図書室の客

Biblio maid

( 2005.09.25 )




書籍用のルームワゴンに本を載せて、メイドが図書室に入る。
届いた新刊や、邸内で読み散らかされた書籍類を、こうして管理するのが彼女の仕事だ。

主人が求める知識を即座に検索し、最適な資料を膨大な蔵書の中から揃え出す。
精神を遊ばせたいときの助けになる物語を、主人の好みから分析して取りそろえる。
主人がなにか新しいことをはじめようとするとき、その本質を平易に解説した本を、数多ある書籍群のなかから抜き出す。

本と主人との出会いを助けるのが、彼女の仕事の中心である。
そして、敬愛する主人のために、愛しい本を差し出すのは彼女のよろこびだ。

読んで甲斐のある本を、いつも選ぼう。
私の愛する本は、私の愛するひとに読まれて、永遠になるのだ。




夜想曲で、2005年秋からトップを飾っている絵です。

製作状況の更新は、こんどこそリアルタイムで・・・、と最初は思っていましたが、仕事から帰宅してちょこちょこと描いては休んでいたため、タイミングを見失ってるうちにほぼ完成してしまいました。
今回もまとめてコンテンツ化です。

前回くらいから、黒背景に溶け込ませることに、それほど固執しなくなってます。この絵柄だと、右の方を完全に黒くできそうですが、明暗のバランスが極端になりそうなのでやめました。


以下、製作途中での保存画像と、その解説を。(
製作環境:PowerMac G4 450・WACOM FAVO・Painter7




ずいぶん前の話だが「エマ」の4巻表紙絵が、壁一面書棚という構成だった。ここから「本棚+メイド → 萌え」という、個人的には練炭の熾り火みたいな暗い情熱のおごそかなたぎり(萌え心の惹起ともいう)があり、また書棚の奥の方(この場合は「下」にあたる右側)を暗くすれば、前回で踏み外してしまったとはいえ恒例の「黒背景にとける絵」の条件にも合致すると考え、この絵を描き始めることにした。
突っ立っている絵だと足元をみる動きが弱いと考え、重心をやや倒し気味に。

 



アタリをつけた身体をもとに、そこから布がぶら下がっているように服を描く。具体的にはお尻の頂点なのだが。雰囲気としては、本を整理する作業中に、ふと足元の猫に気がつくといった感じ。でもこのままだと肩で顔がかくれてしまいそうだ。

 



メイド服としての細部に筆を入れ、イメージを考えながら顔を描く。
ところで、図書室のメイドさんはやはり眼鏡であろう。
エプロンは肩袖がひらひらしているものではなく、ごくシンプルに。作業の邪魔にならないように、でもあるし、先述の心配にあるように顔の表情が見えるように、でもある。改めて構成を考える。タイトルを仮入れしてみると、左右の余白が寂しかったので、ワゴンと書棚を足してみた。

 



本棚の構築である。お屋敷の図書室となれば大判の図鑑のような書籍類が定番かと考え、上下の棚間隔を大きくとる。
整然とした感じと、絵の説得力を出したかったので、本棚は直線ツールで描いた。以前に絵描きの知人が直線ツールで背景を描いているのを注意して「レーザー光線じゃねえんだから」と人の手による微妙な湾曲が実在感の味を出すのダと偉そうに説教したことがあるが、それはさておく。質感を与える行程を踏めば、最終的にはちゃんと「そこにある」ように描けるはずだ。

 



右の書棚のディティールを描く。だが、これは結局けした。ルームワゴンを描いてみるが、パースが適当だったため、これもあとで描き直すことになる。左右の小道具なしでメイドさんと猫だけの絵にしようかとも思ったが、この雰囲気は左右に長い構図でないと出せないと考えた。ただ、それだと左右の余白が寂しいのがジレンマである。しかし今回は細かく保存しているなあ。

 



あとからほとんど見えなくなるくらいまで加工する前提で、錯覚程度の効果を期待して、木目のテクスチャーを貼ってみる。

 



柄が大きすぎた気がしたので、テクスチャーのレイヤーを複製し、横幅のみ圧縮をかけて木目を細かくしてみる。それをもとの木目に合成して、細かな木目っぽくしてみた。モアレみたいな感じでもある。

 



グラデーションをかける。
左に光源がある設定なので、白→黒へのグラデーションを作成し、フィルター状に透過させて合成している。これで「なんとなく木目っぽいのが見える」くらいのわざとらしさに。

 



床を描く。絨毯敷きのつもりなのでちょっと粗い感じをだそうと、この光の加減は普通に筆で塗った。

 



棚に影を描き込む。これも直線ツールで縦横に描き、棚板の部分だけ消しゴムツールで消している。工夫は光源から遠い棚は影を長くする程度。本がはいってしまうと関係なくなるのが切ない。

 



影の端が明確すぎるので、縦横の影が描かれたレイヤーを複製して、今度はソフトフォーカスをかけて輪郭をぼかす。それを合成し、やはり棚板の部分を消す。やってから気がついたが、消す行程は最後でよかった。

 



