■ 2005.07.30 「夏コミ(他)用原稿完成」 今年もあちこちから依頼され、休日にだけコツコツと取り組んでいた「夏コミ前に描くべき絵」が、ぜんぶ完成した。先日入稿を完了している。 プライベートの創作能力を「絵描き」にずっと傾注していたので、「あとがき」などテキストを書く感覚にシフトできず苦労したものの、それもどうにか入稿できた。これで、あとは本がでるのをまつだけだ。 ところで、以前から絵の依頼は受けていたが、今年は何件か断っている。 書店の仕事に影響をださないことを自分に課しているのだが、そのためにも自分で責任を持てる分しか、今年は描いていない。 断ってしまったところには、申し訳ないと思う。 先方さんには、たぶん、何を基準に断られたのかわからない、という気持ちもあるだろう。 正直なところ、気が向いたか向かなかったか、なところは強いが、それでも共通するところはひとつ。 私が手を貸さなくても、そこには描けるひとがいる。 そう感じられたサークルさんからの依頼は断った。(あとは、受注した依頼が、処理可能な量を超えた時点で受付終了である) そして、描けないと思うテーマについても、お断りした。 実は「観鈴ちんファンディスク」には、お誘いをいただいていた。いま参加メンバーをみると、鍵系絵描きのスゴイひとがズラズラいるので、機会として惜しかった気はする。だが、自分のなかで「AIR」は、本当に終わりきってしまっていたのだ。この作品から受けたものは、おそらくすべて「そら」に返すことができていると思う。それはすごく複雑で、すべてを返しきるには苦労したが、すでに完遂している。いまこのコンテンツにあるものが、その全てだ。 だから、もう自分にはこれ以上のものは出せない。 テレビ放映された京都アニメーションの「AIR」には、死ぬほど感動した。あまりに感動すると、ついにはヨダレ腺までゆるむことを意識のはじで認識しつつ、首から上にある耳穴以外の穴という穴からゾル状の溶液を垂らしながら感動した。だが、この感動は「思い出しての感動」だったし、再燃するようなものは、もう何年も前に、すでに自分で丁寧に燃やし尽くしてあるのだ。お誘いいただいたとき、自分のなかにいた観鈴も晴子も(あるいは二人が残した傷も)、もういなくなっていることに、あらためて気がついたのだ。 無いものは、描きようがない。 また、「処理可能な量」とは矛盾しているようだが、受けた絵について、明らかに先方が要求している基準を超えて時間をかけたものもある。 受けるかどうかは、上記の基準。受けた以上は、好きなだけ描かせてもらったのだ。 みかねた知人が「もっと気楽に描いたらいいのに」と忠告をくれた。 たしかに、あまり気にせずに、自分なりの適当な解釈で、二時間くらいでで簡単にかいちゃえばいい絵かもしれない。 でも私は、その絵に必要以上の手間をかけた。忠告通り、途中で放ってもよかったとおもう。でも、自分が満足いかなかったから描いた。コストパフォーマンス(この場合は時間対効果か?)を考えたら、プロなどにはあるまじきことだろう。だが こういうとき、自由に描けるように、プロにならないできたのだ。 プロらしく、効率とかで割り切らず、描きたいだけ描く。 同人で、無償で依頼画を受けるなどして、絵描きを続けている人間の特権である。 まあ、そうは言うが、これも一発で決まらなかった絵をこねくりまわす言い訳かもしれない。 あと、先のニュアンスから誤解されないように書いておくと「プロになれるのにならなかった」わけでは、けっっっっっしてなく、純粋にプロに成れなかったわけだが。(目差してもいないし) 今年も、そういう意味で、好きなように描かせてもらった。 いつまでこんなことが続けられるかわからない。そう考えると、ありがたいことである。 断ったサークルには申し訳ない。 でもおかげで、依頼画の仁義は全て果たせた。 個人的にお詫びの絵を贈ろうと思う。それから自分の絵を描こう。 これを知人に話したら、さすがに「あれだけ描いて、まだ描くか」と呆れられた。 ちいさい頃に、親戚の家にお呼ばれに行ったとき、なぜか食事会が大食いコンテストみたいな進行になり、勝負好きの叔父が「丼飯で5杯たべたやつには、賞品にケーキをたべさせてやる」という何故その根本的問題点に参加者は気がつかなかったのかいまだに疑問なイベントでも最終的には意地とか餓鬼魂の憑依現象みたいな風情で丼五杯とモンブラン二個目の栗を囓ってダウンした小学4年生の自分がなんとなく思い出されたが、絵だけはちょっと休めば「もう描きたくない」とは思わないから不思議である。
