしてくれた。

『○○ちゃんはオレのものだ。勝手に使うんじゃねえ』という趣旨のメールである。

苦情の主はきっと、そのキャラへの想いが熱かったのだろう。
だが、こうしてそのままぶちまけるというのは、あまりに
無粋というものではないだろうか。
「他人の妄想」という精神の遊びを、楽しむ度量をもってほしいと思う。

これは、上述のような他者への批判に限らない。
キャラを愛することにしても、関連グッズを集める行為にしても、自分で萌え文章を書いたり萌えイラストを描いたりする創作活動にしても、そのキャラクターへの愛情にかけて、無粋であってはならないと思うのだ。

「萌え」は、キャラクターへの愛情として、それぞれの心のなかで、熱く燃えていればいいだろう。
だが、萌えを追求するときの姿勢は、無粋という言葉の逆を取って、あくまで
「粋(いき)」であるべきだと私は思うのだ。

マナーを守って、でもなく、美しくエレガントに、でもなく
「粋に」



「粋」というのを説明するのは難しいが、例えば、生活を切りつめても、遊びの金はサラッと出すのが粋だという江戸時代の遊び人精神というものがある。そして「萌えを楽しむ」ということは、この遊び人精神の現代版ではないだろうかと思う。

「いまでも、
遊びに使うお金をケチるのは、粋じゃないって言いますよね」

「ええ」

「だから、追っかけているサークルの同人誌は
値段を見ないで見萌即購(サーチ・アンド・オカイアゲ)とか、好きな声優さんの出演作は昼飯を抜いてでも全巻入手する、っていうのは、とても粋なことだと思いますね」

「ううむ、なるほど」

「こういう人に対しては
『漢(おとこ)だ』と賞讃するより、私は『粋だねえ』と声をかける方がしっくりくるような気がします。私だけかもしれませんが」

「いや、分かりますよ」


そんなことを話したりしながら、時間をすごす。話は際限なくつづいたが

「あー、そろそろギャラクシーエンジェルの録画しなきゃ」とゆーくらいの時間

になって、ようやくこのオフ会はお開きになった。





帰りの電車に揺られながら、徹夜明けの頭でぼんやりと思う。
それにしても、今回のオフは、
最初の接触からの対面までのスピードが尋常ではなかった。

更新再開直後にBeeさんが書いてくれたうちの日記の感想。それへのレスとしてBeeさんとこの掲示板への書き込み。数通のメール交換。IRCでの短いチャット。その場で会う日取りを決めて、以降連絡無し。互いの日記は読んだが、ネット上ですらろくな情報交換もなかったはずなのに、なんで私はこんなに溶け込んでいるんだろう。不思議だ。これも縁というものだろうか。

今回のオフで、初めて会った人ながら、3人ともだいたい、それぞれの持っている属性とかが分かったと思う。つぎにあう機会があったら、いろんなオミヤゲを持ち寄れるだろう。

