渡辺道明先生御来訪記念

サイザーに仕えるオカリナの心情を勝手に語る。
 
1998年4月12日、ハーメルンのバイオリン弾きの原作者・渡辺道明先生が、当HP・夜想曲にアクセスしてくださり、感想を残してくださいました。
恐悦至極というしかない心境ですが(あとは叫ぶしかない)、きちんとしたお礼とともに記念にこのコーナーを作ってみました。小説という形をとって、オカリナの心情を、例によって独自に解釈したいとおもいます。
 
 
 
 
小説「この日が、この時がくるまで」

 
すべてが終わり、パンドラは水晶から解かれ、サイザーは母との再会をはたした。
これは、その夜のエピソード。

オカリナがサイザーの髪をといている。
ふたりとも、寝巻きでくつろいだ雰囲気だ。二人の寝室には、ろうそくのぼんやりとした灯りが揺れている。
静かだ。かすかに遠くから、虫の声がきこえている。

椅子に腰掛けて、されるがままに髪を預けているサイザーが、目を閉じたまま、背後のオカリナに話しかけた。

「こうやって、お前に髪をといてもらうのもひさしぶりだな」

「はい・・・。昔はよくこうして、いろいろな話をしましたね」

「こうして私が母と会えたのも、お前のおかげだ・・・。」

オカリナは我知らず手をとめて、サイザーの美しく流れる、豊かな髪を見つめていた。

「北の都にさらわれてから、ずっとお前が、わたしの世話をしてくれた」

心の中だけで、オカリナはつぶやいた。

・・・最初はベースに命じられたからでした。ですがそれは私の真意ではありません。

「わたしが傷ついたときには、いつもお前が手当をしてくれた」

・・・わたしが貴方にお仕えしたのは、パンドラ様が水晶に縛されるまでの辛いお気持ちを、ベースの水晶を通して見ていたからです。まだ、乳離れもしていない貴方と、悪魔のように扱われていたハーメルを遺して消えなければならない、あの瞬間、それがどんなにお辛いことか、私には骨に徹るほどどよくわかりました。女でなければ分からない辛さが、私には、良くわかったのです。

「奪われてしまった魂を取り戻してくれた。そして死地から何度もたすけてくれた」

・・・命じられたからではなく、義理でもありませんでした。

「いままで生きてこられたのは、すべてお前のおかげだ。」

・・・パンドラ様のお辛い気持ちを知った私は、心の中でパンドラ様にお誓いしたのです。ハーメルのことは父が、そしてサイザー様のことはこの私がお守りいたしますと。

「本当に、感謝している・・・」

「・・・・・」

オカリナは手を止めたままだった。
いぶかしく思ったサイザーが、オカリナを振り向こうとする。
その時オカリナは、サイザーの頭を、後ろから思い切り抱きしめていた。
どうしようもなく気持ちがあふれる。
自分の涙が、サイザーの頬を伝うほど泣きながら、やっとオカリナは

「・・・はい」

とだけ答えた。





オカリナの心情は、ある意味でサイザーの母だったのです。

おそらくは、母娘再会のとき、心からの祝福とともに嫉妬も感じていたのかもしれません。
サイザーの、最も近くに、最も長く生き、実体で彼女を愛してきたのは、オカリナでした。
オカリナは、サイザーがまだ赤ん坊だった頃から、お世話役をしていたのです。
(18巻でサイザーの手当をする回想シーン参照)

魔族の中にあって、彼女の母性本能が、サイザーを育てたと言っていいでしょう。サイザーに対して、仕官しながらも、母のような気持ちがあったと思います。

ですが決してオカリナは、そのことを語りません。伝えようともしないでしょう。
サイザーが母を救出したとき、まっすぐに気持ちが母へ向かうように。自分に引きつけてはならないことを、オカリナはよくわかっていたのです。

オカリナの、あの仕える姿勢は、実はこんな決意に裏打ちされていたのではないかと、わたしには思えてならないのです。

19巻で、"生きる" ためにヴォーカルに立ち向かっていくサイザーを見上げて涙する、オカリナの表情。24巻でのあまりにも静かな、オカリナの決意。この娘の行動、信条は、ただの主従ではありません。あまりにも彼女が心情を吐露しないので、わかりにくいのですが、わたしはこうだったと思うのです。

わたしたち、サイザーのファンのかわりになって、サイザーを支えてきたオカリナです。
できれば、できれば、最後の戦いでも生き残って欲しいと、切望します。
 

(980413mon)




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