「Air」DREAM編解釈
「Air」は、 デフォルトではじまる「DREAM編」 その三編をクリアした条件で発生し、すべての原因となった翼人の悲劇を、一方的に見せられる「SUMMER編」 その上ではじまる「Air編」 この三編で構成されている。
以前に、DREAMの観鈴編・SUMMER編・Air編の直線的なつながりにのみ注目し、歴史の順序からその解釈を試みたことがあった。(「たくさんの思い出がある 他にはなにもいらないくらい」参照)この際にDREAM編の位置はわずかにしか言及されておらず、別項としてもうけた佳乃・美凪編においても、そのシナリオ単独の解釈でしかなかった。 ここでは、それぞれの編の持つ意味について語りながら、あらためて解釈を進めたい。
「この丘を越えたあの日から」 SUMMER編を前提としたDREAM(佳乃・美凪)編の意味
キャラクターの相関関係 はじまりの物語であるSUMMER編を前提に、佳乃・美凪編の構成を考えてみよう。
神奈 と裏葉の暮らしのなかに、柳也が関わっていったように、
この三者の関係はとてもよく似ている。
ただ、DREAM編の人物は、決してSUMMER編の転生ではない。
先の前提にシナリオを読み進めてみても、似てはいるが、その魂は決して同じ者ではないことがわかる。
ただ神奈の残した翼人の羽根を通じ、佳乃の位置と、みちるの位置を、空にとらわれている神奈が経験することが出来るのである。 そう、このDREAM編、すなわち「夢」は、空にいる少女・神奈が、羽根を通じて見ている夢なのだ。 観鈴編についてだけは別項にて後述するが、DREAMの他二編は、神奈の願いが満たされていく過程でもあった。
SUMMER編の大前提 神奈の基本的な願いは、下の言葉からも分かる。 「余の最後の命である。末永く、幸せに暮らすのだぞ」 神奈はこう言葉を残して空に散った。
裏葉はそれが分かっていたからこそ、自棄になった柳也を止め、共に生きてきたのだろう。
「俺は頑張れただろうか?
SUMMER編の終焉において、柳也は気がつくのだ。
そして現代、DREAM編において羽根に関わった者が、SUMMER編と同じような人間関係を再現する。
観鈴編に関してはAir編をまたなければならないが、佳乃編、美凪編において、神奈と裏葉、そして柳也の願いが、象徴的に果たされていく。 そして、佳乃自身やみちる自身が経験した幸せの記憶、そして彼女らの大切な人の思い出が、いまだ空にいる神奈にとって、幸せな記憶となってフィードバックされ、解怨につながるのだろう。 その視点で、DREAM(美凪・佳乃)編を解釈してみたい。
ただ、この考え方は、正統ではないような気がする。
一応、お断りしておく。 だが、一点。
「朝には消えたあの歌声を」 DREAM編(観鈴)の位置と解釈、感想
夢を見ている者 三人のヒロインを描いたDREAM編において、観鈴編だけが他二編とは扱いが違う。
この編には、先のSUMMER編を前提とする公式もあてはまらない。少なくとも、DREAM観鈴編に裏葉的存在は登場しない。 では、これは何だろう。そして誰の夢なのだろうか。 ゲームの起動・メニュー画面からのDREAM編選択、タイトル表示の後、空を飛ぶ自分自身の描写がある。
DREAM編(観鈴)は、Air編ラストにて、いままさに神奈のもとへ向かい、どこまでも高みを目指して飛ぶ「そら」の回想ではないだろうか。 だが、周知の通り、そらはAir編においてDREAM編での往人の記憶を、一瞬だが取り戻す。この無限のループは、ゲームが続く限り存在し続ける。
こう書いておいてなんだが、この解釈も決して正しいものではなく、単なる憶測に過ぎないと思う。このゲームはいまだに「こうだ!」とスッキリした解釈をもてないでいるのが本音だ。
観鈴シナリオ感想:「子供」だった、観鈴という少女のこと 私は、この解釈のために、セーブファイルを消去した上での、二周目のAirを歩んでいる。
