tea for you

こたつ で みかん

butterfly dream

(981109mon)



「わたし、紅茶のほうがいいな」

こぽこぽと湯気を立てながら注がれるお茶を見ながら、サイザーが言った。

「だめよ、こんな遅い時間に。ほうじ茶なら、眠れなくなることもないから」

パンドラが、飲む直前に、フライパンで独自に炒り具合を調節したほうじ茶である。
強火で香りが立ちはじめるまで、かるく炒る。そんなことまでしなくてもいいのに、とサイザーは思っていた。

「一杯のお茶をね」

急須の最後の一滴を待ちながら、パンドラが話しだす。

「ていねいに、こころを込めていれると、それだけで、味がかわってくるのよ。おぼえておきなさい、サイザー、相手のことをどう思っているか、まで、いれたお茶には出てくるの。相手のことを本当に愛していれたお茶は、それだけで、異常なくらい美味になるのよ」

セーターのすそから指だけのぞかせて、両手で湯飲みを持ったサイザーは、不思議そうな表情で、香ばしい香りをたてるお茶を眺めた。そっと、口をつける。

「ほんとだ、おいしい....」

サイザーが感心したような声をだす。パンドラは目を細めた。



butterfly dream
 
 
 

「今日ね、夢みちゃった」

「どんな夢?」

剥いたみかんの一房から、白いすじをとりながら、パンドラが尋ねた。

「よくわからないところで、ちいさな私が泣いているの。それで....、なんだっけ」

記憶をたどろうとするが、理性的になるほど、糸がすり抜けていく。

「忘れちゃった。でも、とても悲しい夢だった....。 あ、雪....」

まっくらな窓から、雪と部屋の中の自分が重なって映る。なにかが思い出せそうな気がして、サイザーはじっと窓の外を見た。

「どうしたの?」

「うん、雪を見ているとね、わけもなく悲しくなる....」

独り言のように呟いたまま、それきりサイザーは止まった。

まるで、夢のなかにいるみたい。
サイザーは雪を見ながらそう思った。

 
 
 

「夢をみていたよ。オカリナ...」

「夢、でございますか」

「見たこともない国で、私は...。いや、なんでもない。もう、忘れてしまったようだ」

若い妖鳳王は、いつもの表情にもどっていた。




「蝶になった夢をみた男が目を覚まして、「はたして、どっちの自分が、ほんまやろ。ひょっとして、ほんまの自分は、蝶が見ている夢の中におるんちゃうやろか」
映画ビューティフルドリーマーより
正確には「胡蝶の夢」より、です。
 

好評を博した、誰がつけたか「ごはんシリーズ」も、本作でおわりです。
ああっ 名残り惜しい。しかし綺麗に終わったので、よしとします。
 

現実に母を「知らない」サイザーには、夢の中であっても、母を思い描くことはできません。
彼女が知っている母は、水晶の中にいる死体のような状態か、ベースによって見せられた、ハーメルを愛する姿か、ものごころつく以前のかすかな記憶しかないのです。

さらに「母娘」の概念すら、満足には理解し得ていません。
サイザーが、夢の中でやっと母に会えたとしても、水晶に閉じ込められた、冷たい母しか、彼女の前には現れ得ないのです。

これは、ちがう世界の夢です。
そして、どちらも現実かもしれません。




製作環境:Macintosh Performa 5440(88MB)・Painter4.0・Photodeluxe1.0・WacomArtPad2

こ、今回はまた解説やら何やらが、長い。
絵は、とくに目新しい方法は使用しておりません。

主線を細くして、セーターっぽい感じにしたくらいです。
前作「七輪で秋刀魚」が、もう寒そうでたまらなかったので、屋内で、こたつで、あっつーいほうじ茶で、セーターで、はんてんで、みかんです。

これ、夜想曲の冬の扉用にしても、いいなあ。




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