名古屋と岐阜という近さもありがたいので、ちょくちょく会いたいものだ。









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2003.01.25 sat「みのりちゃん誕生」


黒天野「えー、夜想曲は、マンガ・アニメ・ゲームなどのCGをメインにしてきたわけですが」

白天野「ハーメルン、ヨコハマ、Kanon、AIR、マリみて、と来て
『農業』か・・・」

「たぶん、農業で検索して来た人は、
こんなページで戸惑うんじゃないかなー」

「というか引くだろうな」

「あと、掲示板は分けないと混乱するでしょうね」

分けても混乱するわ

「じゃあ、あれだ。マニアックなお客さん向けに、
ねりこちゃんのときみたく、農業コンテンツのイメージキャラを作ろう!」

「じゃあ、農ちゃんと書いて
『みのりちゃん』とか」

「あと、
こんどこそマスコットキャラをつけないといけないな」

語尾に変な言葉がついてる小動物系のやつね。ムギ丸みたいな」

「まあ、語尾には
適当な農業用語をつけておこう」

「今度のはいいぞー、健康的で」

「ねりこちゃんはプラモの国のお姫様ということで、
プラスチックとシンナーと塩化ビニールの国の住人だったから」

「うわー、
住んでるだけで吐きそうな国・・・」

「まあ、それはともかく」

 『みのりちゃん、農協出荷前の二週間は農薬つかっちゃいけないジベレリン!』

 『うるさいわね、そんなの、
黙ってりゃわからないわよ』

 『何てこというネダニ! そんなことで日本の農業が発展していくと思ってるのかロックウール!』

 『現に『農業やる気発掘セミナー』で会った
■■■■■■■■さんの知人は■■■■■■の出荷のときしらばくれてたわ』

 『やめるマルチシート! 
いまのはホントにシャレにならないプラシノステロイド!!』

「農業用語が尽きたら終わりだなこの企画」

 『なに言ってるの! 一番美味しい時期に二週間も農薬使わなかったら虫にやられちゃうでしょ!? 売れなくなったら、あんたの電気代どこからでるのよ!』

 『そ、それはそうだけドルマント・・・』

「おい、このマスコット、
農業のキャラなのに、電動だったのか」

「精霊かなにかだと思ってたが・・・。いや、むしろ農業だと
発動機で動くほうが向いているか?」

「とにかく、こんな感じで
毒舌キャラにして、農業の恐ろしさを語らせると面白いかもしれない」

「しかし、
農業人口の減衰に拍車をかけるベクトルのような気がするぞ。ただでさえ夜想曲(9ヶ月の夏草戦記)は農業関係者に『鬱になりますね』とか言われてるんだし」

「だから一年間かけて、みのりちゃんが
真の農業に目覚めていくという・・・」

「また
全52話の予告編企画を作るのか」

「今度のは難しそうだなあ」

「だいたいこのキャラが戦う
って、いったいなんなんだ」

「俺は個人的に、
大自然の巫女が出したい!」

「おお」

「自然とお話が出来る敵の女幹部! そして
巫女服! 黒髪! ストロング(ストレートロング)! あと眼鏡!

「どう見ても
こっちの方が主役っぽいぞ。たぶん萌えるし」

「で、4クールの末に見事、彼女を打ち破ったみのりちゃんは、真の農業に目覚め、大規模農園の経営者になって
■■■■■■■■■■■■社長と契約し、■■■■■■■■■産業の花形になり日本の食文化を根底から破壊していくという」

「破壊してどうする。おい、もう止しとけ」

「番組のキャッチフレーズは
■■の野菜はよーっっっく洗ってから食べてね! でないと死ぬよ!』

「やめろーっ!」





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2003.01.28 tue「馬鹿な話をする大切な大切な時間」


先日、ふたたび、Bee(びー)さんmaniera(まにえら)さんと会った。

今回あったのは、二人が憧れとともに切望していた「萌え文集(1・2)」と通販元の美森勇気さんから送ってもらった同人ゲーム「O157
〜輝く季節へ〜 」を届けるためであり、また、前回あったときに購入したPC用に、メモリ(128MB)と内蔵ハードディスク(120GB)を買うためでもある。
合流の後、大須であらかたの買い物をすませて、昼食をとりに、大正時代風の飲食店「こすたりか」へ行った。

ところで、manieraさんは、Beeさんと私からのしつっこい要望に根負けして、
最近ようやく「ガンダム(劇場版三部作)」をみたとのことである。「これでやっとまともな会話が出来る」とばかりに「こすたりか」で席につくや、ウエイトレスを待たずに私は宣言した。


「えー、
第24回『ジオンはなぜ連邦に負けたのか』会議を開催します〜」

「そもそも、一年戦争においてジオンは負けたのでしょうか」

「ジオンは、
ザクレロの量産さえ成功していれば勝てたのだ!」

「あとゲルググでなくギャンを量産ラインに載せて最終的に
『ギャンタンク』さえ開発できれば・・・!」

そこまで宇宙戦に不向きな開発バリエーションも珍しいが、その辺はまあ『濃爆おたく先生』にまかせておきましょう」

「ところで、manieraさんが
『幼なじみ』であるという一点でフラウ・ボウ萌えであり、『ツインテール』であるという理由でミハル・ラトキエ萌えというのはいかがなものか」

