北の町の見える丘。
アルファに誘われて、ココネは初めてここに来た。
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「はー、ここですか」 |
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「そう、ここ」 |
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「個人的なイベントっていうのは・・・?」 |
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「まだ時間があるの。ちょっと早く来すぎちゃったかな」 |
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「あ、わたしお弁当つくってきたんです」 |
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「わ」 |
アルファはうれしそうに手をあわせた。
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「サンドイッチ・・・」 |
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「サンドイッチっていうと、あのパンでハムとか玉子をはさんでたべるという・・・」 |
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「大丈夫ですよ。作ってきたのはジャムとか甘いものばかり挟んできましたから」 |
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「なあんだ、安心したよー」 |
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「タマゴとかもダメなんですか?」 |
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「うーん、動物性タンパク質はダメみたい。慣らしていこうとは、してるんだけどね」 |
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「そうですか。えーと」 |
ココネは籐の鞄を開いた。
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「これが野いちごのジャムサンド、あんずジャムサンド、チョコレートサンド、それはトマトとレタスです。こっちはスコーンとニンジンのクッキーです。」 |
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「おいしい! これは?」 |
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「ゆであずきとホイップクリームをまぜて、はさんでみました」 |
気にしないで食べていたアルファは、ほどなくしてひっくり返った。
全身の神経がビリビリと振動している。総覚的には、じ〜んと響く感じだ。
さっきまで泣いて平謝りに謝っていたココネは、ひざまくらをしてくれている。
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「大丈夫ですか、アルファさん。本当にすみません・・・」 |
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「ううん、もう大丈夫だよ。だいぶいいよ」 |
半身を起こす。
夕景に、空が焼けてきていた。
やがて天頂から群青が降りてきて、空を夜がつつむ。
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「これ・・・」 |
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「そう、これ」 |
水没した街の上で、無数の街灯が光っていた。
ヨコハマ考
社会的な地位など、すべて取り去った、ありのままの姿というのは、現代の社会では特にちっぽけに見える。
長い間つとめてきた功績や、たとえば社長といった地位が、まるで自分自身の一部のようになってしまい、いざそれがなくなると、急に自分がみすぼらしく思えてしまう。ありのままの姿とは、そういうものになってしまった。
たとえばアルファさんは、何ももっていない。とても自然に、ありのままに生きている。彼女から奪うことのできる社会的地位などは、あまりないが、仮に全てを奪っても、彼女はあまり変わらないだろう。
わたしはそんな彼女がとても好きだ。
「常連」という言葉でその距離を置いてはいるが、アルファさんに恋をする人は、作中の世界でも多いだろう。しかし、彼女は変わらず、時とともに恋する者だけが老いていく。残酷なことだと思う。
やがて訪れる別離を、苦しみとして予感させないのは、おじさんとアルファさんの仲がいいからだろう。こんな関係になれるならと、我々は安心できる。
しかしそれでも、ロボットと思ってしまうとき、私が安心して描けた「二人構図」の絵は、アルファとココネだった。彼女らは、同じか、同じ航路と速度の船にのっている。
制作環境:Macintosh Performa 5440(88MB)・Painter4.0・Photodeluxe・WacomArtPad2
北の町(横須賀だろうか)を見下ろす丘の上で、弁当を広げる二人。六巻のレコード3を見て思いついた絵でした。
二人が座っているのは、作中でアルファさんが腰掛けている、円環状の塀のつもりでしたが、描きあがってからよく見ると、こんなに幅はありませんでした。
小物(水筒とかサンドウイッチとか)を描く楽しさを発見した絵でした。
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