■ 2005.08.10 「書店戦士ヤマモト・1」 新入社員がはいった。 紹介しなかっただけで、実は何人かいるのだが、最近はいったやつでヤマモトというのがいる。 以前に別の書店でも店長をしていたことがある彼は、わりとすんなりうちの会社にも順応したようだ。 まじめに業務に当たるし、遅刻もしない。わたしはヤマモトを、普通に「大丈夫な新人」かと思っていた。 日曜以外の日は、開店前に新刊や補充、フェア用のセットなどが段ボールで届く。(雑誌やコミックなどは、ビニールに梱包されているが) レジの起動など開店準備を手早く済ませて、社員は入荷商品の開梱を行い、開けた箱からでてくる本を分類していく。朝、この作業をいかに手早く終わらせるかは、大切なことである。わたしは新人の彼と組んでいっしょに開ける作業を何回かおこなっていた。そんなある日。 「店長、これどの売場ですか」 「これは紀行文だから、旅行書。旅行ガイドとかの上の棚にそういうコーナーあるから」 「これは?」 「一見すると心理学っぽいけど、実は育児書だから婦人実用の壁什器」 売場を憶え切れていない頃はちょくちょくきいてきたものだが、最近はよっぽど判断に迷うものしか聞かれない。ちゃんと売場を憶えてきたようである。そう気をぬいたときだった。 「あ、店長。マクロスの本ですねコレ。 ぼく劇場版マクロスは40回くらいみましたよー」 何かの聞き間違いだという逃避から抜け出すのに2秒ほど要した。 「・・・なんで?」 「いや、おもしろいじゃないですか」 「そりゃそうだけどさ。まあいまみるとかなりスゴい話でもあるが」 「ですよね」 「いや、でも40回はすごすぎるぞ。あと、それちゃんと完全版? 『フラッシュバック2012』とエンディング連結されてる?」 「そう、初期のは『天使の絵の具』まにあわなかったんですよね」 まちがいない。 この生ぬるい会話のフィット感はまちがいない。 こいつは、オタだ。 しかも、こっち側の。 同じ作品を繰り返し繰り返し観賞するのは、そういうマニアには基本だ。だが、彼のは度がすぎている。 そして彼の「劇場版マクロス40回」は、おそらく氷山の一角という予感があった。 しかも海面露出部分だけで富士山くらいはありそうだ。 恐る恐る探りをいれてみる。 「ところで、君の世代だとラピュタとかが直撃層じゃなかったか?」 「ラピュタもよく見ましたが、ナウシカは100回以上みました」 21:31 <#■■■■IRC:XXXXXX> 天野さん天野さん 21:31 >#■■■■IRC:amano< はいはい 21:32 <#■■■■IRC:XXXXXX> せいるさんのぱんつの表現でよくききますけど「ふゆふゆ」ってなんですか。 21:32 >#■■■■IRC:amano< 「ふゆふゆ」は「ふゆふゆ」だ!! 22:16 <#■■■■IRC:XXXXXX> ・・・わかったような気がします 22:18 >#■■■■IRC:amano< うむ、よし 「ごめん、いまちょっと違う時間のチャンネルにとんでしまった」 「はあ」 「なに、何回だって?」 「ナウシカ、100回は確実にみてます」 そこから先は数えてません、という趣旨の発言であった。 「・・・・」 「これ以前に別の人に話したら『健忘症じゃないの?』って言われましたけど、ぼく違います」 「ああ、うん。100回みるってのは忘れてるからじゃないよな。もっと、こう業病みたいな感じのナニだ。でも100回か・・・。