2007.03.14 「ホテルウェディングの視点」


知人のSS作家・杉田さんから、結婚式について、式場側すなわち「プロ側」からみたコメントをいただきました。
結婚式準備にとても参考になると思いますので、転載させていただきました。ありがとうございます。

 ※ 基本的に、当日記での記述に対する返信という形で、以下、杉田さんの一人称になっております。






(1)結婚式の意義

 一般に「結婚式」と言われていますが、正式には「結婚披露宴」即ち、結婚式を開催することの意義は、なによりもまず

「近しい人に自分たちの結婚を披露する
 自らの選んだ相手を正式に紹介する
 結婚に尽力、協力していただいた方にご報告とお持て成しをする」


ということです。

 昨今、特に若い人たちを中心に「形だけの結婚式を挙げる」という考えが蔓延していたり、または、特に年配の方を中心に「式ぐらいは挙げておかないと周りの(親族・ご近所・職場の人など)に面目が立たない」という考えで、新郎新婦に挙式を促す方もいますが、私はこの考えには賛成できません。

 形だけでも、などという考えだと、
本当に形だけの結婚式になってしまう場合が多いからです。

 ひと月に何件もの挙式を見ている立場からすると、こういった考え方で行われている挙式が
如何につまらないものになってしまうか、ということが良く分かります。
 ですから、天野さんの結婚披露宴の準備と動機は、とても素敵な考え方だと思いました。

 結婚して、新しい生活を始めること。新しい家庭を築いていくこと。私は独身者なので、それはあくまでも想像でしかありませんが、それが並大抵のものではなく大変だということは良く分かります。
人は自分たちだけでは生きていけない。支え合っていかなければならない。だからこそ、その決意を明確にするための結婚式が必要なのではないか、と考えます。



(2)“女性のための”結婚式

 新郎新婦のエスコートを担当している上司の人と2人で飲みに行ったときに、こんな話を聞きました。
 曰く、「今の社会は男女平等が謳われ、女性の立場が向上している。結婚式を挙げる話になった時に、女性の方(新婦さん)が主導でいろいろ決めることが多く、男性(新郎さん)はそれにただ従うばかりのケースが多い」と。
 多くの女性にとって、結婚式は夢なんだと思います。だから、ゆきこさんのような「ホントにこだわりの無い花嫁」な女性は稀なのだと思います。

 それでも、やはり
結婚式は「女性のための」ものなのです。

 ですから私達は、結婚式の当日は新婦さんに気を遣い、女性に気を遣います。たとえそれが自分の結婚式ではなくても、女性は結婚式のことを気にしますし、チェックも厳しくなるものなんです。
 ただ、私はこの「女性のための」結婚式が必ずしも良いとは思いません。
結婚式はあくまでも「2人の」結婚披露ですから、本来ならば2人でいろいろと話し合って、2人ともが納得のいくような式にする、というのが理想のような気もします。

 そして、その上司は最後にこう言いました。

「話し合いで結婚式の内容がどうなったとしても(例えば明らかに女性主導のものになったとしても)、当日の挙式では、最初に『あくまでも2人の共同作業ですから、
お2人が支え合って尊重し合って、良い結婚披露宴になるように致しましょう。私も、及ばずながらそのお力添えをさせていただきます』と挨拶するんだ」と。



(3)結婚式の場所

 私が聞く限りでは、最近の新郎新婦は数回挙式する場合が多いです。お互いの地元で一回ずつ、というのが主流ですね。それに加えて、友人や同僚を中心としたお食事会を開催する、というケースもあります。
 そうすると費用が高くなるのではないか? と思われるかも知れませんが、例えば低価格のレストランウェディングならば、3回ぐらい挙式しても300万ぐらいで収まる場合もあります。実際、うちのホテルでの結婚式は150人規模で3〜400万程度なので、50人ぐらいのレストランウェディング×3回の方が安くなるような場合もあります。

 但し、そうするとどうしても一回当たりのレストランウェディングが満足できないものになってしまう場合が多いです。
 やはり、心尽くしの結婚式を一度挙げる方が、良い結婚式になると思います。そうするとやはり、何処で挙式をするのか、ということが重要になってきますし、実際にそれがネックとなってなかなか挙式までいたらないケースも少なくはありません。

 ホテルの立場としては、当然うちで挙式して欲しいのですが、ブライダル関係者としては、それがかなり大きな問題だということも分かっています。ですから、実は
ホテルでの挙式で一番大きなメリットになるのは、当日の列席者の交通手段と客室確保だったりします。例えば、いくら以上の予算での挙式の場合は何人までの宿泊を無料に(もしくは割り引いたり)できたりとか、提携旅行会社のツアーとして交通手段を保証したりとか、そういったことが可能になっています。
 もちろん、すべてのホテルで同じことができるかと言えば、そうでは無いと思いますが。

 それでも、やはり場所がネックになりますよね。実際に新郎が福島で新婦が九州、というケースがありました。その時は、新婦側の列席者数が少なくなってしまっていましたが、天野さんが書いているように、
打ち合わせの面から考えると、2人の住む場所での挙式が一番良いのではないかと思います。実際、何回も何回も、いろいろなことを打ち合わせしなければいけませんし。



