昔語り

once upon a time

(2001.09.26 wed)


まだ幼かった天野美汐の前に妖狐が現れたとき、彼女は必死になってその正体を探った。
答えはこの地方に伝わる昔話にあったが、妖狐が消えていくことに抗う術を、ちいさな彼女は何も持たなかった。
 

美汐は思う。

私の狐は永遠に失われてしまった。

だが、いまここに、もう一人の狐がいる。
長い年月を経たわりに、とても幼い狐。
それでも、まぼろしと思われた出現の果てに、その存在を現実にした、人間との強い絆をもつ狐が。
 

この子が現れたおかげで、私は過去の無念を、すこしだけど晴らすことができた。

この子のおかげで、私は過去の経験を、すこしだけど肯定することができた。
 

二度と読むまいと思っていた昔話を、こうして語って聞かせている。
あの狐は、もう二度と戻らないかも知れないけれど。
 


 
 
 
 
 

 沢渡真琴についてのいくつかの視点。
 
 

 女性としての沢渡真琴
 

真琴の最後は、祐一側からでは、可哀想におもえるだろう。 
だが真琴は、想っていた人に、心から受け止めてもらえた。あの娘はそれで、十分に幸せだったと思う。 
それこそ、彼女が望んでいた幸福だったからだ。 

端から見ると不幸に見えるかも知れない。切ないかも知れない。 

だが、私は思う。 

このラストは、真琴の想いが届いただけだ。 

でも「想いが届く」くらい幸せなことはない、と。 
 

どこかのサイトで、「真琴の最後は、女冥利に尽きる」といっていた女性がいた。 
まったく同意見だが、こういう感想を漏らす人は少ない。プレイヤーの多くが男性で、祐一に感情移入するからだろうか。 

真琴の最後は、幸せだった。 

こじつけでも理屈で納得しているのでもなく、ただ私はそう感じる。

(7月の自身の日記からの引用)

 
 

 お子様としての沢渡真琴
 

ただ、これは真琴を「女性」として見た場合の見解である。
このごろは、これを否定したくなってきた。

実際のところ、真琴シナリオにおいて、祐一は真琴を「女」として見ていないような描写が多い。
風呂に乗り込んでいったり、いっしょの布団でぴろと川の字で寝たりするなど、女性として何とも意識していないのだ。

二人の間に恋愛感情があったればこそ、真琴にとっての「女の死に場所」が祐一の腕の中だと思うことができ、ハッピーエンドとして了承できるのだが、矛盾の本質は、この物語が恋愛モノではないということだろう。

「結婚したい・・・」という真琴の言葉も、恋愛感情からでたものではなく、ただ「いっしょにいたい」という意志であれば、このシナリオは「恋愛もの」ではなく、舞シナリオと同じ脚本:麻枝氏による「家族の絆もの」であったと思われる。

であれば、いっそのこと真琴の設定は、AIRの「みちる」よろしく12才くらいの少女から幼女の間くらいの年齢にしたほうが、物語として安定すると思うがどうだろう。

Kanonの出発が18禁アダルトゲームであり、真琴にもそういう対象としてのシーンがあるので仕方がないが、登場初期のイタズラも、主人公の気持ちが、恋愛というよりも保護欲に近いものであろう点でも、やはり真琴はちびっ子の方がしっくりくると思う。
 

 
 

 動物としての沢渡真琴
 

これはホントにオマケだが、女性として相沢祐一の伴侶としての真琴、水瀬家に転がり込んできたお子様としての真琴以外に、ペットとしての真琴という位置づけもあることはある。

それは、真琴を失うことが「ペットロス」に近い喪失感だという見解があるからだ。
なるほど、とは思うが、ちょっと違う、とも私は思う。

他にも「おでん種としての沢渡真琴」「ジャムの材料としての沢渡真琴」など彼女のポジションは多岐に渡るが、これは割愛しよう。
 
 
 

