外では雪が降っている。 もう何日も、アルファは外出も、動くことさえしていない。
ときどき月琴をつま弾きながら、アルファは、春をまっている。 オーナーがここにいた頃の記憶は、この寒い冬のなかでさえ、木漏れ日のように、あたたかい。
それでも外に出ると、頬にあたる風は、まだ寒い。 オーナーとの記憶のある、このお店から、 彼女はどうしても離れることができない。
それでも、このお店が、アルファの一番安心できる場所だった。
春。 彼女はやっと自分から動こうとする。 カフェ・アルファを再開し、看板を取り付け、ヨコハマへ買い出しに行く。
ひとは誰でも失った何かが、何気ない毎日に戻ってこないかと、扉をあけたまま夢を待ちわびる。 だが人生は、そこから出るときに動き出す。 ヨコハマ買い出し紀行には、一貫した雰囲気がある。
一巻5ページ。リゾートマンションか何かの看板を、カフェアルファのものに張り替えるアルファさん。ここにオーナーの姿はない。もしかすると、一度はオーナーとオープンしたカフェ・アルファを再開するときの様子かも知れないと思った。 おじさんとの初めての出会い。はじめての給油と思われる。このときすでにオーナーは「何年も前」にいなくなったようなので、このスクーターは最近購入したか、しばらく使っていなかったものと思われる。つまり、コーヒー豆を買いにヨコハマまで行くことも、久しくなかったのだろう。「たまにとおる」そうなので、ガスが少なくなるこのときまでは、なんどか外出はしていたらしい。 しかし、はるばるヨコハマまで豆を買いに行くのは、ほんとうに何年ぶりかだったのだろう。そうでなければ、水位があがって通行不可能な道に出くわしたりはしないはずだ。
先述のショートストーリー(以下SS)で、その間を描いてみた。 ちょうどアルファさんが横浜へ行っているときに、オーナーが立ち寄ったというのも、彼女の人生が動きはじめたことを象徴しているような気がする。ただの皮肉というわけでもあるまい。 「鋼のかおる夜」で、おじさんは述懐する「時々わしには、アルファさんが本当の人間なんじゃないかと、そんなふうに思えてくる」
オーナーの意のままにただ帰りを待つだけのロボットではなく、自分で新しい道を選んでゆく。それが、ただのロボットでなく、また人でもないアルファさんたちの位置なのだろう。
このSSを思いついたのは、そもそも「雨とその後」での「こんな事は、ひとりで月琴ひいてるときなんかにはよくあった」という言葉と、そして、ほんとうにほんとうに何年かぶりにきく、オーナーのメッセージに、アルファさんが泣いてしまう、このシーンで出来ました。 二巻以降、あまり、以前の生活を思わせるエピソードが少ないのは、アルファさん自身が、何年も前から住んでいるのに、はじめて町内会などにでるなど、すでに今をいきているからでしょうね。
ココネのムラサキ色の髪に合う服や背景が見つからず、困ったことがありました。アルファさんの緑の髪も然りで悩んだのですが、同系色で統一するという手法で、今回は逃げを打ちました。
今回は、背景も通常の黒から白にしてみました。冬から春へのイメージなので、春先に出せれば良かったのですが、来春までねかせるわけにもいかないので、こんな時季はずれのアップになりました。ちょっと残念です。
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