(4)結婚式の人数

 一般的に、ホテルでの挙式は100人〜300人程度です。ところで、実は、山形という土地は結婚式がとても豪華なんだそうですよ。派遣会社に勤めている友人から聞いた話なのですが、山形県の米沢市で600人規模の挙式という仕事があったそうです。しかも、その内容がまたとても豪華だったのだとか。土地柄なのでしょうか、結婚式に関してはとかく「ド派手に」という意識みたいです。
 福島でもそうですが、
東北の田舎の結婚式は規模が大きいです。親戚はもちろん総出で、職場の人や友人の出席率も非常に高く、傾向としては大人数になりがちだったりします。今でこそレストランウェディングも多くなりましたが、それでも、未だにホテルなどを会場にした大人数の結婚式には需要があるみたいですね。

(天野:なるほど、これで山形からの親戚が大挙して押しかけてきた理由がわかりました。県民性というか、お国柄だったんでしょうね。 大規模で豪華な披露宴になれている皆様には、逆に「なり多」のようなこじんまりした、でも珍しい会場であることがよかったのかもしれません)



(5)結婚式の時期

 ジューンブライドと申します。6月に挙式した新郎新婦は幸せになれるのだと。でもそれは海外の場合であって、日本で6月に挙式するのは自殺行為です。6月なんていう梅雨時に、重たくて厚くて暑い衣装を身に纏って挙式をするのは、負担以外の何物でもないと思いますよ。しかも、エアコンのせいで会場内はどうしても寒くなりますし、列席者にとっても身体によくありません。
 実際に多いのは4月、5月と、10月、11月です。要するに、過ごしやすい時期ですね。その挙式の時期に合わせて結納式からの日程を決める、というのが一般的のようです。



(6)結婚式の方向性


・料理

 まず料理ですが、これは式場(というかホテル)によると思いますが、ホテルの披露宴での料理も美味しいですよ。うちのホテルは……ゴニョゴニョ……ですが(苦笑)、食事に拘ったホテルというのもあります。大人数なので多少大雑把になる点は否めませんが、
その料金に恥じない料理を提供してくれるホテルがあることも事実です。
 ホテルで挙式をする場合は、殆どのホテルで披露宴の料理を
試食することができます(半額ほどで)。ブライダル・フェアなどで無料の試食会を開催しているホテルもありますので、そういうところを自分で食べて回ってみて、良さそうなところを探すのが良いのでは、と思います。レストランだと、自腹で食べて回って検討するのはなかなか厳しいですしね。

 それから、洋風会席(お箸で食べるフレンチ)というのも、多くのホテルでは可能だと思いますよ。今現在、結婚式では洋食か和洋中ミックスのコース料理が主流ですが、多くのホテルでは和洋中の各コースが選べますし、例え洋食でもお箸で食べられるように工夫がなされることもあります。



・衣装

 次に、衣装の持ち込みに関して。これはホテルによって違いますけど、レンタル料と持ち込み料を合わせて50万というのは
確かに高いですね。うちのホテルでも持ち込み料はいただきますが、そこまでは高くはないです。それに、持ち込み料が無料のホテルもあるそうですよ。
 ……と、ここまで書いたところで過去の書類を見てみたのですが、昨年度の実績では、うちのホテルの持ち込み料は無料になってました。すみません、うそつきました。
 ただ、ホテルでの貸衣装が高いことは否めません。過去の挙式の書類を見る限り、
新郎新婦合わせて40万〜が相場みたいです。高いですねやっぱり。お色直しもすると更に跳ね上がりますし、自前で衣装が用意できるならそちらの方が良いような気がします。レストランウェディングでは、それほど豪奢な衣装は必要ありませんし。



・和風の式

 最後に「和風の式」ということですが、これは
ホテルでは困難です。何故なら、需要がないからです。今の結婚式はチャペル式が主流で、神前結婚式でさえ以前よりも少なくなってきています。それに加えて披露宴まで和風となると、今では殆どありません。全くないと言っても良いかもしれません。少なくとも今年は一件もありませんでした。
 それに加えて、
今のスタッフでは和風の演出やサービスができないという問題があります。経験者が少ないですからね。若いスタッフの経験者はおそらく私ぐらいでしょう。

 おそらくこれはどのホテルでも同じだと思います。和風の式を挙げることは無理、もしくは困難でしょう。仮に可能だとしても、新郎新婦が求める「和風」のイメージと合致する可能性は極めて低いと言わざるを得ません。誠に遺憾ですが、それがホテルの現状です。
 (もちろん、和風の結婚式を売りにしているホテルが無い、とは必ずしも言えませんが、少なくとも福島近辺で私が知る限りでは無いと言えます。)