真琴がみちるのようなお子様だとすると、主人公の支えになるヒロインとして、天野美汐が挙げられる。
こう書いた瞬間に狂喜する人間を約一名、私は知っているが敢えて言うまい。

真琴をFBIに捕まった宇宙人のように真ん中にして、祐一と美汐が手をとって学校まで連れていくシーンがある。まるで親子のようだ。そう思うと、美汐が母親役で、祐一の奥さんの位置というのも頷ける。

ただ、これだと真琴の結婚式が挙げられないので、最後に真琴の気持ちをどこにもっていくか、という問題が残るが、ここまで変えたら変えたなりの物語ができるだろう。AIRの美凪編(トゥルー)が、Kanon真琴シナリオの変化発展系なのかもしれない。(美凪編は佐祐理編の完成形、AIR観鈴編が真琴編の凄絶版という声はよく聞くが)
 
 
 

 絵について

「眼鏡をかけた舞」というリクエストがあり、次いで「眼鏡をかけた美汐」というリクエストがありました。前者はキリ番ヒット、後者はトラブルから助けていただいた御礼なのですが、依頼は両方とも、筋金入りの眼鏡っ娘マニアで、その筋金自体がチタンフレーム(眼鏡の材料だネ!)でできているというKAZZ氏です。

最近、仲間内では美汐がちょっとしたブームで(特殊なブームなので中心核の文月さん以外どうなるかわかりませんが)それで、応えてみたくなったのがきっかけでした。

舞のときもそうでしたが、眼鏡の美汐というのには、ちゃんとした意味があります。

人間の身体機能は、メンタルなものにとても左右されやすく、視力については、暗がりでの読書や長時間のモニター視などの、外的な要因以外に「見たくないものがあると、視力は落ちる」という説があるのです。

幼少の頃に失った、妖狐の想い出がそうさせたのではないでしょうか。
心を閉ざすほど、見たくない現実があったのですから・・・。
 

眼鏡っ娘ファンには、眼鏡さえかけていれば誰でもイイというのではなく、ちゃんと意味が必要なようです。
たとえば、真琴に眼鏡をかけさせるいわれはないですが、美汐は読書家ですし、上記の意味性からも、眼鏡をかけることには、なんの問題もありませんね。
 

絵はKanonの冬の、二年後くらいの話です。
美汐は三年生ですね。
大人っぽく成長した様子を描いた・・・と書くとそれらしいのですが、つい頭身の高い人物絵を描いてしまうクセがあるので、あとでこういう設定にしました。

真琴が美汐と同学年の制服を着ていられるという現実が発生しうるかどうかは、検討の余地はありません。無理です。
ですが、あちこちのパロディ(笛氏のそれが秀逸ですな)を読んでいると皆さんやってらっしゃるので、つい描いてしまいました。

卒業した名雪から制服のワンピースを、出席日数不足から留年したであろう栞からケープの部分を香里経由で譲ってもらって、美汐との「おそろい」を楽しんでいるのかもしれませんね。
 
 
 

製作環境:PowerMac G4 450・WACOM FAVO・Painter4.0・PhotoDeluxe1.0

頭身の高い絵が本分なので、いたるキャラを描くのがつらいです。

ONEより大人しいとはいえ、赤い制服など派手な色彩の多いKanonですが、今回はおちついた、現実的な色に統一しました。

髪は両者とも、基本は現実的な黒。それを薄く塗ります。真琴はやや薄めに。その上で、それぞれの髪の色を乗せました。
制服の色も、枯葉色にうすく赤を乗せています。

Kanonの舞台は新しくてきれいな学校なのですが、その時点での制服の枯葉色には、どうしても木造校舎が合うと思ったので、このようにしました。
 

あえて筋を通すなら、この絵は、美汐が通っていた木造校舎の小学校に2人で潜り込んで、彼女がむかし読んだこの地方の昔話、とりわけ「ものみの丘の妖狐」の話を語って聞かせている場面でしょうか。
 

心地よい寒さと、暖かさのある、微笑ましい絵になりました。
 


 
 
 













 
 

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