「あーあ、寝ちゃったわ」トイレから帰ってみれば、四人掛けのテーブル席で、名雪が無防備に沈没していた。
香里は隣の席に座って、クラスメートの寝顔を眺める。名雪が寝不足なのはわかっていた。
相沢祐一の願いを察して、昨夜は、四人で遅くまで街路樹の根本を掘り返し、そのあとは見つかった古い人形を、名雪が一晩で修繕し、そして今日は遅刻もせずに学校に来ていたのである。いつも夜9時には眠っている名雪が、である。
先の人形のことは、おそらく名雪が香里に話したこともある月宮あゆに関することなのだろう。
名雪から伝え聞く限りでは、相沢祐一はその子のために、あの人形を探していたと思われる。当の相沢祐一は、家で眠っているらしく登校してこなかった。
彼は夕方ごろにやっと起き、名雪が繕った人形をもって、どこかへ飛び出していったそうだ。相沢祐一が月宮あゆを愛していることは明白である。
その上で、香里は名雪に訊いた。
珍しく夜遅くに、名雪が外で会おうと、香里をさそったこのファミレスで。
「名雪、相沢君のことすきなんでしょ? 」
なのになぜ、月宮あゆと相沢祐一との恋路を助けるようなことをするのか。
そんなニュアンスの質問だった。寝てしまった名雪を見つめながら、香里は、そのとき親友が答えて言ったことを思い返す。
「わたしだって、好きな人には、好かれたいとおもうよ。たとえ・・・」
名雪が少しだけ目を伏せた。
「選ばれなくても」
香里はその言葉を聞きながら、こんな名雪の顔は初めて見たと思った。
背もたれに頭を預けて、浅い眠りにある名雪を、香里はじっとみつめている。名雪の寝顔が歪んで、声にならないかすかな呟きがもれた。
だれか、たすけて・・・。
名雪は夢の中で、なんども叫んでいた。
ちょっと前に「Love Me or Leave Me」を描いた頃から感じていたのですが、どうも私は名雪のことがけっこう好きなようです。それも、名雪シナリオ以外の名雪が。名雪シナリオ以外の名雪は、祐一が愛する少女との恋をサポートし続けます。本人のシナリオをやればわかりますが、あんなに祐一のことが好きなのにです。これはちょっとたまりません。各シナリオで、便利なキャラクターのように扱われていますが、その背後にどんな思いがあったのか。それを察してあげたいと思いました。
ただ人がいいとか、暇だとかそういう理由で、名雪は祐一を助けているわけがないのです。むしろ彼女の素直な気持ちをぶちまけるなら、真琴のために家族でファミレスに行くのも、栞と昼食をとるのも、舞のためにカチューシャを買ってくることも、そして、あゆのために人形を修理することも、死んでも嫌なはずです。
でも彼女は嫌な顔ひとつせず、それを祐一につなげる。その心情はどこにあるのか。
絵は最初ほのぼのした絵のつもりでしたが、名雪を描いているうちに、そんな事に思い至り、この短いエピソードをつけてみました。
製作環境:PowerMac G4 450・WACOM FAVO・Painter7
テーブル上にノートパソコンやらガチャポンのKanonフィギュアなどを陳列して、マニアックな話題でド深夜までねばりぬいたために、ウエイトレスがついには水すら持ってこなくなった横浜の某すかいらーくで撮った写真を参考に、配色や小物を描きました。背もたれなど細部は全然違いますので、あくまで参考ですが。最初は百花屋にでもしようかと思ったのですが、夜の雰囲気が欲しくてファミレスに。私が高校の頃なんて、ファミレスはおろか、県庁所在地まで行かないとマクドナルドもありませんでしたが、時代は変わりましたねえ。でもまだ高校生の、というより大学生が集まる場所、という感じがします。よく行くガストのちかくに大学があるからでしょうか。