ぬくもり
「...じゃあ、オカリナが私の、お母さんね...」
あの日から、ちいさなサイザーはオカリナにしがみついて眠ることが多くなった。
さみしさが募って、どうにもならないとき、サイザーはオカリナに抱きついた。
愛しい母の胸で眠りたい。
ほほを寄せてくるサイザーの思慕の情が、オカリナには骨に徹るほどよくわかった。
たとえ夢であっても、まぼろしであっても、せめてぬくもりに包んであげたい。
オカリナのなかで、何かが変わりはじめていた。
10年も前のことだった。
再出発の朝
スコアの町を後にし、ケガの治療を終え、ハ−メルたちのパーティーは、エアシュテルベントを目ざす計画を立てる。その夜、オカリナは独り出発した。サイザーを探すために。
音を立てないようにして、オカリナが小屋の外へでる。
まだ夜が明け切らない薄明かりのなか、包帯をとき、羽根を広げようとしたオカリナは、背後に気配を感じて、振り向いた。
小屋の入り口に佇んでいたのは、オーボウだった。
焼け付くような視線を、オカリナの澄んだ湖のような瞳が受け止める。
彼女には何の迷いも無かった。
ゆっくりと、夜が明けていく。
やがてオカリナは、まだ血の跡の残る羽根を広げ、ふわりと飛翔した。一度だけふりかえり、そして去っていく。
その姿が見えなくなるまで、身じろぎもせず、オーボウが見送る。
それが残り少ない寿命に賭けられた、奇跡への挑戦であることを、彼もオカリナも、わかっていた。
散 華
父上
わたしは妖鳳王の副官として、そして従者として、サイザ−様を護ってきました。
サイザ−様がパンドラ樣との再会をはたし、これでもう大丈夫だという時が来たら、自分は身を引こうと思っておりました。
ですが私は、そこまであの子を見てあげられなくなった。もう、お別れをしなければならないようです。
私のこの行動は、従者としては、そして最初の誓いから考えれば、恥ずかしいことです。するべきではないことです。
けれど、いままでお育てしてきた、あたりまえの母親としては.....せめて一度、母としてこの子を抱き締めたかった。
どうしても、がまんができなかったのです。
妖鳳の翼を持つものとしては、ふしだらなことだと思います。
どうか、父上、そしてパンドラ樣、お許しください。
翼を持つ二人の抱擁は、一瞬、それが親子のそれであるような錯覚をおこさせます。
オカリナの心情を勝手に語るとともに、これを描くことがテーマでした。
製作環境:Macintosh Performa 5440(88MB)・Painter4.0・Photodeluxe1.0・WacomArtPad2
夜想曲に数ある「抱擁もの」のなかでも、これは一番むねに迫ってきます。
それこそサイザーを抱きつぶすくらいに力の入った抱擁を、と考えていましたが、オカリナの腕の方が砕けてしまいそうな気がして、割散する肉体に、充分な力も込められないような抱擁になりました。
月明かりの絵は、まずシーツを仕上げ、そのうえで人物をそのままのカラーで塗ります(肌色は肌色、金髪は黄色で)。そしてその上に水彩で月光の青を塗り、ハイライトの部分のみ、水彩消しゴムで消します。これで、作例の程度ですが月明かりに照らされた人肌が表現できます。あとは、不要な主線を、できる限り消していったことくらいです。
二枚目は、まず薄黄色で背景の光線を描き、それにさからわないように、全体に薄い色相で着色していきます。光が強くあたっていることを表現するために、消しゴムブラシのブリーチを使いました。消した時、まわりが明るく飛ぶので、光線反射に良いです。
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