わたしビデオで繰り返し見たのと、テレビのロードショーでなんとなくつけっぱなしにして見ちゃったのと、ぜんぶ合わせても十数回くらいしか見てないぞ・・・。最近はさすがに見ないし」 「ぼくも、もうあきたかな、とおもって見るのやめた時期があるんですけど、一週間くらいたってもう一回みてみたらまだイケル! と」 「おまえ健忘症だろう」 「だから、ちがいますよー」 「あと、おまえ台詞そらで言えるだろ。わたしもカリ城とナウシカとラピュタは暗記してて、ひまなときとかに、脳内で物語再生とかしてたよ」 「ああ、ぼくもだいたい言えますね」 「しかしどうやって100回も」 「朝起きて見るじゃないですか。ごはん食べながら見て、そとから帰ってきて寝る前に見ます。高校の夏休みとか毎日みてました」 「他に見るものはないのか!」 「ええー、でも普通ですよ。普通みますって、ナウシカ。100回くらい」 「人事部長ーっっ!!」 「ええっ」 「人事部長、今年の新人ちょっとおかしいぞーーっ!?」 今年の新人の「普通」という概念はかなり危うかった。
■ 2005.08.10 「書店戦士ヤマモト・1」 新入社員がはいった。 紹介しなかっただけで、実は何人かいるのだが、最近はいったやつでヤマモトというのがいる。 以前に別の書店でも店長をしていたことがある彼は、わりとすんなりうちの会社にも順応したようだ。 まじめに業務に当たるし、遅刻もしない。わたしはヤマモトを、普通に「大丈夫な新人」かと思っていた。 日曜以外の日は、開店前に新刊や補充、フェア用のセットなどが段ボールで届く。(雑誌やコミックなどは、ビニールに梱包されているが) レジの起動など開店準備を手早く済ませて、社員は入荷商品の開梱を行い、開けた箱からでてくる本を分類していく。朝、この作業をいかに手早く終わらせるかは、大切なことである。わたしは新人の彼と組んでいっしょに開ける作業を何回かおこなっていた。そんなある日。 「店長、これどの売場ですか」 「これは紀行文だから、旅行書。旅行ガイドとかの上の棚にそういうコーナーあるから」 「これは?」 「一見すると心理学っぽいけど、実は育児書だから婦人実用の壁什器」 売場を憶え切れていない頃はちょくちょくきいてきたものだが、最近はよっぽど判断に迷うものしか聞かれない。ちゃんと売場を憶えてきたようである。そう気をぬいたときだった。 「あ、店長。マクロスの本ですねコレ。 ぼく劇場版マクロスは40回くらいみましたよー」 何かの聞き間違いだという逃避から抜け出すのに2秒ほど要した。 「・・・なんで?」 「いや、おもしろいじゃないですか」 「そりゃそうだけどさ。まあいまみるとかなりスゴい話でもあるが」 「ですよね」 「いや、でも40回はすごすぎるぞ。あと、それちゃんと完全版? 『フラッシュバック2012』とエンディング連結されてる?」 「そう、初期のは『天使の絵の具』まにあわなかったんですよね」 まちがいない。 この生ぬるい会話のフィット感はまちがいない。 こいつは、オタだ。 しかも、こっち側の。 同じ作品を繰り返し繰り返し観賞するのは、そういうマニアには基本だ。だが、彼のは度がすぎている。 そして彼の「劇場版マクロス40回」は、おそらく氷山の一角という予感があった。 しかも海面露出部分だけで富士山くらいはありそうだ。 恐る恐る探りをいれてみる。 「ところで、君の世代だとラピュタとかが直撃層じゃなかったか?」 「ラピュタもよく見ましたが、ナウシカは100回以上みました」
21:31 <#■■■■IRC:XXXXXX> 天野さん天野さん 21:31 >#■■■■IRC:amano< はいはい 21:32 <#■■■■IRC:XXXXXX> せいるさんのぱんつの表現でよくききますけど「ふゆふゆ」ってなんですか。 21:32 >#■■■■IRC:amano< 「ふゆふゆ」は「ふゆふゆ」だ!! 22:16 <#■■■■IRC:XXXXXX> ・・・わかったような気がします 22:18 >#■■■■IRC:amano< うむ、よし
