櫻吹雪が風に舞う
day dream
(2004.12.10)
久慈光樹さん主催で発行された「遠坂凛の金属バット文庫」という同人SS文庫に参加させていただいた。
主軸になるのは、FateのSSを書くライターさんたちである。
以前に加わった「まこみし文庫」のように、主催者のせいるさんがライターと絵描きを集めてきてコンビを組み合わせるのではなく、こっちの界隈ではSSライター自身が参加を表明し「絵描きは自力調達」という鉄の掟があるそうだ。で、当時まだFateをやるどころか購入もしてなかった私は、そのSSライターさんの中にいた文月さんに調達されたわけである。
彼の文章には、感想を求められるといつも辛辣な意見や指摘を率直に行ってきたが、いままでと違い、今回みせてもらったこの「櫻吹雪が風に舞う」は、構成・表現ともに文句のないできだった。
Fateはすでに完結した物語である。それでも、あるエンドのその後を描いたこのSSは、原作の空気をうまく引き継いでいて、違和感なく「もう一度あいたい」と思っていたキャラクターたちに出会わせてくれたと思う。そのあたりも含め、また、いままでを思い返しても成長されたな、と感慨深かった。
さて、この物語に絵をつけなければならない。一読して、描きたいと思ったのは桜だ。
物語は間違いなく凛の話であるが、絵を描こうとすれば桜の姿ばかりがどんどん浮かんでくる。
物語の中にある、桜の痛々しいほど自らを律する心と、それを辛そうに見つめる凛の視線。
我々はその視線に感情移入してしまうために、桜の痛ましい姿が目に映る。
そして、凛の立場にたってみると、ある危惧がわく。
桜にこの夢をみさせるのは、逆に残酷なことかもしれない。
凛が(彼女の性格からして一瞬かもしれないが)そう考えなかったわけはないと思う。だが安易な自暴自棄を自ら禁じた代わりに完全に停滞してしまった妹を、それでも凛はどうにかしてあげたかったのだろう。
うまいところに落ちるとは限らない。桜に恨まれる可能性もある。でも凛は桜を動かした。
それでもいい、それでもあたしはこのバカを、一生つきあってでも幸せにする。
本編の桜シナリオラストで、自分の気持ちに気がついてしまった凛だからこそ、きっとそんな気持ちで。
そう考えて、4章と5章の間に挿まれたこの絵に、彼女がしたであろうおだやかな決意を描いてみた。いろいろな挿絵が考えられたが、これでよかったと思う。
物語のおわりで桜は、扉を開けたまま待ちわびた夢から、外に出ようとする。
そして、じつは桜とともに停滞していた凛も、ここから動き出すことができるのだ。
絵を描いた当時は、まこみし文庫の挿絵やシスプリ考察大全の表紙と締切が近接しており(正確にははさまれていた、というべきか)あまり時間をかけることができなかったと思う。もう一枚くらい絵をいれられたはずだし、この絵ももっと手をいれることができたと思う。SSの内容に対して、絵がいろいろ不足だった。
なお、絵を描く前にあわててFateを手に入れプレイしたが、私自身はあいにく藤ねえとセイバーにはまってしまい、困惑した憶えがある。
本企画のメインは遠坂凛であり、わたしが最初に描いたFateの絵も、彼女である。
この絵にFateそのものへの感想をつけると内容が真っ二つになってしまうので、そっちはいつかセイバーと藤ねえの絵を書いたときに譲ることにしたい。
なお「金属バット文庫」のあとがきは、文章に限らず絵でもよいという話だったので、挿絵イラストをいじって作ってみた。
いろいろ台無し気味なあたりが、個人的にも気に入っている。
あとがき