楽 園 へ
bright miles
(finished:2006.08.21)
(finished:2006.10.22)
※ この絵をリクエストしてくれた方の指定より
季節は夏で、空は晴れている。
空の青は暴力的なまでに青くて、そこには雲ひとつない。日差しは万物を容赦なく照らして、太陽の光が当たる場所は、強すぎる陽光のせいで白っぽい原色となっている。そして物の蔭はあくまで濃く、日向と日陰の境界はくっきりと分かれている。
地は緑。猛り狂ったような緑の季節。
さまざまな植物が繁茂し、草も木やあらゆる緑の階調が夏を彩る。
植物に支配されそうな世界を、ただ一本、列車が走ることをやめてもう数年も経過した線路が貫いている。錆びたレールと古い枕木、そして枕木と枕木のあいだにも小さな緑。
レールに沿って少年と少女が歩いている。
線路沿いにきっとある古びた駅舎を目指している。
朽ちて自然に還ろうとしている木造の駅舎。
錆びて白いペンキがはがれかけた駅名標。
土を固めただけの一本きりのホーム。
かつて名目ばかりの駅前だった空間から伸びている道路は、ほんの一部だけ舗装されているが、その舗装はすぐに途切れる。
あとは、夏の日差しに炙られた白い土の道が続くだけ。
少年がめざしているのはその場所。
少年が少女と二人だけで永遠に笑っていられて、ずっと幸福でいられる場所。
もちろんそれは子供なりの幻想でしかない。あの駅舎はだれも使っていない、だからあそこで暮らせる。ずっと暮らしていける。
少女は、ただ少年についてきただけ。ずっと一緒にいるという約束を果たそうと少年が言ったから。
少年が前を歩く。まだ知らない世界に向かって、一歩ずつ。不安が彼を押しつぶそうとするけれど、それでも彼は歩くことをやめない。
少女はあとをついていく。ただ少年の背中を見つめながら。どこまでも。
二人は、等分に、少しだけさびしい。
二人は、等分に、少しだけ心細い。
同じものを常に半分に分かち合い、同じものを同じように見つめ、共有し、世界の内には彼ら以外なにもなく、世界の外側には彼ら以外のすべてがある。
そうして彼らは彼らだけの楽園を目指す。
彼らはその楽園が存在しないことを知らない。
楽園は、おそらく、彼らが同じ不安とさびしさを共有しながら歩いているこの瞬間にしかないという、そのことを知らない。
このリクエストに、ちゃんとお応えできたという自信はありませんでしたが、静謐な冷ややかな空気ではなく、照り返しの影を含んだ、それでもひたむきな幼い情熱みたいな、そんなものがいつかちゃんと形にできたらな、と思います。
夜想曲の2006年夏から、いつまでも暑かった秋までのトップ絵でした。
おまけ:タイトル付き画像