「ごめん、いまちょっと違う時間のチャンネルにとんでしまった」 「はあ」 「なに、何回だって?」 「ナウシカ、100回は確実にみてます」 そこから先は数えてません、という趣旨の発言であった。 「・・・・」 「これ以前に別の人に話したら『健忘症じゃないの?』って言われましたけど、ぼく違います」 「ああ、うん。100回みるってのは忘れてるからじゃないよな。もっと、こう業病みたいな感じのナニだ。でも100回か・・・。わたしビデオで繰り返し見たのと、テレビのロードショーでなんとなくつけっぱなしにして見ちゃったのと、ぜんぶ合わせても十数回くらいしか見てないぞ・・・。最近はさすがに見ないし」 「ぼくも、もうあきたかな、とおもって見るのやめた時期があるんですけど、一週間くらいたってもう一回みてみたらまだイケル! と」 「おまえ健忘症だろう」 「だから、ちがいますよー」 「あと、おまえ台詞そらで言えるだろ。わたしもカリ城とナウシカとラピュタは暗記してて、ひまなときとかに、脳内で物語再生とかしてたよ」 「ああ、ぼくもだいたい言えますね」 「しかしどうやって100回も」 「朝起きて見るじゃないですか。ごはん食べながら見て、そとから帰ってきて寝る前に見ます。高校の夏休みとか毎日みてました」 「他に見るものはないのか!」 「ええー、でも普通ですよ。普通みますって、ナウシカ。100回くらい」 「人事部長ーっっ!!」 「ええっ」 「人事部長、今年の新人ちょっとおかしいぞーーっ!?」 今年の新人の「普通」という概念はかなり危うかった。
■ 2005.08.12 「書店戦士ヤマモト・2」 ヤマモトと、なにかのはずみでゲームの話になった。ファイナルファンタジー・オンラインの本かなにかをみて、だったと思う。 「ぼくもオンラインゲームやってました」 「おお、わたしはディアブロくらいしかやったことないなあ」 「ウルティマですけどね。これでもけっこう名の知れたPKでした」 PKとは「プレイヤーキラー」の略で、オンラインゲームの世界で生活したり、お喋りしたり、ともにモンスターと戦う仲間であるところのプレイヤーを、その手で殺してしまったりする外道プレイヤーのことである。そして私もやられたことがある。そのときのPKはアメリカ人だったので、辞書を片手に苦心して英語でののしったものだ。 そのPKが目の前にいる。 首を絞めてやろうかとも思ったが、とりあえず襟首をつかんだ。 「貴様、いったい何人くらい殺したんだ」 「えぇっ?」 一瞬、「おまえはいままで食べたパンの数をかぞえているのか?」という表情がみえたのは幻だったろうか。 ヤマモトは、普通に接している分には、ごくまっとうな、真面目で、責任感あって、ちょっと面白く、素直な新入社員なのだ。そんなやつの口からPKだったという話を聞くのは、ちょっと混乱させられる。なにかの誤解か、あるいはギャグかも知れないが、まずは話を聞いてみようと思った。 「最初からそういう目的でゲームしてたわけじゃないだろう?」 「はじめてログインしたとき、すぐにPKに殺されて身ぐるみ剥がされたんですよ」 「そりゃ不幸だったなあ」 「そしたら親切に助けてくれた人がいて」 「ほうほう」 「君はもっと強くならなきゃダメだっていわれて、鍛えてあげるからわたしを攻撃してみなさいっていわれてわけもわからず斬ってみたら文字が真っ赤になって、急に態度がかわって『これで君もPKだね』って」 「うわあ・・・。そっか、騙されてPKにされたのか・・・」 「いや、そこから後は、なにかに目覚めて自分の意志で、プレイヤー狩りまくってました!」 「なに」 「自分の家にはもう数え切れないくらいの生首が飾ってありますよ!」 「だからうれしそうにいうなよそういうことをよ」 「えへへ」 「なんか聞きたくなくなってきたんだけど・・・プレイヤー殺したときのキメ台詞とかあった?」 「はい 『 UZEEEEEEEEEEEE !! 』 と」 「人事部長ーっ!!!」