「ええっ 変ですかあ?」

「「 変です 」」


モノトーンの制服が素敵なウエイトレスさんが注文を取りに来たので、会議を中断。三人そろって日替わり定食を注文する。しかし、ドリンクの指定が違うだけなのに、ウエイトレスさんはひどくもたついた。ハンディターミナルで、何度かエラーを出し、幾度も確認をしてやっと注文が通る。

ドジっ娘属性のmanieraさんと、ごめんなさいマニアの天野さんとしてはどうですか」

「うーん、ダメですね」「ええ、いまのはいけません」

「やはり、
微笑ましいドジっ娘でなくては」

「でも、あれで最後に
『ごめんなさいなのだー』と望月久代の声で言ってくれればとりあえず全てゆるせそうですけどね」

「あ、でもあの背の低いウエイトレスさん、ちょっといいよね」

「エプロンのひもが
縦結びだったあたりに萌え

「それにしても、こんな客やだろうなあ」


ここを舞台に漫画とか描くなら、ヒロインの名前は
「小須田梨香」しかないと「インカちゃん」を思い出しながら考えつつ、日替わり定食を食べる。揚げ物が多かったせいだろうか「こすたりか」の定食は、見た目以上に食べ応えがあった。


「えー、食事も終わりましたので、
第42回『manieraさんのマルチ萌えについて語る』会議を開催します〜」

「それにしてもmanieraさん、あんた、
もしマルチがホントにいたら、完全にダメ人間だよな」

「うわ、そんないきなり核心をついたことを」

「うん、家からでないよ」

「・・・・manieraさんも即答するし」

「それにしても、マルチが嫌いな人なんているものでしょうか」

「18禁版ではHシナリオがあったから、マルチの存在理由として気になってしまう、という人はいました」

「Hシナリオといえば、Kanonの栞のそれは『短期間で関係に至る』という意味では必然性がありましたよね。(ネタバレ)
彼女に残された時間はわずかしかなかったから」

「もちろん、なくても、というか
ない方がシナリオとしていいのですが」

「ところでリーフが『 To Heart 』を作ったのは、『幼なじみ』とか『眼鏡の委員長』とか『メイドロボ』とかの
王道を固めておこうと思ったからではないかと思うんですが」

「あれが売れたのも、こういうのがほしいと思っていた人が多かったからでしょうね」

「そういえば『らいむいろ戦奇譚』でも、シナリオのあかほりさとるが言ってましたよ。
このゲームは、みなさんが考えている通りのゲームです。
 想像もしなかったような展開は
一切ありません』て」

「そういう
狙い打ちゲームの方が売れるんでしょうかねえ」

「でも『らいむいろ』あんまりいい評判ききませんね。
ダブルJガイルとか、売上倍増(でもぽりりんのギャラで)コスト三倍! だとか」

「エルフも苦労してるなあ」



「こすたりか」でそんな話をしつつ2時間ねばってから、今度はケーキ屋へ向かう。



「えー、移動の車中ですが、
第108回『罪悪感のないロリ萌えに意味はあるのか』会議を開催します〜」

「今度のも manieraさんの独壇場か」

「現実において『罪悪感のあるロリ萌え』はシャレになりませんのでこれはともかくロリは見た目幼いだけではダメです分かりやすく言うと単にメイド服を着ているだけのコスプレ少女とお屋敷に住み込んで働いているメイド服を着た少女とは決定的に違いますよねこれは巫女さんも同じですしロリも然りなのです私が何を言いたいのかというとつまりそういう理由で『はじるす』はヌルいということです」

