この世すべての悪

in the dark

(2005.06.08)




赤い空と、血の海。




「Fate/staynaight」の三周目、俗に言う桜ルート。
ここで桜は「黒桜」とよばれる反転をしてしまい、街を飲み込む勢いで人を襲い、姉に憎しみをぶつける。

その残忍さから「桜は黒い」と、それが彼女の本性であるかのように嫌う意見が散見される。事実、その主張はかなり多いようだ。

またその一方で、桜は悪くない、という見解がある。
「アンリマユ」のせいだ、という考えだ。
だが、アンリマユは能動的に活動する存在としては誕生しておらず、寄り代としての桜の邪心をブーストさせる効果はあるかもしれないが、基本的に凶刃のごとき殺傷力をもつにすぎない。いわば刃物だ。

たしかに桜を変貌させたのは、聖杯の中にあるアンリマユだが、それに同調できる桜の「影」がなければアンリマユも存在できない。そして、アンリマユの力(おもに呪いによるもの)を下界に流出させ、指向性を持たせる機能が、桜なのである。

彼女がアンリマユの代身となってしまった原因は、慎二との関係が士郎に露見することを怖れたあまりの犯行にあり、それが引き金になって激発してしまったといえる。また、彼女の凶行は、アンリマユという刃物を扱えるだけの練度を、無理矢理に身につけさせられたことも基になっているといえよう。

だが、黒桜となった彼女の行動は、それでもわたしは桜の責任であると思うのだ。


ひとは誰しも、良心と悪心の二つのこころをもっている。
ただ、そのどちらの叫びを選ぶか。どちらの声に従うかを選ぶことができるのも人間なのだ。
わたしは、桜がああなってしまったことを、けっして環境のせいであるとか、仕方がなかったとは思わない。彼女はどんな悲惨な状況であったとしても、仮に聖杯に押しつぶされていたとしても、自分で往く道を選べたはずだ。

刃物を持ち、それで人を殺す術を身につけている人間がいるとして、だが本当に人を殺してしまうかどうかは、育った環境や耳打ちする邪神の声とは関係なく、最終的に本人の選択による。
刃物の力は、それをふるうマスターに委ねられるのだ。




しかし、桜のあった環境が、あまりに異常であることは認められる。

桜の中に、たしかに黒い要素はあった。それは幼い頃からの虐待と辱めの日々によるものであり、慎二との関係が原因となって蓄積された恨みによるものだろう。あるいは慎二との繋がりから、彼の影響を受け取ってしまったのかも知れない。彼女がその邪な流れに身を任せてしまったときもあったかもしれない。だからこそ人を襲ってしまいそうになる心が強く湧くのも無理からぬことだ。

だが、それら黒い過去に対するカウンターバランスとして、桜には士郎と凛がいたのだ。
衛宮士郎という、彼女の運命にぶちあたって桜が破滅へむかう軌道からはじき出してしまう強力なベクトルを得ていること。これも桜の要素だと思う。その力を借りてだが、彼女は最期にちゃんとした道を選ぶことができたのだ。

そしてもうひとり。命をかけて救おうとしてくれる姉が彼女にはいた。
凛が命をかけなければ、桜は救えなかったろう。それだけの禍根が、彼女にはあったのだ。

誰も助けてくれなかった。そして拒否しながらもその位置に立たざるを得なかった、あるいはそうすることでしか生きてこられなかった彼女。これをひっくり返すには、凛のあの犠牲は必要だったのだ。
彼女自身が強固な呪いをもって固定していた自らの罪。愛されない存在としての自己認定。
自分の命を紙のように扱われてきた彼女を覆せるのは、自分の命を紙のように差し出す行動だけだ。

直前まで来て、あの冷徹だった凛が桜を殺せなかったとき。
最後の最後で自分が桜を愛していたことに気がついてしまったとき。
姉としての位置に、はじめてすなおに立てたあのひととき。
そして、そんな姉を得ることができたとき。

桜は、過去の扱いに対して完全にイーブンな状況にあったと考えられる。
彼女の悪心を喚起する波も、良心を満たすちからも、おそらく同等のバランスですべて静止した。

ここで彼女は、ちゃんと正しい道を選んでいるのだ。


彼女が勝ち取ったというと語弊があるが、それでも桜のまわりに臓賢と慎二がいたように、凛と士郎がいたのだ。彼女はそのなかで幸福への道をえることができた。


途中まで桜はもう絶対に助からないと確信していたので、あのエンディングは嬉しかった。
局面だけをみれば一方的に救われたようにも見えるが、大局的には桜は自らこれを選んだのだと思う。

彼女は最後に姉と士郎の手によって解放された。だが、その前に彼女は選んでいるのだ。凛を、士郎を愛する道を。あの地獄の中ですら費えることのなかった桜の本質的な人間性。士郎とも凛とも関係を築けたその本質が、選択肢を決めるプレイヤーをして、幸福へいたる道を選ばせたのだと思う。




絵について

ええと。
とかいう割りには絵はおもいっきり黒桜です。
せいるさんのための贈答用ぱんつ絵について「くろさくらのぱんつかいてー」と垂れ流し気味のリクエストがあったのですが、さて絵にしようと思ったところではたと考えます。




黒桜って、あの酢昆布スーツの下はすっぽんぽんじゃん。




なのでぱんつ絵は別の機会にしましたが、せっかくなので桜を描いてみました。
黒桜の資料がまったくないので、かなり適当であり、ほとんどイメージだけで描いてます。

押し寄せる邪神の声、身を犯す過去の呪い、引き返すにははまりすぎた深み。
それでも本来を願うこころが眉根を寄せる。

そんな感じで。背景は穴の内壁な風情ですが、生命感だしたくてニラニラさせました。
身をつつむアンリマユのスーツは、ほんとは普通のワンピース縫製みたいな感じなのですが、記憶があいまいというのを言い訳に、大喜びでぴっちぴちに仕上げました。

最初に浮かんだイメージでは、真っ暗な中でアンリマユの呪いに犯されながら精神を朽ちさせていく桜・・・という感じで思いついたのですが、真っ暗というのが絵にならなかったのでこのように。あと、お胸かくのが楽しかったことは白状しておきます。














[タイトル] [もどる]