オーナー自慢

in the sunny place

(2000.04.24 mon)






「じゃ、こことここに署名を。」
−きゅきゅきゅっきゅっ−
「はい、ではこことこことここにハンコを。」
− ぽん.ぽん.ぽん −
「はい、こことここに割印を。」
− ぽん.ぽん −
「で、ここに捨印を。」
...(嫌気がさしてる)
− ぽん −
「はい、これで手続きは完了です。」
『ほっ』
「お疲れさまでした。これであなたもA7オーナーの資格を得たわけです。」
「ありがとうございます。」
「まぁ、ホントのオーナーになれるかどうかはこれから次第ですけどね。」
「おどかさないでくださいよ。オーナー研修も大変だったんですから。」
− 笑2 −
「じゃ、あの娘のこと、よろしくお願いしますね。」
「はい。」
「あー、おばちゃん、この人案内してあげて。」
「 はいはい。 陽子ちゃんのだね。
  あんた、ついといで。」

− ぺたぺた −(廊下を歩く音)

「あんたに預ける娘、陽子って言うんだけどね、いい子だからちゃんと守ってあげてね。」
「もちろんですよ。
 でも当日まで誰かわからないってのもちょっと驚きましたけど。」
「あぁ、今は制度も試行錯誤してるところだから、勘弁してやって。」
「ええ、まぁ。」
「あ、でも陽子ちゃんにはあんたのこと2、3日前に伝えてあるわよ。」
「え!? どど、どんな様子でした?」


このお話は、masterpieceさんにいただきました。
絵は、お話の、その時の「どんな様子」の御様子。
一応、写真を見せびらかして一番にやけている真ん中の娘が陽子さんだろうと思うのですが、どうでしょう。

ロボットのオーナーになる資格や、条件、そして使命は、どういったものがあるのだろう。
ロボットを必要とする者が、普及しているロボットを購入し、所有するのだろうか。
ロボットを人間のように受け入れる社会が在る以上、ロボットもまた、人格を認められているわけなので、金銭によってのみ、ロボットの権利が動くというのは考えにくい。
やはり、必要とするだけの理由か、あるいは何らかの審査があるのだろうか。これは資料が少ないため、わからない。

だが、オーナーの使命を考えるとき、不思議な点がある。
私は、ロボットの保護、教育が、オーナーの使命であろうと思うのだが、だとしたら、いま現在、ココネさんや丸子さんのオーナーは、どこへいったのだろう。

姿が見えず、その口からも「オーナー」という言葉が語られないとはいえ、ココネさんや、丸子さんにも、名字があることを考えると、やはりオーナーがいたのだろうと思う。「研修所で自分の名前を決める」というイベントがあるほどなので、(何年在籍するのかわからないが)幼年期を過ごす研修所だけで、人間の全てをロボットが理解し、社会に適応できるとも思えない。 やはり、オーナーとともに暮らす中で、人間というものを理解していくのだろう。

ロボットの姿が変わらないことを考えると、もしかするとココネさんのオーナーは、老いて死んだのかも知れない。だが、主を失い、はぐれロボットになったとすると、その後の社会適応は、不自然なほどスムーズだ。なんのかげりも見えない。カメラを届けたときも、彼女には、オーナーを思って泣くアルファさんを不思議そうな顔で見ている。オーナーに対する意識の違いを感じているのだろう。
その様子には、悲劇的な別離の気配は感じられない。

アルファさんも含め、彼女たちのオーナーは、どこへ行ってしまったのだろう。
私は、オーナーは一時的なものか、あるいは、保護、教育の後、乳離れをさせる使命があるのではないかと思う。

その後のココネさんや丸子さん、アルファさんの自立ぶりをみていると、彼女らのオーナーは、彼女たちを、一個の社会人として世に送り出すことに、いちおう成功しているように思える。
オーナーは、ロボットを社会的に自立させることを使命とし、乳離れのために、ある時期からは姿を消している、と考えるのだが、どうだろうか。

最初の、ともに暮らす時期を経た後、オーナーは、離れたところで、ロボットを見守るだけになるのだろう。
オーナーにとっても、それは、辛い儀式であろうけれど。

アルファさんがオーナーを慕い、待ち続けることは、そうだとすると実はオーナーの本意ではないのかも知れない。 ロボットの自立という要素を考えた場合、現在のアルファさんの旅は、この物語がちゃんと動いている証拠であると思う。

しかし、泣くほどオーナーを慕うアルファさんは、その個性として情が深いのか、オーナーがべったり愛していたのか。なんにせよ、ちょっと特殊なケースに思える。



「オーナー自慢」について

本編中では何の記述もありませんが、A7M3型機の皆さんは、研修期間の後に、それぞれのオーナーが決まり、そこへ嫁ぐように、お世話になりに行くのだと思います。まあ、ホームステイのようなものでしょうか。里親のようなものかもしれません。
それまでの研修所での暮らしと、オーナーが決まって通知と写真が贈られてくるときの様子を、絵にしてみました。

普及型というからには、顔や髪型、支給される服装などは同じなのだろうと思います。この時期、同型機においては、性格的能力的に極端な違いはなく、それぞれの経験による差異が、価値観や判断に出てくる程度でしょう。
そんなわけで、みんな同じ顔です。でも三人とも性格が違いそうにみえるのは、私の表現力の乏しさによるものでしょう。

オーナーが決まる日。
それは、彼女たちにとって、不安よりは、ただ期待と喜びのとき。
「研修所を出たロボットたちが、不幸せになったという話は聞かない」
そういう世界であって欲しい。
彼女たちが赴く地が、彼女たちを養い教育する人が、素晴らしい人物でありますように。


制作環境:Macintosh Performa 5440(88MB)・Painter4.0・WacomArtPad2

普及型の(ってなんかこだわるな、おい)ロボットの研修所というと、おそらくはもう決まり切った課程をすすめる施設として確立されているような気がするので(masterpieceさんからの文中の設定とは、違いますが)着ているものは、なんというか、ださださのシンプルなものであろうと考えました。まあプライベートなシーンなので、ルームメイトの三人が、下着姿で談笑しているのだとも考え、こんな感じに。
向かって左の娘さんがもっているのが、オーナーの写真という設定。

絵の手順ですが、正直、これを描いたのが三ヶ月も前なので、忘れました。(てへっ)(←あっ)
例によって、茶色がかかったムラサキ色という髪の毛を、いかに自然に見せるかというのが課題でしたが、全体のトーンをピンクで統一することでクリアしました。
ヨコハマの絵って、いつも髪の色で苦労するよなあ。
でも、髪の色がないとアルファさんやココネさんに見えないと言うのも事実・・・。



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