「おい、誰か止めろ」


ケーキを買ってから、
リッジレーサーの敵車が安全運転指導車に思えるくらいには荒れた名古屋の交通マナーを尻目にmanieraさん家へ向かう。

manieraさんの部屋は、本人が
「小学生が一人で住んでいるような部屋」というくらいで、同レベルの人間には非常に居心地がよい。

こういう部屋の特徴として
「メシに行こうと言い出してから食えるまでにだいたい2時間かかる」というのがあるが、ここでもそうだった。「ピザでもとろうか」という話になれば「ピザと言えば天野がむかしやってたドミノピザ(のバイト)では、赤いレインコートがまるで逆シャアのサザビーみたいで」とすぐにガンオタ話にひったくられ、飯の相談が全く進まない。この日も食事出発までには、かなりの時間を要した。

近所のうどん・そばの店に入り、それぞれのことを、いろいろ語る。
ネタ話だけではなくて、自分の人生のこととかちょっと語ることができた。

「気をつけても無駄」なカレー南蛮が美味かった。
あたたかな充実した時間だった。





このオフ会の翌日、クロカワの新年会にも顔を出した。
いちおう、その場で、クロカワでの就職先もいくつか紹介された。
いよいよ、クロカワでの生活が始まるんだな、という実感が湧いてくる。

ただ、不安はいくつもあった。「仕事」と「一人暮らし」を慣れない土地で始めるということ。まあ、これが一番さいしょに思いつくところだが、おそらく最も深刻なのは
「田舎にはオタクがすくねえ」
ということだろう。

新年会の帰りの車中で
「いねえんだよ、ゲームとかアニメとか漫画とかの話ができる奴が!」とひとり叫びながら、やっぱ、これが一番きついかなあ、と真剣に思う。


正直、寂しいのだ。

田舎で暮らすことを決意できた要因は、なによりインターネットの普及にあった。
現在、天野にとって
友人と呼べる人の半分以上は、ネットで知り合った人間である。
南は九州、北は北海道、海外に住んでいる日本人もいれば、本物の外国人もいるため、いま住んでいる土地から移動しても、友好関係がほとんど変わらないと思ったのだ。

インターネット環境があれば、極端なはなし、どこにいっても友人とのコンタクトがとれる。
ネットの普及は、世界を狭くしてくれているのだ。

Beeさんや、manieraさんたちと会えたのも、そういうネットの縁である。
そして彼らは、会える距離圏内にいる、
貴重な実体の友人だ。
たまに会って、アニメやゲームをネタに、このオフ会みたいな馬鹿な話をしたいのだ。

だが、ほんの50キロほど都心部から反対方向に離れることで、彼らと少しでも会いづらくなることが、それでも寂しかった。

自分の欲深さから出た田舎暮らしだ。これ自体に不満はない。
だから、その距離をおして、なんども会いに行こうと思う。
岐阜の友人にも、名古屋の友人にも、もっと遠くの友人にも。

そう思ったオフ会だった。




おまけ

Beeさん、manieraさんとのオフ会から帰ってきて、
重大なことに気がつく。
と同時に私は分裂していた。

黒天野「あっ しまった! 大須まで行ったのに、
シエル先輩フィギュア買い忘れた!

白天野「ちょっとまて! 臨時収入があったとはいえ、今月はPCやハードディスクとかで
出費が多すぎる! もう、これ以上の買い物はダメだ!」

「しかし、シエル先輩のフィギュアだぞ! しかも前回のmanieraさんのオフ会日記で
『愛<財布』とまで書かれてしまったんだぞ! ああ、許してください先輩!!」

「俺たちは今後、クロカワで
『お金を使わない生活』を目指して行くんじゃなかったのか!? 大々的に日記にも書いたろう!! そんなことでやっていけると思っているのか!!」

「う、ぬうぅ・・・」

「まあ、ここはあきらめよう。な、そうそう大須まで行くわけにもいかんし」

「わ・・・・」

「わかってくれたか?」

「わかってはいるが、わかるわけにはいかん!」

「あ! ちょっとまて! 財布ひったくって走るな! ていうか『そっちの欲深さ』は、なんとかしとけ!」



こんな天野さんは





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2003.01.31 fri 「ヨコハマ買い出し紀行・新作OVA」


