消えた浩平が、さっきまで確かにいたベンチに座り、みさきは彼の声を待つ。

永遠かと思うような時間の後、彼女はそこを発つ決意をした。

必死に公園まで来た記憶をたどり、一人で家まで戻る。
段差を踏み外し、道路を渡り損ね、ぶつかったおかげで、やっと確認できたガードレールから手を離さないようにゆっくり歩く。つま先が何かに当たるだけで全身が強(こわ)ばる。目の前に電柱などのどんな障害物があるのか、一センチまで迫っていても分からない。立ち止まったら、一歩も動けなくなることは分かっていた。ジリジリと躙(にじ)るようにでも進むしかない。自分がひどくみすぼらしい挙動をしているのが分かる。でも、必死なのだ。今の自分は、何をどうすればいいかも分からない。それでも、とにかく家に帰らなくてはならない。
 

何日も歩き通しだったような疲れとともに、みさきは、なんとか家に帰り着いた。
そして自分の部屋へ転がり込み、畳に座り込んだその瞬間。
大きな嗚咽と、涙がこみ上げてきた。

事情があったのかもしれない。
そう考えたかった。

だが、みさきは自分では理解も整理できない感情の奔流に弄ばれていた。
何も考えることができない。何もわからない。

ただ

彼がいなくなってしまったこと。

それだけが分かる。

だが、ただそれだけで、彼女の何もかもが失われてしまったことに、みさきは気がついていた。
 

(2001.09.29 sat)



 
 
 
 


「闇に暮れ」
 

 「ONE」の恐ろしさ

ONEは、比喩でもなんでもなく、真剣に「ゾッとする」クライマックスをもっているゲームである。

やむを得ない事情ではあるが、主人公は、自分の全存在を受け止めてくれた少女の前から消えなければならない。

これが悪質なのは、少女もまた主人公の存在を、自分の全てで受け止めていることだ。
二人は心情的に一体になっている。ともに生きると誓いながら、不条理に半身をもぎ取られ、突然に残された者には、途方もない喪失感だけが残る。

主人公である彼の消失は、彼女自身の消失に等しい。
 
 
 
 

 障害と恋

たとえば目の見えない少女と恋をする物語の場合、最終的に、手術などでその少女の目が見えるようになってハッピーエンド、という結末が考えられる。現実的な物語ではそうはいかないが「目が見えるようになった」という喜びと感動で物語が締めくくられることはあると思う。

だが、ONEというゲームにおいて、みさき先輩は目が見えるようにはならないし、澪も決してしゃべれるようにならない。そのままに生きている彼女たちである。

これが良かった。

恋しい人と、同じようにコミュニケーションが取れれば、どんなに素敵だろうか、とは主人公も思っただろう。だが彼は、彼女たちと憐憫でつきあっていたわけではない。
主人公は、彼女たちに気を遣ってはいる。だが、障害を気にはしていないのだ。

目が見えない、話すことができない、そういう彼女を、そのままに愛している。
目が見えるようにならないだろうか、話せるようにならないだろうか、と思わない。

それが素敵だった。
 
 
 

製作環境:PowerMac G4 450・WACOM FAVO・Painter4.0・PhotoDeluxe1.0

最初はブルーグレイの髪、肌色、クリーム色の服と、設定そのままで描いていたのですが、もとから色がきついONEのキャラクターのせいか、テーマに合いません。
結局、色調を調整して、青系統でまとめました。髪の色なんかは秋子さんになってしまいましたが。

視力を失ったものの心象風景を、背景と、人物の色で表現してみました。
長く目を閉じていて見えてくる、瞼の裏(眼窩の上?)の映像のつもりです。 私の場合はこんな風にキレイではなく、闇に黒っぽいムラサキ色の模様が、染みが広がるように繰り返されるだけなのですが。
 

みさき先輩は、樋上いたるキャラの中でも実に珍しく、顔の長い絵(カツカレー喰ってるところとか)がある女性キャラです。おかげでもう、描き甲斐のあることあること。
 


 
 
 
 













 

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