水銀燈
Mercury Lamp
(2005.05.12 )
伽藍とした廃倉庫の、すっかり土砂に被われた地面。
うっすらと舞っているほこりが、天窓からの光に浮かび上がって対流しているのがわかる。
頭上はるかにある天井と、逆光になってディティールの見えない天窓。
ひろいひろい限定空間で、周囲の野山から聞こえるざわめき以上に、妙に反響する物音。
そして置き去られた、要らない荷物。
その中に、わたしはいる。
いったいいつからここにいるのか、もうわからない。
誰におきざりにされたのかも、もうおぼえていない。
ただ、時が止まっていることを感じていなければならないことが、こんなに辛いとはしらなかった。
文月さん・すなふさんのサークル「パン食グランギニョル」の同人誌「遠い日のポオトレエト」の口絵に描かせていただいた水銀燈です。
設定はアニメ・原作・本同人誌ともに準拠してない勝手な妄想ということで。小説本でしたが、締切がほぼ同時だったため、本書の内容とは無関係に、これと雛苺の絵を描きました。(雛苺は後日更新予定)
ゼンマイが切れたまま捨てられた、あるいは置き去られた水銀燈。
せめて惨めな姿を見られないように物陰で、たまにあたる天窓からの光を甘受する日々。誰も知らない、誰にも忘れ去られた廃倉庫に、隠されるように彼女は捨てられています。
本当に、なにもない彼女。
どんな偶然か、ここに迷い込んだ少年によって水銀燈が復活するまでの苦節の日々・・・というあらゆる設定から逸脱してるサイドストーリーを描いたというか、そんな絵であります。
コンテンツとして真紅・翠星石を描いてきたので、つぎは水銀燈をと思いアニメを見返しました。
あらためて、自分の「不幸萌え」が励起されまくっております。
アニメでの衝撃的なラスト。田中理恵さんのものすごい演技も相まって、どうにか彼女を幸せにしたいとやるせなく思いつつも、あの水銀燈が幸せになるには、やはり一度とことんまで落ちぶれるしかないと思えてこの絵となりました。いや、幸せそうな絵じゃなくて、この絵で止めてるところとか自分でも悪質とは思うのですが、数あるドールのなかでも彼女ほど捨てられてるのがグッとくる人形もいませんし。・・・天野さん頭おかしいですね。