初めてクリアした頃、自分のイメージの中では、彼女はまだ、とてもぎこちなかった。

この絵にしても光源に背をむけて、壁に寄り添うようにして、顔を隠している。

(2000.10.09 mon)







舞シナリオ・ラストの解釈
 

日記でも散々書いたが、舞シナリオは難解である。
そして「はじめてやったシナリオが一番感動的」という噂にもれず、私も一撃で舞シナリオにやられてしまった。
それから、舞シナリオ解釈を追求する日々がはじまった。
いまだ釈然としないが、これまでに感じ、考えたことをまとめておこう。

ところで、本文は、m&n氏による舞シナリオの考察ページをベースに考えを進めているため、そちらとだぶる点が非常に多い。他にも拝読した多くの考察から様々な影響を受けていると思う。解釈は人の数だけあるとも言えるが、一つの演出、効果、内容に対する反応である以上、先人たちと全く別の考えを示すのは難しい。
ただ、これが天野拓美が感じ、選択した解釈であるという点と文芸だけが、オリジナルであろう。情けない話だが、ネット上でここまで出遅れては仕方があるまい。
 
 
 
 

舞シナリオは、ほとんど最終日になって、物語の真相が明らかになっていく。
ただ、わずかな会話とモノローグ、そして画面効果だけが流れていくため、その複雑な構成の意図を理解するのは、難しい。

ゲームの進行ではなく、実際の時系列にそって、その解釈を書いていこう。
 
 
 
 

舞の母は、舞を産んだことがきっかけで体をこわし、入院していた。そして、舞と動物園へいくという約束を果たそうとして力つきる。
いきなり脱線するが、ここで筆者は死ぬほど泣いた。
舞の、母の復活を願う純粋な祈りから、「力」は誕生した。「命の復活をもたらす超能力」の発現である。
母はそのおかげで命を取り留めた。しかし、TVで騒がれた舞の超能力は、やがて彼女から友達を奪う。迫害を受ける日々があった。
 

そして、運命的とも言える祐一との出会いである。
彼は力を含め舞を受け入れるが、事情で離れていってしまう。
舞は、それを引き留めるために「魔物があらわれた」と嘘をついた。
祐一といっしょにいたいと、舞は純粋に強く願った故にだ。

果たして魔物は現れた。それはもともと彼女のもっていた超能力が分離したものである。

かつての友達と同じように、祐一も、自分のこの力を嫌って離れていってしまった・・・。
舞はそう思った。
子供の思いこみであり、誤解である。
だが、その悔しさと、力に対する拒絶、そして魔物の存在を強く願う強迫観念が、舞から力を引き裂いた。
舞が、そのことを憶えていないのは、それが、思い出したくないくらいの、辛い思い出だったからだろう。

舞は、半ば心を閉ざして、自らの半身でもある魔物と戦い続けることになる。
実に10年。

魔物となった力は、それでも舞に帰還したく、舞に関わろうとした。
しかし力は、魔物としての位置しか与えられておらず、また舞自身によって拒絶された存在であるため、攻撃によって舞と関わるしかなかったのだろう。
 

そして、物語がはじまる。夜の校舎において祐一との出会いがあった。
魔物は、分離の原因である祐一に助けを求め、よく現れるようになるが、祐一にはその事情は理解できない。
二人は一ヶ月弱の間、ともに魔物と戦い、食事をともにし、共通の友人と過ごした。

そして、ついに四体目まで魔物を倒す。
だが、魔物というものは、舞から分離しているとはいえ、舞を原因者とする存在なのだ。いわば舞の一部である。魔物を討ち倒すごとに、その証の如く、舞の体は生きたまま腐っていった。
このとき、舞はすでに満身創痍だった。

四体目の魔物を倒し、戦いは終わったはずだった。
だが、教室に舞の姿がない。最後の魔物がいることを悟った祐一は、舞を探して走った。
そのとき、最後の魔物の不意打ちにあい、祐一は倒れる。一撃のショックからか、ここで祐一は魔物の正体を黙示させられる。(この場合の「黙示」は、視力も意識もある状態で、目前とは別の情景を「見せられる」霊現象)

それは傷ついた少女だった。そして、それが10年前に出会ったことのある舞の姿をしていることに気がつく。
正確には、10年前に分離した舞の「力」だった。だが、舞自身であると言っても良いだろう。

混濁する意識の中、10年前に出会っていた舞とのことを、祐一は思い出した。
「魔物」であり「まい」であり「力」である存在が、助けを求めるように祐一を呼ぶ。
魔物は希(こいねが)う。祐一に、舞が力を受け入れるよう手伝ってほしいと。

祐一は立ち上がり、かつて思い出の麦畑があった場所を目指す。現在は校舎になっている一教室だ。
舞と合流した祐一は、彼女に魔物の正体を話す。
このとき魔物は二人の至近距離にいながら、攻撃をしない。
舞にも、戦ってきた魔物の正体が、かつての自分の超能力であったことが分かる。その目に麦畑の景色が浮かんだとき、彼女は思い出していたのだ。

しかし舞は、力との融合を拒絶し、剣にすがろうとする。
祐一は、剣を捨てた舞と共に生きることを約束した。解ける10年前の誤解。
急に自分の存在があやふやになってしまった舞。
少し混乱したが、同時に舞は、このとき戦いの構造を理解した。

