おはよう。
 
あの話ね、夕べ決まったんだけど、
この船もようやく役目を終えるんだって。
 
半年後には軌道を離れて、
今度は月で博物館になるそうよ。
 
第二の人生、んん船生ってとこ。
 
 
 
私はどうしよう。
 
あれからもうずいぶんたったよね。
 
ちょっと寂しい...かな。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
え、なぁに?
 
もう少しガンバレって?
 
ふふっ
 
わかってるわよ。
 
 
約束したものね。
 
 
だから、
 
だから、ちゃんと見ててよ。
 
ね?





 
 
 
朝の静謐

good by my friend

(990716fri)

(このSSは、masterpieceさんから戴きました)





鯨のように、悠々と雲海の上を航行する船と、彼女はシンクロし、ともに空を泳ぐ。
彼女は、ターポンに意思があることを知っている。
実感、ではない。知っている、のだ。

「この船には、意思がある」
ロマンチックな話だ、と同じ船内に暮らす人間は思うだろう。理解を示す者がいたとしても、けっして、船に宿る「意思の存在」を実感しているわけではない。

たしかに、ターポンが、明確な意志を我々に示したことはない。
だが、類似した例がある。ターポンとのシンクロと、よく似たことを、室長の妹機、A7M2型が体験しているのだ。

「ミサゴ」と呼称される水上機とのシンクロである。
両ケースとも、ロボットと機械のシンクロである。彼女らの体験した心象風景などから推し量るに、両者に同様のことが起こっていると考えて良いだろう。

A7M2型とミサゴは、このとき積極的に、互いの意思を交わしている。

生まれたてのミサゴほどの、強い「我」や「意志」は、もうないようだが、老いた鯨のように、ターポンは悠然として、感覚を室長に提供しているのだろう。
このターポンとシンクロするとき、室長はおそらく、穏やかなターポンの意思を感じている。

シンクロせず、外から機体を眺める分には、ミサゴにもターポンにも、意思の光は感じられない。
彼らの意志は、シンクロすることの出来る、彼女らのみが「知って」いる。

朝、まだ誰も起きていない時間に、アルファー室長は船内をゆっくり歩く。
そして今日も、語りかける。
ちかしい友に。
ターポンは、人間ではない彼女の、唯一の同朋であり、そして最も親しい友である。
ともに老成し、彼女とターポンは、同じように時をすごしてきた。

そんなわけで、室長とターポンは、ともに孤独な友人だったという説です。
イラスト自体は、masterpieceさんの「ちょろぼヨコハマ」というホームページにある、アウトサイドストーリーからインスパイアされて描いたイメージ画だったのですが、上記のストーリーを着けていただき、そこから更に、この説が浮かびました。
今回の「朝の静謐」を、より一層たのしむために「ちょろぼヨコハマ」を一読することを、おすすめします。

原作で公式に表現されてはいませんが、ミサゴの例を引き合いに出すまでもなく、ターポンには、何らかの形で意思があると、私は思います。
長い間、共に生きてきた、その唯一の友人と分かれるとき、室長も、アルファさんと同じような涙を流すかも知れませんね。



制作環境:Macintosh Performa 5440(88MB)・Painter4.0・Photodeluxe・WacomArtPad2

横から見るとS字になっているボディラインを、うまく隠せました。
原作のような豊かな胸ではなく、偶然とはいえ「船と語らう」女性のイメージらしく、繊細な感じに描けています。
体の線を強調する服ではなく、寝間着にしたのは、そういう意味で正解でした。
寝間着なんです。これ。一応。

室長のカラー資料は、唯一、一巻巻頭第一ページの「青層圏」のみです。
しかも、それは先のシンクロイメージのため、正確な実物の資料としては信憑性に欠けます。
困りました。
朝のイメージなので、髪の色は薄色で仕上げましたが、原作で使用されているスクリーントーンは、アルファさんやココネよりも、濃いものです。ですが、室長だけは、普通の人間と同じような、瞳や髪の色をしているという説を聞いたことがあったので、もう、思うように色を着けました。要するに適当です。

これもまた偶然なんですが、原作の、冷静で落ち着いた表情の室長ではなく、やや暖かな表情に描かれたのは「友人」に心を許している場面だからです。ふだん「人」に接しているときは、もっと静かな表情でしょう、この人は。(偏見ですけど)

背景は、厳密なターポンの内装イメージではなく、どちらかというと工場のイメージです。あるいは研究所ですか。
遠近法で窓と窓枠と柱をならべて、床に陽光を落とし、天井にパイプを走らせました。あとはフォーカスをソフトにして、合成します。

今回は、とにかくイメージが先行しました。それにストーリーを着けていただき、さらにそれに近づく感じになおす、という作業でした。
それは、とても面白い作業でした。


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