「でっかいおむすびですねっ」「飲み物なくて、大丈夫ですかっ」 この妙に気合いの入った挨拶は、夏休みに友達を作ろうとした、この子の決意なのだと。Air編冒頭、往人の登場する前の事情がわかるからこその認識だ。SUMMER編を通過したからこそ、我々には観鈴の語っている夢の意味も分かる。 足が動かなくなった頃に見た、高野での悪夢。 そして寂しそうな顔で述懐する「海って何だ」と聴いた思い出。 28日、おそらくはお手玉の夢、そして夏祭りの夢。 晴子が温泉巡りに行くと行って出ていくシーンもそうだ。伏している娘を、冷たく放り出すように温泉にでかける晴子。往人が憤る。しかしBGMは「ふたり」なのだ。事情がわかっている二周目にはたまらない選曲である。 BGMといえば、観鈴編ではやはり「夏影」である。曲の最初、ためらいがちに、おずおずと近づき、かすかに決意の兆しがあってからはじまる旋律が、観鈴のための曲としてピッタリである。この郷愁、この寂しさ、曲調はのんびりしているのに、とても切ない。
DREAM(観鈴)編では、随所に、観鈴が子供である描写そして評価が出ている。
それをふくめ、苦しみに悶絶している観鈴に身体を求めるというシナリオは、ちょっと違和感がある。以前から言われていたことだが、エッチなシーンの必要性のあまりない物語だ。売れる売れないの問題もあるかも知れないが、ストーリーでここまで売れることが証明されているので、DC版での全年齢版発売は嬉しい。
子供であること、それは佳乃編での解釈でも少し述べるが、観鈴のシナリオ、特にAir編が、真に家族をテーマとするための伏線であったことがわかる。
二周目で、実感としてわかることは、たくさんある。 「とどかない場所がまだ遠くにある」 DREAM編(佳乃)の解釈と感想
SUMMER編との関わり DREAM編の、全てのシナリオに言えることだが、その構図、または構成の根幹には、SUMMER編が存在している。
このシナリオでは、月夜に往人と散歩に出て「魔法が使えるようになったら、お母さんに会いたい」と述懐する佳乃が、SUMMER編における、出立の前の神奈にだぶってみる。 そして物語の終盤。
自棄になりかけた聖を、往人が励ます。神奈を失った柳也と裏葉の、逆の構図だ。
つくづく、佳乃シナリオの終盤は、SUMMER編の再現である。
ここでは、自分を救うという使命を捨てて、己の幸せを追って欲しいという、神奈の、柳也への願いが果たされている。
聖が泣く。裏葉たちが、生きて再び夏祭りに行けたら、彼女も泣いただろう。
前述した通り、DREAM(佳乃)編は、空にとらわれている神奈が、白穂の時代からのこった羽根を通して見た「届けられた幸せな夢」なのだと思う。
白穂の悲劇について 空から、神奈の羽根が舞い降りる。 時に、おそらくは元寇と思われる1274年。正暦5年(994年)からは300年近い時間が流れていた。空に捕らえられていた神奈の呪いが朽ちたのだろう。 余談だが、歴史においてすら「神風」と呼ばれたこのときの奇跡のような現象は、翼人になんらかの関わりがあるのかもしれない。このときはかなりの法力僧が命がけの祈祷をしたと聞く。裏葉の子孫が、いたかもしれない。
無限に記憶をうけつぐ翼人の羽根は、その一枚一枚が、一種の記憶装置であるという(カラフルピュアガール・インタビュー記事より)。この記録装置たる羽根には、自刃して果てた白穂と、残された八雲の記憶が残された。それは神社にまつられ、時を経て母を求める佳乃の願いに触れる。やがて、佳乃をスピーカーにしてランダムに再生される白穂の記憶。子守歌、子をあやめようとしたこと、自刃したこと。それら記憶が佳乃の身を通して、繰り返される。 佳乃は、往人に出会い、バンダナを取ることで魔法の力を得、空に行けるようになる。
この「空に行ける」という状況での佳乃の母との会話がある。
「私を産んだせいで、お母さんは長生きできなかったかも知れないけど」
羽根の記憶は、子を残して死なねばならなかった白穂の悲劇でなく、娘からの感謝という幸せな記憶として、神奈に届けられた。
SUMMER編における「母娘の悲劇」と「神奈を失う悲劇」が見事に清算されている。