(※)

今回の日記には、一部、ものすごいタイミングで現実の方が重なってきた、非常に不適切なネタがあります。
事件以前の、当時の会話を掲載したものですが迷った末かきました。あくまでネタとしてお楽しみください。

スペースシャトル・コロンビアの乗員に、慎んで哀悼の意を。




ロメオさんマンデリンさんと会った。貸していた本をかえしてもらうのがきっかけになった、ミニオフである。

たしかこの三人の共通点とえばヨコハマのはずだったが、
なぜかギャラクシーエンジェル(GA)の話になった。

「あー、わたしまだGA第一期しかみてないわ」

「面白いんだけど、あんなんでいいのか・・・?」

「聞いた話ですが、脚本が
『GAだからいいか』という基準で通るらしいですよ。で、普通のアニメでああいう投げっぱなしの脚本を出すと『GAじゃないんだから』ってリテイクがくるみたいですね」「それもたいがいスゴイな」

「投げっぱなしというか『この後どうなったの?』っていう説明も無く、
なにもなかったかのように次の話だからなあ」

「前のオープニングが象徴してるように、GAは
毎回が第一話なんですよ」


ガストでプラスe の「藍より青し」15パズルとかやりながら、ロメオさんが行ってきた海上自衛隊輸送艦「おおすみ」の見学レポートの写真などを見つつ、いろいろ話す。せっかくなので、天野は、manieraさんにも聞いたテーマについて、彼らに質問した。

永遠に生きるロボットがいるとして、それは人間そっくりの精神や肉体をもっているとして、ものすごく愛した人と死に別れたあと、彼女はどうしたらいいと思いますか。
(「永遠の死別」参照)

例によって、このテーマである。ある程度この話題に関心をもっていそうな人には、機会があればだいたい聞いているような気がする。

いま、ヨコハマの世界をベースに、愛するオーナーを失ったロボットについての小説を書こうと思っている。
だが、この小説は、もとは「わかれのとき」を膨らましているだけだし、いくつかの描きたいシーンの連続しかプロットがない。
女性型ロボットの一人称という特殊な視点で描くという変なスタイルで考えており、また、新聞小説みたいな短いエピソードの連続ですすむ物語になるだろう。まあ、日常アニメみたいな感じだ。

だが、その
終わらせ方がどうにも思いつかなくて困っているのだ。

主人公のロボットが、
そのときどんな精神状態になるのかで、物語は終わり方を確立するだろう。
だから、そのロボットが
どんなことを考えるのか、またオーナーが彼女にどんな影響を与えるのか、それをしっかりと考えておきたい。


話を戻して
「自分は死期が近い。その自分を慕ってくるロボットのオーナーだったら、どうするか」彼らに聴いてみる。

マンデリンさんはロボットの人格問題の場合、かならず、小松左京の
「虚無回廊」という小説が浮かんでくるそうだ。
ネタが被らないように、あらすじを確認してみる。私のささやかな小説とは、あまりにスケールが違うので大丈夫そうだった。ただ、話を聞いているうちに読んでみたくなったので、ちかいうちに購読しようと思う。

小説の方で参考にすると思うので書けないが、このときはオーナー的立場からの、いろいろな意見がきけた。
だが、ロボットの方の心情が相変わらず掴みきれない。これと言ったラストシーンの参考にまではならなかった。

「ああ、どうすりゃいいんだろう」
「この子がオーナーと死に別れたあと、どうすればいいと思う?」
「というかお話の閉め方がおもいつかん!」
「そもそも現時点では、終わり方なんてどうでもいいんだ。私としては主人公の気持ちが描ければいいんだから」