■ 2005.08.19 「書店戦士ヤマモト・3」 つづき。 「でも、店長もディアブロやってたんでしょ? ディアブロって人を殺すゲームじゃないですか。まともにやってる人なんていませんよね」 「そうか? イキナリ殺されて『Remember Pearlharbor ! 』って言われたことはあったけど、わりとみんなで協力プレイしてたぞ。まあ、たしかに敵に囲まれたとき、地面を波紋状に広がる攻撃魔法で「俺に任せろ! 一気に消してやる!」って言う仲間にモンスターもろとも焼き殺されたことはあったけど。まあ、そいつのことは後で『バスク』とか『ボドルザー』とか呼んでたけどさ」 「ウルティマもつないでる人の50%くらいはPKでしたよ。でもディアブロはほとんど全員PKでした」 「君はいったいどんな殺伐としたサーバーで青春を送ってきたのかね」 「ぼくだけですか!?」 「わたしのいたところは平和だった」 「ぼく、普通に歩いてるだけで撃たれますよ。こう立ってると『ピュン・ピュン』って音がしてヒットポイントが削られてくんですよ。あれ、おかしいなっておもってると弓で撃たれてました。けっこうしょっちゅうです」 「そのたびに5セントもらってたらいまごろ大金持ちだろうな君は」 「それって地下ダンジョンで弓もったスケルトンとかにじゃなくて?」 「地上でです。普通に。ログインして、わりとすぐ。あと、そこでも当然PKでした! たのまれてPKK(プレイヤーキラーキラーの意味。PKに殺されたプレイヤーが恨みを抱いてPKを殺す、あるいはより強いプレイヤーにPK殺しを依頼するなどして誕生するプレイ概念)とかしてましたし、何人かに頼まれたときなんかは、殺して、生き返らせて、殺して、生き返らせて、殺して、生き返らせて、を繰り返して依頼人分の耳を切り取ってました!(ディアブロではプレイヤーが死ぬともってるアイテム全部と耳が落ちる) その最中に動けないPKの恨み言きくのがまた楽しくて!」 「人事部長ー!!!」
■ 2005.08.21 「書店戦士ヤマモト・4」 あずまひでおの「失踪日記」という本がよく売れた。 これを買っていく人は、むかしからのあずまファンの人もいたし、新聞か何かの紹介で興味をいだいた人もいるようだ。本の前半は、漫画家のあずまひでお本人が失踪し、ホームレス生活をする様子が描かれている。全部実話のふれこみは、人の生活を覗き込みたい人に受けているようだ。 あるとき、品のよさそうな初老の女性がこれを買っていった。見た感じ、興味本心の冗談半分に思える。それをみて私は、偏見とは思いながら「このひとは、この本に描かれているような生活はかけらもしたことがないんだろうな」と考えてしまった。だから(屋外生活していたことのある)自分とは、感じ方がぜんぜん違うだろうな、と。 彼女はきっと「世の中にはこんなこともある」と、あくまで他人事として安心して面白がるだろう。 一読してたいていの人が、自分には縁のないことだと考えると思う。だが、これは実際にあることなのだ。それを少しでも実感して読めるひとは、たぶんあまりいないだろうけれど。 そんなことをボンヤリ考えながら残業して本を出していると、ヤマモトが手伝いにきた。「失踪日記」を手にとって話しかける。 「これよんだときにさー、長年の疑問が氷解したよ」 「なんすか?」パラパラ内容をみながらヤマモトが聞く。 「冬場にホームレス生活してると、寒さじゃなくて痛みで目が醒めるんだ。気がつくと歯を食いしばってて、全身の筋肉が縮こまって痛いのね。あれ、あずま氏ほどではないけど凍死するときの初期症状だったんだなあって・・・」 ちなみにこの件はハッキリ書いてないが■このへんを参照のこと。「失踪日記」ではわりと最初の方で書かれている。 「・・・店長いったいどんな生活してたんですか」 「いや、■これとか、■これとか、■これとか」 「うわー」 「あと、■これとかね」 「あ、ぼくも自転車よく盗んでましたよ。中学校のときとか」 「・・・・」 「・・・?」 