佳乃シナリオの感想:恋愛の条件 Airは、ギャルゲーではない。少なくとも恋愛シミュレーションではない。関係を持つに至る展開はあるが、恋愛が発生しているのは、佳乃シナリオだけだ。
観鈴はAir編において、美凪はトゥルーエンドの後において、家族の愛に満たされる。
あれは恋ではなかったのか、と問われれば、然りとしかいえない。
「想いはどこまで届くことをゆるされているのだろうか」 DREAM編(美凪)の解釈と意味
DREAM(美凪)編は、いくつかのポイントで構成されている。
夢を見ること 正気を失った母の前で、「美凪」としてではなく「みちる」として生きなければならなかった美凪。彼女は従容と甘んじたが、それ故に、笑えなくなってしまった少女時代があった。
みちるは自分のいるこの状態を「美凪は夢をみている」と言う。
夢から覚めること だが、母が目を覚ました今、みちるの生み出し、美凪を守ったこの夢が、いまは美凪によくないことをみちるは知っていた。 「やっぱり、もう無理なのかな」 そう感じ、美凪を見つめるみちるである。
「すこし悲しいけど、やっぱりこれでいいんだって、そう思ったの」 往人に語るみちる。 母親の前で「みちる」でありつづけた美凪、いまは母の前に帰れない美凪、それが寂しいと分かっていながらも、みちるとの生活を大切にしたいと願う美凪。彼女は、そういう夢を見ている。 この夢を覚まし、現実にむかって歩いていけるように背中を押すのが、往人の使命であった。
みちるは、たぶんこのとき、美凪と過ごした永い夢を終わらせる決意をしていたのだ。 みちるが消えるのは、やや間延びした感のあるシナリオの果て、ちょうどお盆の頃である。
だが、それは違うのかもしれない。
美凪には、母親に相対していく勇気がない。この少女は、あまりに愛しく、居心地の良い「居場所」にいつまでもいようとしてしまう。
「あんな美凪を見るために、みちるはいたんじゃないもん・・・」
おそらくは誰よりも美凪と離れたくないみちるは、この言葉を吐いたとき、どれほどの離苦の中にいただろう。 だれもが、互いのために生きている。 この幸せな夢から覚めたくない。
美凪が自分を思ってくれていることは、充分すぎるほどわかっている。
でも、 「夢はいつか覚めなくちゃいけない。覚めることをわすれた夢は、それがどんなにしあわせな夢であったとしても、いつかは悲しみにかわってしまうから」 だからみちるは、美凪のために消えるのだ。
だが、この「時間がない」というのは、事情ではない。
だから、みちるは、最後に笑顔で泣いたのだ。
みちるへの罪悪感 美凪の罪悪感は、じつはかなり根深い。 最初は、おとうさんっ子だった美凪が、母親に寂しい想いをさせてしまったこと。
妊娠中毒症の母を案じるあまり、まだうまれていない妹を憎んだこと。
美凪は、夢から覚めるのをためらっていた。
だがこれは、みちるを母親に引き合わせたことで解放されている。
SUMMER編への関わり 佳乃編に比べると、みちるが明言してくれているのでわかりやすいが、神奈にとっては自分の分身が、どんな記憶をフィードバックしてくるか、それを見ている夢が、このDREAM(美凪)編なのだと思う。 神奈のもとへ返る幸せな記憶は、いくつもある。
裏葉からお手玉を教わるがなかなか修得できない様子が、美凪とみちるのしゃぼんだまと重なる。
美凪とみちる、そして母親との関係自体も感動的だったが、その背後にあるもうひとつの心情世界、神奈の立場を理解してプレイすると、またちがった感動がある。 シナリオ中で、あまりにも突然に、みちるが消えてしまう。だがそれもSUMMER編を考えれば、分かる。
これだけが、神奈の痛恨として、みちるの中に残っていたのだろう。
みちる単独の存在位置 みちるは、本人が述懐するように、空にいる神奈の、砕けた心のかけらだ。
社に祀られている羽根を「もうひとりの自分」と、みちるは言っている。
そして、みちるの出現とともに絵は消失した。
また余談なのだが、この翼人を描いた絵にも、なんらかの裏エピソードがあったのだろう。
エピローグに出てくる、実体のみちる。
