アーカイブ・コンフリクト


(2006.04.27)


林隆博氏主催の、オリジナル短編小説サークル「Junk Yard」
(ジャンクヤード出版局)の同人誌シリーズ「Progressive」

その第32号「アーカイブ・コンフリクト(Progressive32)」の表紙と挿絵を担当しました。


(以下、すべての製作環境:PowerMac G4 450・WACOM FAVO・Painter7)





  挿 絵  


「また怒ってるの?」

 外で待っていたアーカイブがジャラジャラと、ネックレスをいじりながら言った。また買ったのだろうか。見たことのないやつだ。どうして旅の途中でおしゃれをするのか意味不明だが、アーカイブの着ている服だとか、つけている装飾品だとか、髪型だとか、とにかく見る度に違ってるような気がする。

「別に」

「嘘。だから私と食べれば良かったのに。話しながら食べてると、周りなんか気にならないよ?」

「俺は人と食べるのが嫌いなんだよ」
 

中年の男と女の二人組みだった。むろん、『元は』という保留がつくが。今は『塔の子供』に改造されて、外見はむちゃくちゃになっている。

 その姿を見てショックを受けたのだろう、ヒッ、という、喉から息が漏れ出る音が後ろから聞こえてきた。

 まだ、吐かなかっただけ上出来だ。俺は初めて見た時、吐いた。

 『追跡者(チェイサー)』の姿形を何かに例えるのは容易ではない。何かを意図してデザインされたのではなく、ただ悪意をもってやりたい放題にやった結果、そういう形になったというだけの、邪悪な芸術作品。製作者が『塔の子供』と呼ばれる所以だ。

 

ふと気がつくと、アーカイブも俺の隣に立って、同じように見上げていた。

「あそこが最上階だよね?」

 昨日のやりとりのあと、少し気まずくなったせいか、今日は口数少なくしていたアーカイブだが、さすがにここまできて感傷深くなり、抑えきれなくなったのだろうか。俺に優しく話しかけてきた。

「あと少し登れば着いちゃうね」

「たぶんな」

 アーカイブは本当に名残惜しそうな顔をした。

「もう終わっちゃうね」

「……うまくいけば、な」

 俺とアーカイブの指す『終わり』という言葉はまるで意味が違う。だが、俺もアーカイブもそのことには全く触れなかった。

 

「お前、ふ……」

 俺が言おうとしたのは『お前、双子がいたのか?』だが、さすがにそれはあんまりだと思ったので、途中で止めた。

 

 いつかこの感情の炎が俺の心を焼き尽くすか、肉体が朽ち果てるその時まで。

 だが、それまでは。

 その日までは…………せめて。


 俺は、自由だ。

 








  あとがき  


ネタバレになるため、テキストを削除しました。







  宣 伝  


販売スペースの壁に貼るためのポスター用画像。タイトルを小さくし、キャラで目を引こうとしている。
出てくる主要なキャラは全員描いた。本編を読了後に表紙を見れば、物語全体を見渡すような感覚になるような、そんな絵を目差してみた。




読み終わってみれば、物語は確かにこのポスターの通りの話なのですが、未読の方がこの絵(+挿絵)から想像できるストーリーを完全に超越しています。

そもそもこの物語の面白いところは、作中で数度にわたって広げられたその心理戦にあると思います。肝心の心理戦を絵だけで描写できたら面白いのですが「アーカイブ・コンフリクト」で、それは実現できませんでした。

やはり読んで戴くのが一番ですね。
こちらの情報を確認して、イベントなどへ行ける方は一度手にとってみてください。


さて。
個人的な話ですが、2006年の夏に結婚しまして、これを描いていたのは、絵以外のそれら事情でことさらに忙しい時期でした。あまりにも思い出深いので書いておきます。

6月26日の段階で、表紙絵には、かるーく色がついてました。挿絵はラフのみ。で、その状態で結婚関係のイベントが始まります。うちわけとしては

6月27日:結納のため山形県へ
6月28日:結納を終えて愛知県へもどる
6月29日:新居契約
6月30日:表紙絵締切
7月01日:新居賃貸開始・清掃・引越準備
7月02日:某団体業務参加
7月03日:挿絵作業一日(仕事の後で作業開始)
7月04日:某講義受講
7月05日:引越準備
7月06日:引越
7月07日:某講義受講
7月08日:事実上の挿絵締切(仕事の後で作業開始)
7月09日:プレ新婚旅行準備
7月10日:旅行出発

・・・わたし、よく生きてたなあ。
















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