美汐のくせっ毛に、丁寧にブラシをあてる「なお」
愛おしげに、そして、すこしだけ誇らしげに、ひとふさひとふさを梳(と)かしていく。
ちょっと緊張していた美汐が、だんだん体重を預けていく。

わたしには母親というものがわからない。
これが母親というものなのだろうか。
とても気持ちが良い、ということは、それでも分かる。

でも。
でも、なぜこんなに悲しいのだろう。

美汐は、やすらぎながら、悔しさに似た気持ちに戸惑っていた。

(2001.09.13 thu)






「奇跡の邂逅(わくらば)」

真琴シナリオで登場する美汐は、相沢祐一以前に、真琴と同族と思われる妖狐との、邂逅と別離を経験している。
だが、その妖狐に関しては、公式には何も語られていない。
それゆえに、KanonのSSを書く者は、いくつもの憶測をあてはめてみる。
数多あるSSの中で、私が最も納得でき、それ以上に、その関係性に感動したのが、摂津(せっつ)氏(せっつWorld!)の

『味噌汁の日』

だった。
この中で語られている美汐の慕った妖狐「なお」は、彼女の失われた母の位置に現れる。
作中にこの絵のような場面はおこりえないのかもしれない。「なお」を、美汐が母と認めてすぐに「なお」の滅びがはじまったからだ。

だからこそ、この二人の睦まじい様子を描きたかった。
こんな日常があったことを願って。

もしこの日常があったなら、美汐はたぶん悲しさと、悔しさを感じたと思う。
母の愛をしらなかった彼女は、たぶん、いまこの髪に添えられているやさしい手のぬくもりが、本当は自分も得ていたはずのものだったのだと思うのだ。
誰もが得てあたりまえのぬくもり。それを自分が得てこなかったことに、たぶん彼女は悔しさを感じるのだろう。涙を流すかも知れない。

それを感じる間もなく、しかし「なお」は消えてしまった。
この絵を描くことで、彼女のなかにその日常を肯定できたら幸いである。



製作環境:PowerMac G4 450・WACOM FAVO・Painter4.0・PhotoDeluxe1.0

今回絵として苦労したのは、なにより時間がかかった背景と、どうしても決まらなかった美汐の表情でした。

背景は、本来は建て売り住宅のようなイメージなのだと思いましたが、SSを読んでいて、この絵が「落っこちてきたとき」に、すでに「日本家屋のイメージごと」だったので、このように仕上げました。
その後、せっつさん本人に確認したところ、まさにこの如くだったそうなので、驚きです。

苦労した点は、障子の裏側から見た質感を手描きで出すところ。透けて見える格子を、エアブラシ(細)の白い直線と焦げ茶の直線で描き、全体に影をつけ、障子の方形の真ん中だけ影を消しゴムがけして仕上げました。

背景のみ、上の方だけ、グラデーションで影を落としています。日本家屋には鴨居があるので、室内の天井付近は暗いのですが、その雰囲気を出しました。
その上で、人物だけ光っている加減にして合わせてあります。

「なお」のカラーリングは、作中の描写にあわせました。
真琴の髪(キツネ色)、ジャケット(ブルー)、スカート(黒)の色が分配されているわけですね。背景が淡い色合いなので、それに合わせて色調を整えてあります。

美汐は、悔しさの表情は無しに、描きました。
なんか服のセンスがオバさんくさくて非道いのですが、この二人は色数が多く、質素な背景に浮いてしまいそうな気がしたため、同系色の服にして、誤魔化しました。

最初は下のラフのように子供っぽい表情だったのですが、文月さんに感化されたのか美汐が好きになってきたために、いろいろ手を加えているうちに、くつろいだ表情になりました。

せっつ氏のSSは、わたしの読んだ中では、少なくとも私の琴線に触れるという限定条件において、およそ最高の出来です。
とりわけ、この『味噌汁の日』他にも『残影』などなど。
Kanonをひととおりやったあとであれば、ぜひ一読ください。

















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ラフと、完成時のサイズ