美凪シナリオの感想 このシナリオの美しさは、誰もが認めるであろう。
遠い海風にあおられて、行き場をなくした鳥が一羽。
「凪」という字は、近年名前によく使われるが、美凪に関しては、まったくその通りの名前である。
またこの美しさの本質は、誰も彼もが、お互いのために生きようとしていることにもある。
最初のプレイでも、このシナリオには泣いた。
つくづく思う。
余談 全てのシナリオにおいて、分岐後、お互いに干渉するところはほとんどない。
やはり法術使いの使命が、感応したのだろう。 コクワガタの夢(7/30)の出典が、わからないが。
二編の夢を通じて、神奈のもとに幸せな記憶が帰っていく。 そして、SUMMER編の事情を土台として、翼をもつ現代の少女、観鈴が現実の幸せをつかむ。 (「たくさんの思い出がある 他にはなにもいらないくらい」参照)
Air の総評、雑感
萌え KanonにもAirにも言われていたことだが「萌えどころではなくなった」というプレイヤーのコメントが多々見られる。
萌えは、基本的に「現実的な人間」以外に対して発生する。
だが、それが、あまりにもまともに「人間」である側面を見せられた場合、最初は出たかもしれない萌えという感情は、キャラクターの理解につれ、維持できなくなっていく。 低いところでは同情、高いところでは崇拝、いろんな言葉があるが、我々はその愛すべき人格に対して真摯でありたいと思ってしまうのだ。 Airで描かれているのは、最初の楽しげな「つかみ」はともかく、最終的に萌えるキャラではない。苦悩しながら生きている人間である。
もし萌えているのなら、それはその人の心の中で、都合のいい人格に書き換えられた別人ではないだろうか。
文芸 Kanonはギャルゲーの皮を被った何か、だったが、Airは皮すら被っていなかった。多くの人にはギャルゲーに見えただろう。だがプレイしてみればわかる。
形態こそゲームだが、これはむしろ文学に近かった。
重要な、熟考を要するポイント。しかもそれは、とてもさりげなく語られている。その会話が突然、より平易で、しかもおもしろく気を引く台詞やイベントにひったくられる。あえて真意を隠すように。 Airの中で表現されている出来事の、その「真実」を探ることは容易ではない。
全編をクリアしてなお、我々の中に発生するこの違和感こそ、この作品が完全であることの証だ。
Airの会話、もしくは主人公の述懐の中で、何かを言い表しているであろう言葉がたくさんある。
いっそ、この会話でのこの言葉の意味するところは、こう! という注釈があったら良いと思うがどうか。そのうち作ってみたい。
だが、読解力のある人間には、生ヌルい資料になってしまうだろう。
考察 考察を重ね、先達たちの感想・解釈を読むほどに、いろんな事がわかっていく。
ただ、キャラクターたちが、どんな心情でこのシナリオを通過しているのか。
最近は、それ以外の考察を放棄している。
感情移入 事実や真実でなく、キャラクターたちの心情に想いを馳せながら、何度目かのプレイをし、シナリオをたどる。 美凪は、大切な友達だった。
主人公に感情移入した場合、私にはそう思えた。
美凪編は、みちるに。
主人公とは、一体なんだろう。
愛の物語 Airは、三つの愛の物語だと思う。 美凪編は、兄弟愛、もしくは友愛。
上二編にはまだ主人公が絡む余地がある。
心情の理解 一回目のAirは、ことの真相を知らないまま進むため、その表層的な人間ドラマだけで泣いてしまった。
二回目のAirは、ひととおりの情報を得た上で、シナリオと事実の確認のために通過した。それなのに泣いてしまった。 そして三度目である。
どんなシナリオで、何が起きるか、全部分かっている。わすれようはずもない。
三回目でやっと、私の中で、キャラクターが呼吸をはじめてしまった観がある。
Airは深くて鋭い。
こうだ! と分かりやすい感動を突きつけるのではなく、それを出来る限り抑えに抑えて表現する。
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