理解してしまったのだ。
 

佐祐理がケガを負ったとき、逆上して暴れたほど友達を想う舞だった。彼女は、愛する他のために自己犠牲をいとわない性格者である。
だが、祐一を傷つけたのも、佐祐理の頸骨を折ったのも、もとは自分の力だったのだ。
子供の頃のことと、舞は決して想わない。彼女は責任感が強く、なにより真面目だ。
そんな彼女を、祐一が許し、包もうとするほど、彼女は自分自身が許せなくなる。

力を受け入れて、何もかも忘れて、三人で暮らそうと提案する祐一。
その話は、舞にとっても、本当に幸せそうな日々に見えた。

祐一や佐祐理と、ずっといっしょにいたい。
だが、この幸せで純粋な願いは、舞自身にとっては、甘美な毒のようだった。

彼女は同時に、自分のせいで死にかけている佐祐理や祐一のことを思う。
佐祐理は、こんな自分でも、いままでと変わらない友情を示してくれるだろう。
そして祐一も、自分を愛してくれる。もう、それを信用してもいい。

「ありがとう」

祐一も、佐祐理も傷つけたことへの自責。
おそらくはそれ以上に、これからも自分は二人を傷つけるだろうという恐怖。

「本当に、ありがとう」

自分は、この恐ろしい力をもった自分は、その幸せの中に入っていけるのか。
たぶん、いや、間違いなく、自分はこの二人を、同じように傷つける。今度こそ、殺してしまうかもしれない。

それだけは、絶対に出来ない。
その生活が幸せであればあるほど、自分は、そこに関わってはいけないのだ。

「すきだから」

嫌いじゃない、が好きになった。舞の無意識のうちにわだかまっていた誤解が解けていた。

自分は、この力を道連れに、いなくなります。

「ずっと私の思い出が…」
「佐祐理や…祐一と共にありますように」

舞は自刃し、果てた。
悲嘆に暮れる祐一が、急速に物質になっていく舞を抱き、あったであろう幸せな日々を夢想する。

その中に、「力」の声が入る。とりのこされた「力」が、祐一の精神に語りかけたのだ。
舞は、自分の思い出が、祐一とともにあるように願った。
祐一が舞のことを好きで、ずっといっしょにいてくれるなら・・・。
命の復活を本分とする力は、純粋な祈りを基台に、それを果たすことが出来る。

舞自身の、祐一といっしょにいたいという純粋な願いの成就と、舞への帰還を希望し、おそらくは自分としても祐一の願いを叶えたいと思う力は、そのための場所を作った。
現実ではない、精神世界における空間であり、おそらくは「力」がその能力を発揮するための場なのだろう。
それは、10年前の麦畑が、象徴的に再現されたものだった。

今は校舎になったこの場所で、
もう一度出会いの挨拶をし、
あのとき出来なかった、そもそも力が分離する原因となった別離をうち消す「ずっといっしょにいる」という約束ができれば、舞は、力を拒絶することはなく、希望として受け入れてくれるはずだ。
力は、それを願った。

舞の力は、希望であったはずだ。
それはこの後で、死にゆく舞が、母の回想をたどるなかで思い出す。このとき、すでに舞は精神だけの存在であったのかもしれない。

そして、
「くるよ」
力がつくった世界、陽光射す麦畑で、力に導かれた祐一と、母の思い出を回想した舞の心は再び出会う。
そして10年前の再現。それは挨拶と、そして出来なかった約束の実行。

きっと今なら、帰れると思うから・・・
力はそう舞に期待をかけて語る。

これは邪推だが、「まい」すなわち「力」が死者を蘇らせる力なのだとすると、舞の肉体的な死という条件なくしては、力は舞の元へ戻れなかったのかもしれない。
舞の母が復活するときも、力が作った場所で、「力」と「10年前の舞」と「母」との邂逅があったのかもしれない。
 
 
 

そして舞は力を受け入れた。
命を復活させる力と、生きる力である希望を。
死の淵から、舞は蘇った。
 

いま、卒業式を終えてエピローグが暖かく流れていく。

重傷だった佐祐理さんの回復は、手放しで喜ぼう。そして、力を受け入れた舞が、今こうして祐一や佐祐理といっしょにいる。

恐怖ゆえに自殺までした彼女が、こうして生きている。
 
 

舞は、勇気をもって現実へと踏み出したのだ。
自分が誰かを傷つけるかもしれないという恐怖をこえて。
 
 
 
 
 

これが、私の、舞シナリオに対する解釈である。

佐祐理さんの首の骨がへし折れていたのが、二ヶ月で完治というのが腑に落ちないが、最後の卒業式のシーンは、パラレルワールドではなく、舞が生き返った結果の世界であると思う。
一時期は、様々な状況が挿入される演出の意図を計りかねて、どれが現実か分からなくなり「時間跳躍という超能力によって10年前からやりなおしたのでは・・・?」とも考えた。
だが、やはり世界はそのまま進んだのだ。
佐祐理さんと舞、そして祐一の関係が、まったく変わらないことを見ると、そう確信できる。
 
 
 

難解なシナリオだった。
だが、日記にも書いたとおり、それは演出を優先させた構成ゆえなのだ。
理解できて見るラストの感動は、胸の奥まで落ちてくる。

Kanon全編をクリアしたが、自分には、やはり舞シナリオが一番だった。
 
 


 
 

GO TO
[タイトル] [もどる]