「・・・・」 「あの、店長?」 「俺の自転車を盗んだのはお前かッ!!」 荷物出しを放り出して首を絞める。 「ち、ちがいますっ きっとちがいますっ」 「信じられるか、このPKがっ しーんーじーらーれーるーかーあーあーああああーーー!!!」 「ぼくがそのときすんでたとこは、店長とこからすごく遠いですよ!」 「ふー、ふはー、ふしゅるるー」 「それに、ほんとに中学のときだけです」 「・・・盗むときって、どうやってだ。工具とかで鍵をバラすのか?」 「いえ、こう力任せに鍵の部分を足でガアンと。で、駅とかまで乗っていって、そのまま放置」 「やっぱり貴様か、俺のV-MAX号(ママチャリ・三段変速・トップギアにいれるときのかけ声「V-MAX発動!」)を盗んだのはぁああああーーっっ!!」※この辺とかも参照 「て、店長っ どっ、ドラゴンスリーパー!? いたいいたいっ 店長だっていろいろやってるじゃないですかっ マクドとかっ」 「アレはあくまでも『攻撃型ボランティア』だ! 自転車ドロと一緒にするな! いや、たしかにちょっと悪いこともしてたが・・・」 「たとえばどんなですか」 「たとえば、そうだな。■■■を■■しましたと言って■■課に再■■を■■して、■■■所持し、■■■を複数つくって■■■■■■に売ってたとか。■■■の裏面に■■■の発行証明が■■■■されるから、ひとり一枚しか■■されないんだよ、ほんとは。で、■■■■と■■■■だとかなり値段違うから売れる。いや、たしかにこれは悪いことしてた」 「店長、悪人ですね」 「お前ほどじゃねえよ」(あと、■■■■のみなさま、申し訳ありません) 「そんなあ、自転車泥棒くらい誰でもやりますって。普通ですよ、普通」 「人事部長ーっっ!!!」
■ 2005.08.22 「書店戦士ヤマモト・5」 人事異動が迫っている。実際には九月ごろだろうか。せっかく使えるようになってきた新人が、各店に散らばっていくのは寂しい気もするが、彼らを待っている店舗はたくさんあるのだ。しっかり仕込んで送り出そう。 「でも、ぼく異動後は自宅と店が近くなるのでありがたいです。睡眠時間も増やせそうですし」 「そういや、家から遠い店舗のときは帰る時間が惜しくて徹夜とかしたなあ。最近はないけど」 「ぼくも徹夜ならけっこうしましたよ。一週間ねなかったことがあります」 「おおっ それはすごいな」 「カルドセプトエキスパンションを一週間やってました」 「ちょっとまて」 「はい」 「寝ないで、か」 「寝ないで、です」 「むぅ・・・」 「後輩に狩られたとき『アーメンですね』って言われたのがすっごいムカついて」 「なんか君は宿命的に狩られてダークサイドに落ちてるような気がするな。というかホントによく狩られるな君は」 「それが悔しくて一週間やりつづけました」 「寝ないで、か」 「寝ないで、です」 「今回は微妙だな、っていうか、これが微妙判定というのがどうかと思うが・・・」 「いや、店長。ゲームで7徹くらい普通ですって」 「人事部長ーーっっっ!!!!」 「あ、天野さん、急ですけど明後日からヤマモトさんF店に異動しますから」 「「ええっ!?」」
■ 2005.08.26 「刻の涙」 お盆が多忙そうだったので、そのちょっと前に帰省した。(8/8あたりの話だったと思う) そのときタイミングよく、甥っ子が遊びに来ていた。 だいぶ以前に日記に書いたヤマトにはまってたこの甥っ子は、現在順調に ガンプラマニアになっていた。 すでに中学生になっていた彼は、クラスのなかでやはりSEED系が流行っている中で、それでもファーストとZの一部のみの知識で頑張っている。やはりこいつは「古い物好き」なのか、あるいは「おもしろいものしか見ない」なのかもしれない。 プラモコンテスト受賞作展示中の「ねりや」に行き、彼が作ったというガンダムを拝見する。一年戦争バージョンのガンダムを無改造で仕上げているが、塗料の塗りが厚くて、エッジにシャープさがないのが金賞にいたれなかった理由だろうと思う。