天野がひとりでもだえる。ロメオさんが気を使って話題を変えた。

「ところで、これ、オリジナル設定なんですか?」

「いや、ヨコハマの世界に準拠してるんです。でも、アルファさんもココネも出てこないから、これだけの独立した話にしたいです」

「じゃあ、主人公がふと空を見ると、ターポンが飛んでいるとかして、つながりを示唆するくらいが控えめでいいですね」

「そうだ、
最後はターポンがおっこちてきて、なにもかもうやむやに終わるっていうのは!?」

「うわー、
すげえエンディング」(※)これです。すみません。

「天野さん、実際の時間的にこの会話は事件より前だが、いまだけは
そのネタやめとけ。あと、このままだと、新井素子っぽい話になるぞ。『ひとめあなたに』みたいな」

「それに一話完結で長く続く物語が、そんな終わり方でいいのか」

「じゃ、一話完結で、
毎回ターポンが落ちてきて終わる!」

「いや、ちょっとまって」

「GAじゃないんだから」

「というか、それいつかの
毎回タカヒロ・Iさんが死ぬ日記みたい」

「あー、あれは
落とし所が決まっていたから楽だった」

「というか楽しそうでしたね」

「うん、とりあえずロボットの小説を書き始めてみるか。で、最後まで思いつかなかったら、
ターポン出して、あとは読者の想像にまかせよう」

「だから、いいのかそれで」



というわけで、現在も同テーマについて考察中である。「わたしがオーナーならこうする」あるいは「こうなると思う」「主人公のロボットはこう感じると思う」など、独自の意見があれば、メールや掲示板などに書いてみてほしい。



その後、マンデリンさんの部屋で
「戦闘妖精雪風」のビデオをみる。
原作を読んでなくても、だいたい何が起こったか分かるが、それでも
あのエンディングテーマだけは台無しだと思った。
三人でみていたが、三人とも
あのイントロで「うっ」と動きが停まってしまうくらいには台無しだった。

人間のドラマパートは、
どこからでもホモエロにもっていけそうな絵とシチュだと思う。
GONZOがやってるだけあって青6っぽさが抜けないが、戦闘シーンは割といいと思った。



先日テレビ放映した
「千と千尋の神隠し」の感想もいろいろ話した。
劇場公開版を見に行ったわたしは、それほど期待してなかったので普通に楽しめたが、テレビ放映の場合は、前評判を前半30分で流しまくった挙げ句にスタートしたせいか「期待したほどでもなかった」という人もいたようだ。世界的に絶賛されている評価に比べて、それほどでもなかった、というところだろう。

「最後にもうひとつ、なにかひねりが欲しかった」という感想を両者から聞く。私の場合、前に見たのが一年半前なのでよく憶えていないが、今度見る機会があったら、その辺に気をつけてみよう。

個人的には、
宮崎監督にはまた戦争物を作って欲しい。ちょっとまえに読んだ「泥まみれの豚」はすごく面白かった。もともとこの人は「右手で美少女を描き、左手で戦闘兵器を描き、口ではエコロジーを語る」という合体怪獣みたいな人なのだから、いっそ本人もテレビをみて大激怒したという「陸上防衛隊まおちゃん」をリメイクしてみてはどうだろうかと罰当たりなことを考えてみる。


その後、先日発売されて、あちこちで物議を醸した
「ヨコハマ買い出し紀行」の新作OVAをみた。
背景の草の感じがいいなあ、とか思いながら見ていると、いきなり
ココネさんがアルファさんの乳をソフトにもみしだく
のを見て驚く。これをはじめ新作は、前作とは切り口というか、文法が違うので、しばらく戸惑った。

あちこちの掲示板で「媚びている」とか「商売の匂い」とか書かれていた意味はいろいろわかった。
媚びているかどうかはともかく、ちょっとそういうカットが多かったのは確かだ。
ラジオのボリュームをかえるときの、
アルファさん女豹のポーズとか、下パンツのシャツだけアルファさんとか、カラーにすると妙に際立つミニスカとか。そして、エンディングの最後のナマ脚はことさらにエロかったとか、いろいろあった。ところで一番色気を感じたのは足の裏であるというのは秘密である。

あと、聞き慣れているはずの「アルファさん:椎名へきる」に、
いまさらながら猛烈な違和感を持つ。
これはたぶん、前のビデオから現在までの間に、自分の中で、原作の積み重ねによるアルファさんのイメージが、より芳醇になったからだと思う。

