ネタバレ注意:このページは、月刊ガンガン99年1月号の内容をもとに書かれています。
いまさらですが、コミックスのみを追う方や、まだ読んでいない方には、なんらかの被害がおよぶ恐れがあります。御注意ください。
サイザーはその手の中でオカリナを失った。 人を寄せぬような崖のはしに墓を立て、かたわらでサイザーは茫然と時をすごしている。
ときおり、一度は失った左腕を、右手で握り締める。 そして泣き疲れてねむる。もう何日もこんな日が続いていた。 膝をだいて座ったまま、サイザーは空を見ていた。 すみきった夜空に、降るような星が視界を圧倒している。 オカリナは死んではいない。 だがサイザーは悲しかった。オカリナの存在の喪失、その死が改めてわかってしまうからだ。
ライエルは毎日のように、花輪をもってくる。 オカリナのためにトロイメライを吹こうとして、泣いてしまう。吹くことができない。
ライエルがまた花輪をおいていく。 サイザーは立ち上がっていた。 まるで力のぬけた姿で、うなだれている。そのままふらふらとライエルに近づき、サイザーは自分の頭をライエルの胸におしつけた。 「ライエル...」 呟くような声が聞こえる。ゆっくり腕をあげたサイザーは、その両手でライエルの胸ぐらをつかみあげた。 「もう、これで最期だ。これきりだ....」 なにを言おうとしているかは分からない。しかしライエルはこの人を受け止めようと思った。
「....泣いても、いいか?」 ややあって、肩が小刻みにふるえだし、サイザーは嗚咽を漏らした。 そして、ライエルは決して泣かなかった。よりかかっていつまでも泣くサイザーを、彼は支えつづけた。
サイザーは、トロイメライを吹けるようになった。 それからライエルは、はじめて、仲間の死を悼んで、涙を流した。 サイザーは、その聡明さからオカリナの死とその意味を理解することはできると思います。
サイザーは自分一人で、自身の感情に整理をつけ、ライエルに微笑んだのかも知れません。
この隙間的エピソードの中で、ライエルは、胸元で泣きじゃくるサイザーを受け止めつつも、不安だったと思います。震える姿を見ながら、まだこれほどの悲しみがあるのか、と。
だから、それがサイザーにとっての最期の気持ちの整理で、おもいきり泣いた後は、普通に話もできるようになり、もう、彼女の中では生きようという気持ちができていたのです。ライエルはそれに少し驚いたような顔をし、とまどいますが、安心します。 そして彼は、サイザーが明確に立ち直ったことを確認して、そして、それからはじめて、オカリナのために泣くのだと思います。 フルートもオーボウも、オカリナの死を悲しんで泣いたことでしょう。 (981213holy) |