春永
−はるなが−

wind

(2001.03.23 fri)



いずれ、ひまなときに。ゆっくりと。

夜想曲タイトル用に、いちまい描いてみた。
この絵を描いたころに、ちょうどヨコハマ買い出し紀行の8巻が出ている。
一読して、正直、うちのめされた。

絵描きにとって、絵の本質とは、思い描いたように、その世界を描画することであろう。
絵自体が美麗であるかどうかは、実際にはあまり価値がない。

以前にも日記に書いたが、たとえば「カイジ」というマンガがある。
作者の福本伸行氏の絵は、どう転んでも美麗とは言えない。特に顔面の描画が正面・斜めと横顔とであまりに違い、立体化など絶対不可能なほどの凄まじいギャップがある。
だが、カイジの世界を描くにはこの絵でなくてはならず、またこれほどカイジの世界を描けている絵は他にないとすらいえるだろう。

「その世界を、いかに描画できているか」
それが絵の本質だとすると「ヨコハマ買い出し紀行」を描く芦奈野ひとし氏の絵は、完璧である。

まったくもっておこがましい話なのだが、自分とのレベルの違いを実感してしまう。
素人目には「ヨコハマ買い出し紀行」は簡単な線でサラリと描かれているように見えるかも知れないが、(なんか失礼なこと言ってるな自分)この作品は、実際すごい。
とくに最近の絵は。

「ヨコハマの世界を描く」
というテーマの戦いにおいて、これほどまでに表現できていることが、驚異だ。

加えて、およそ一話に最低でもひとつ、戦慄するほどの絵がある。
普通に読むと、ほとんど見過ごしてしまう絵で、なんとなく心に残っている、という程度なのだが、実はすごい絵なのだ。
これに気がついたのは、コミックから取り込んだ絵に着色してみたときである。

色はともかく、もとである線画の完璧さに、このとき初めて気がついた。
目からウロコが落ちるという奴で、この開眼以来、もうヨコハマのどの絵を見ても上手さがわかってしまう。
何でもないコマですらジャブのように効く。そして一話にひとつほど心臓が止まるようなパンチがある。
単行本一冊で、どれほど打ちのめされるかわからない。

ヨコハマに近い世界を描きたいと思っている人間には、このマンガは雲の上にあるように感じる。
8巻を読んでいて、もう絵をやめようかな、と思うくらい遠く感じた。

製作環境:PowerMac G4 450・WACOM FAVO・Painter4.0・PhotoDeluxe1.0

夜想曲タイトル用の絵です。
春の訪れを描いてみたくて、考えました。
タイトルの「春永」は「いずれ、ひまなときに。ゆっくりと」の意。

空を往くカマスに、振り向くアルファさん。
服はまだ冬のものですが、振り向く顔は春を感じている、といった感じです。

肌の色をややピンク気味にし、髪の色も明るく飛ばしました。春なりの色です。


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