だが、それに比べて、椎名へきるは変わっていなかった。

昔のアニメをゲームとしてリメイクするために再録されることがあるが、それとは事情が違う。同じように演じればいいというものではない。ラーメン屋の味が変わっていくように、アルファさんの声も、もっと豊かになって欲しかったのだ。ただこれは、私が最初から、椎名へきるのアルファさんに納得できていなかったから抱いた感想なのだろう。


新作OVAは、賛否両論ときくし、いいと思うひとも多いだろう。でもわたしは物足りないと思った。
絵的にも不安定だし、前作のココネさんのカメラショットのような「おお!」と思う要素がなかったからだろう。

だが、最後の最後で
「おおっ!!」と叫ぶ。

水着のマッキ
、登場である。

しかも、
彼女の体型を真横から描くという、制作スタッフも、どこを狙い撃ちにするべきかよく分かっている露骨なカット


「いや、みごとにまないたですにゃ〜」


相好を崩して賞讃の声をあげてしまう。俗に言う「寸止めマッキ」である。「でも、なんでハイレグなんだろう」とボンヤリ思った。水着が紺色でないのは、スタッフ側が持つ人間としての最後の理性だろう。

マッキの声は私のすきな長沢美樹さんで、いい感じだ。
だが、12月にでたドラマCDでは、正直なところ、マッキの声に聞こえなかった。
なんというか「長沢美樹さんの声」なのだ。下手をすると星井ラミカの声に聞こえる。こんなところで
声優マニアの絶対音感による弊害に苦しめられるとは思わなかった。

そういえば以前からあったイントネーション論争だが、OVAやドラマCDによると、やはり「ココネ」は「
コネ」ではなく「ココ」のようであり「マッキ」は「マッ」ではなく「ッキ」らしい。真月という名前からすれば当然だろうか。でも小網代の入江で、マッキ橋という橋を認定呼称していたので、こっちはちょっと違和感だ。ココネストの苦悩がすこし分かる。


ところで、よく見ると、新作OVAはけっこう値段が高い。
物語も、
いきなり「海抜70」から始まる辺り、ターゲットは確実に単行本を9巻まで買っているような濃い口のマニアだ。そもそも今度のOVA自体が、一見さん向きに作られていない。

これを買うのは、
ヨコハマファンの崇高なる使命であろうか、と思う。
なぜなら、
どう考えても購買層が我々しかいないからだ。もし「2」が出なかったら、それは世間のせいでも、太陽の黒点活動のせいでも、龍脈の急激な乱れのせいでもなく、確実にヨコハマファンのせいなのである。ソニーも痛いところをついてくるものだ。



その後、食事に行く。

マンデリンさんの部屋からも見える「一宮タワー」を見て、ロメオさんが言う。


「いつ見てもおもうんですが、今にも歩き出しそうなオブジェですよね」

「巨脚原種ZX-04みたいだ・・・」(ここの34話参照)

「実は、宇宙人襲来などの非常事態に備えて
歩行形態に変形し、一宮市民を守る役目があるんですよ」

「ど、
どうりで税金が高いわけだ!」

「ところで一宮タワーの全長は138メートルです。なぜなら『いちのみや』だから」

「でも正確には1038にするべきだな」

「いや、それだと下手すりゃ
ターポンがひっかかるって」

そういえばターポンの全長が計測しにくいのは目視観測による推測データと成層圏高度に矛盾があるからなんだけどひょっとしてターポンは楕円軌道で地球を周回しているのかもなあとかいうような話をしながら、ラーメンマニアのマンデリンさんが探し出したラーメン屋で、豚骨しょうゆラーメンをすする。

馬鹿な話をしながら食うラーメンは美味いと思った。

水と空気のうまい田舎で食べるソバやうどんもたぶん美味いと思うが、これには勝てないかもしれないと思った。






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絵描きと管理天野拓美air@asuka.niu.ne.jp