なんかわたしが昔クリアできなかった課題と同じところで躓いているのが微笑ましかった。でもすでにMAX塗りとかやってるのがスゴイ。 せっかくなので、というか自分がプラモ買うダシに、彼にもなにか買ってあげる旨を伝える。 月の小遣いが1000円しかない(今日びの中学生にしては格安ではないだろうか)ところを、溜めに溜めてマスターグレードを購入している彼は、コレン軍曹ばりに大喜びした。とつぜん降って湧いた奇跡の恩恵に感動しながら、ガンプラのMG棚を凝視し、いま欲しいモビルスーツを選び出そうとしている。 ガンキャノンか、シャアのズゴックか、と悩んでいるのをみながら、こいつも自分に似ていると思った。 ヤマト → ガンダム とオタの王道を来ている。とくに「ガンダム」経由で「ガンプラ」にはまっているあたり、業が深い。 こいつは将来どんなオタになるだろう。やはり温泉旅行とかに行っても、風呂とか観光とか食事ではなく、まっさきに、MGシャア専用ガンダムとかバッグから取りだして作り始めそうなガンプラオタクだろうか。 関係ないが、自分の部屋ではなかなか作れずパッケージを積んでしまうが、実家とか知人の家とかに行くと、妙に模型製作が「のる」という人がいる。旅先であえてプラモ三昧というのも、一部オタの習性かもしれない。たぶん同行した一般人は「温泉旅行にきたんなら、普通は温泉だろ!」と叫ぶだろう。そして甥っ子はこう応えるに違いない。「なんで? 風呂なんか家でも入れるじゃん」 これがオタだ。 近い種族として、温泉旅館で風呂にも入らずに部屋のテレビにゲーム機の端子をつないでスパロボをはじめるオタもいたりする。 そうこう考えているうちに、甥っ子の買い物は決まった。赤ズゴックだった。 わたしもついでにMGのGP02を手に取る、じつは一緒にきていた下の甥っ子にもタミヤの工作模型がほしいというので取ってやった。そして三つを積み上げて、意気揚々とレジに向かうとき「ありがとう、拓美にいちゃん!(おじさん、ではなく、お兄ちゃんと呼ばせることに成功している)」と、こころから感謝する甥っ子が、続けて最大級の讃辞の言葉をこういった。 「神降臨!!」 「お会計、9030円になります」 レジを打つマスターの声をききながら、甥っ子の将来が垣間見えた気がした。
■ 2005.08.28 「書店戦士ヤマモト・6」 いよいよ、人事異動が明日とせまった。(実際の日付はかなり前だが) 彼は、わたしもいたことのあるF店に異動となる。 わずかな期間しか教育できなかったが、感慨深いものがあった。 「店長、ホントにありがとうございました!」 「いや、充分に教育できなくて申し訳ない・・・」 「自分、天野さんに育ててもらったようなもんなんで、感謝してます!」 「なんか照れるなあ」 「背中に、こう亀仙人の『亀』じゃなくて天野さんの『天』っていう字を書いて頑張りますよ!」 「・・・それで悪事はたらくなよ。リアルでもネットでも」 「ええー」 「ええーってなんだ!?」 「だ、大丈夫ですよ! 最近はゲームとかしてる余裕あんまりないんで、ほとんど狩りなんかしてませんし!」 「ホントにか。ホントに悪いことしてないか」 「・・・いや、実は前にちょっと」 「話してみ」 「FF11で、寝バザ(キャラはオンライン上にあって物を売っているが、プレイヤーは寝ている状態)してる人がいたんで、モンスター連れてきて、そのときは虎でしたけど、喰わせて遊んでました!」 「GMに通報モノだろソレ」 「いや、僕はただ街に逃げ込んだだけですから! 寝バザの人の近くを通って!」 「それでも、虎は君をターゲットしてるんじゃないのか?」 「ああ、あの、街にはいってからエリアチェンジして、その場所に戻るんですよ。すると(ぼくから)ターゲットが切れてる虎が、案の定、寝バザの人おそってるんで、それみて喜んでました」 「人・・・ッ、・・・いや、・・・すまんF店店長。彼のこの性質を正すことは、ついにできなかったよ・・・」 でも、使えそうなやつなんで、なんとか育てて欲しい。 よろしく頼みます。