棚板の、光源に面した部分にひかえめなハイライトを入れる。木肌のやわらかさをだしたいので、これもエアブラシの直線ツール。見づらくなってきたので、人物などは反転合成させている。これで本棚完成。さわるとすべすべな感じの棚になった。しかしここまでの行程数を考えると半分以上「本棚の描き方」みたいな有様に。カテゴリ的にはメイドさんの絵ではなく本棚の絵かもしれない。
このへんでも「そろそろトップページにさらすか」と思ってタイトルを入れてある。でも結局見送った。

 



蔵書を描き込む。
一冊一冊かきこみたかったがすぐに飽きたので、いくつかのパターンを描いてコピペした。
色を調整したり、サイズを上下に違う比率で変更したりでバラエティを出す。しかしいま見ると色的には中公文庫か東京創元社文庫みたいな本が多い。

 



本の背表紙にタイトルらしきミミズ文字を描く。漫画家の西川魯介氏がよくやっているのだが、漫画の背景として書棚を描き、そこにかなり物凄いタイトルの本を並べるという遊びがある。アレを一度やってみたいなあという気持ちも、この絵を描く動機としてはあったが、実際この寸法で描き始めてみると文字を読ませるのは不可能であるとこのの製作工程においてはだいたい2枚目くらいで思い当たり、このネタ仕込みは早々に断念していた。
「雫式防衛術」とか「強化外骨格『宮武』」とか、なぜか山口由貴ネタしか出てこないがソレっぽい奇書を並べてみたかったものである。
ただ、なつかしの「シスプリ考察大全」の背表紙画像を合成している。奇書と言えば奇書だ。五冊ももってやがるとゆーこの館の主人の趣味が垣間見える。

 



ルームワゴン着色。絨毯に落ちる影も別レイヤーで描いた。適当に描いたため背景から異様に浮いている。どうにか誤魔化そうとしているが、縁取り線など描いてみてもうまくゆかず。存在自体を一時保留に。画面右にあった本棚も描くのをやめる。画面構成がゴチャゴチャするのを嫌ったためともいえるが、これについては正面本棚を描きあげた時点で燃料切れを起こし、描くのが面倒だったからというのが正確な理由だ。

 



いよいよメイドさんの着色である・・・が、そっちは適当に色だけ決めて、まず猫だ。製作時間が三日ほど飛んでいるが、この期間は猫の後ろ姿の資料をずっと探していた。図書室にいるとすれば性格の穏やかな猫。自分の印象では、いままで出会った猫で一番おちついていたのは知人の家の三毛猫であった。その三毛の穏やかさは単に年をとっていたせいなのかもしれないが、こういう印象は大きい。毛艶がそれっぽく描けたので満足。

 



メイドさんの色彩を馴染ませる。水滴ツールで境界線をぼかす行程だ。その後、やはりメイド服は地味で暗めな色彩かと思い、彩度を調整する。

 



主線を消しながら着色のレイヤーと馴染ませる。

 



いつもの描き方による弊害なのだが、この絵の中では、どうもクッキリと描いた書棚と蔵書、それとなぜか猫の方にピントが合っているようで、ワゴンとメイドさんがかすんでいる。奥位置にあるものをソフトフォーカスでピンぼけにしようかとも思ったが、間に一枚、黒く塗りつぶしたレイヤーを合成し、透明度を上げてみる。わずかだが書棚が影になり、人物が浮かび上がった。

 



そうなってみると今度はメイドさんの顔色が鮮やかすぎなので、顔と手のみ範囲指定して彩度を落とす。
それでもどうも色味がちぐはぐなので、文字を除く全体にオレンジ色のフィルターをかけた。ほんの数%なので明確にはわからないかもしれないが、色調の統一感がでるので、違和感は薄らぐ。他、メイドさんの顔や靴、ワゴンなどを修正している。
あと「夜想曲」の白文字タイトルが背景の白い本でかすんでしまうため、文字レイヤーの下敷きにフィルターを設け、エアブラシでなぞってみた。

 



ならいっそのことと思い、背景にもう一枚グラデーションの黒いフィルターを合成してみる。右奥が暗くなるので途中で断念した棚のカバーにもなった。ただそのままだと猫が浮いてしまうので、右半身に薄く影を追加し、猫のレイヤー自体もグラデーションのフィルターの下敷きに落とした。

 



作成日時を記録していたレイヤーを消して完成。タイトルも消したものは一番上にある。書棚がきれいに描けた段階でメイド作画以前に満足してしまったため、メイドというより棚が主役みたいな絵になっているのが失敗だ。あと、それ以前にこうして完成品をみると、図書室に猫がいるというシチュエーションはやはり変だと思う。
ところで絵の構図を考えていたとき、棚に向かうメイドさんを描こうと思っても、ほぼ完全な真後ろ姿しか浮かばないことに気がついた。彼女を振り向かせるための「客」として猫を出してみたわけだが、この猫という生き物はこういう絵の要素として実に使いやすいことに驚かされる。人物はこころを許し、また猫は超然としているのがいい。わたしが以前勤めていた書店店舗にはたまに猫が入ってきたものだが(自動ドアで侵入が容易であること、飲食・食品関係だとすぐ追い払われるせいか、冷暖房目当てでの書店というのは、野良猫の居場所としてはアリかも)、やはりふつう図書室に猫はいねえだろうと思うがどうだろうか。

 
















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