渡辺道明先生御来訪記念 サイザーに仕えるオカリナの心情を勝手に語る。 オカリナがサイザーの髪をといている。 椅子に腰掛けて、されるがままに髪を預けているサイザーが、目を閉じたまま、背後のオカリナに話しかけた。 「こうやって、お前に髪をといてもらうのもひさしぶりだな」 「はい・・・。昔はよくこうして、いろいろな話をしましたね」 「こうして私が母と会えたのも、お前のおかげだ・・・。」 オカリナは我知らず手をとめて、サイザーの美しく流れる、豊かな髪を見つめていた。 「北の都にさらわれてから、ずっとお前が、わたしの世話をしてくれた」 心の中だけで、オカリナはつぶやいた。 ・・・最初はベースに命じられたからでした。ですがそれは私の真意ではありません。 「わたしが傷ついたときには、いつもお前が手当をしてくれた」 ・・・わたしが貴方にお仕えしたのは、パンドラ様が水晶に縛されるまでの辛いお気持ちを、ベースの水晶を通して見ていたからです。まだ、乳離れもしていない貴方と、悪魔のように扱われていたハーメルを遺して消えなければならない、あの瞬間、それがどんなにお辛いことか、私には骨に徹るほどどよくわかりました。女でなければ分からない辛さが、私には、良くわかったのです。 「奪われてしまった魂を取り戻してくれた。そして死地から何度もたすけてくれた」 ・・・命じられたからではなく、義理でもありませんでした。 「いままで生きてこられたのは、すべてお前のおかげだ。」 ・・・パンドラ様のお辛い気持ちを知った私は、心の中でパンドラ様にお誓いしたのです。ハーメルのことは父が、そしてサイザー様のことはこの私がお守りいたしますと。 「本当に、感謝している・・・」 「・・・・・」 オカリナは手を止めたままだった。 「・・・はい」 とだけ答えた。 オカリナの心情は、ある意味でサイザーの母だったのです。 おそらくは、母娘再会のとき、心からの祝福とともに嫉妬も感じていたのかもしれません。
魔族の中にあって、彼女の母性本能が、サイザーを育てたと言っていいでしょう。サイザーに対して、仕官しながらも、母のような気持ちがあったと思います。 ですが決してオカリナは、そのことを語りません。伝えようともしないでしょう。
オカリナの、あの仕える姿勢は、実はこんな決意に裏打ちされていたのではないかと、わたしには思えてならないのです。 19巻で、"生きる" ためにヴォーカルに立ち向かっていくサイザーを見上げて涙する、オカリナの表情。24巻でのあまりにも静かな、オカリナの決意。この娘の行動、信条は、ただの主従ではありません。あまりにも彼女が心情を吐露しないので、わかりにくいのですが、わたしはこうだったと思うのです。 わたしたち、サイザーのファンのかわりになって、サイザーを支えてきたオカリナです。
(980413mon) |