・会場

 今は、各ホテルも多種多様な式ができるように力を入れている場合が多いです。以前はあまり見られなかった、自然光を取り入れた明るい会場もあります(実際に見学にも行きましたが、なかなか良い雰囲気でした)。
 うちのホテルの場合は、一昨年の改修で新しくした小宴会場がオススメで、明るくてシックな会場の雰囲気がなかなか好評を頂いています。40人〜60人程度の小さな会場ですが、狭いわけではないですし、パーティションで仕切るわけではなく最初からその大きさですし、大宴会場と離れたところにある会場なので静かですし、親族中心のこじんまりとしたアットホームな挙式をするなら最適だったりします。将来自分が挙式するとすればこの会場にしてもらおうと、今から考えているほどです。

 とは言え、その他の会場に関して言えば、天野さんが仰るところの『「よくある結婚式」のパターン化された(それだけにおそらくは最適な)風景』であることは否めません。あと、これは身内批判になるのであまり言いたくはないのですが、会場はやたらと暗いです。文字を読むと目を悪くするんじゃないか、というほどに暗いです。それは演出の一つですが、年配の方を中心に評判は良くありません。
 照明が映える、演出が盛り上がる、というのは確かにあります。私も演出の仕事も経験してきたので、そのおもしろさは分かります。照明と音響を操って結婚式を盛り上げるという仕事は、この仕事の醍醐味のひとつです。それで上手く盛り上がると小さくガッツポーズをしたりするものですが、それはそれとしても、やっぱり暗いんですよ。

 私、酷いときは20時間以上日光を浴びませんもの。




●「なり多」

 さて、「なり多」に対する印象ですが、天野さんの日記を読んだ印象としては、その会場はとても素晴らしいところだと思いました。夜想曲の日記の方で写真も見ましたが、なかなか良さそうなところですね。
 こういう「日本の風景」は、人の手で作るのはなかなか難しいと思います。その風景が今も残っているのはとても貴重だと思いますし、そういう場所で結婚式を挙げるのはとても羨ましいことです。
 ホテルにはホテルの良さがある……と思うのですが、こういった会場があると実際に見せられてしまうと、そちらの方が良いと思いますよ。

 「所詮ホテルだ」と言われないようにしたい、「さすがホテルだ」と言われたい。それが、ホテルに勤める人間としての正直な気持ちですが、どうしてもホテルでの結婚式には限界があります。特に
小規模の結婚式に関しては、どうしてもレストランウェディングに一歩譲ってしまう。それが現状です。結婚式が多様化していく中で、如何にお客様のニーズに応えられるか、ということが、ホテルには求められているのだと思いました。


 レストランウェディングの経験で言うと、珍しがられる=喜ばれるでは必ずしもないんですよね。土地柄なので仕方ないのですが、カラオケも出来ない、50人程度しか呼べない→なんなんだこの会場は!というお客様も少なくはありません。
 そう考えると、やっぱり「なり多」は良い会場だったのでしょうね。



「なり多」の神前式

「神主・巫女を含めて、80000円」という「なり多」が高いのか安いのかは良く分かりませんが、ちなみにうちのホテルの神前結婚式は35,000円でした(神主・巫女を除く)。まぁうちの神殿は正直微妙なので、こんなものなのかもしれませんが。



「なり多」の料理

 料理の値段は高ければ良いというわけではなさそうな感じがします。食材が高級だからと言って必ずしも美味しいわけではないですしね。ちなみに、うちのホテルの料理だと、5,000円ぐらいの料理が一番楽しめるような気がしています。それ以上になると、食べ慣れない物が多くてあまり楽しめない、それが美味しいのかどうかも良く分からない、そんな感じで。
 というか、料理人にとって本当に難しいのは、
客単価が上がる中で如何に量を増やさず質を向上させるか、ということなのだと思います。レストランにいた頃、ウェディングのたびに調理長が頭を悩ませていたのを見てきたから、尚更そう思うのかも知れませんが。

 子どものコースに関しては、うちのホテルの場合は3,000円ですね。ハンバーグやエビフライなどのお子様プレート+スープ+寿司 or サンドイッチ+デザート+お菓子、で3,000円。お子様寿司よりもお菓子の方が原価が高いのは秘密。



「なり多」のケーキ

 実は、あの
張りぼてのイミテーションケーキを作ってるのもパティシエ(お菓子職人)なんですよ、とか何とか。あ、もちろんアレをパティシエが手作業で作っているという話ではなくて(もちろんアレは機械による大量生産です)、見本の型を作ったり制作をプロデュースしたりしてるのがパティシエだというお話。あ、でも昔はああいうのは全部職人の手作りだったらしいですよ。初めて知ったときはその事実に驚愕したものです。
 よく芸能人の披露宴とかで飾られてるおっきな氷細工とかも、披露宴会場のホテルのシェフが作っていたり。ヘラやピーラーを巧みに操るのと同じ手でノコギリやノミやカナヅチを振るうのだから、料理人とは本当にすごいひとたちなんだなぁ、とか思うのですよ。
 以前うちで働いていた(今はもう退職した)パティシエのひとは東北では有名な人で、以前ホテルの披露宴で、
10万円予算でタワー型のウェディングケーキ(もちろんオール生)を作っていたりもしましたよ、とか言ってみる。

 それはさておくとしても、最近はイミテーションではなく生ケーキをウエディングケーキとするケースが多いです。一個あたりの予算は人数に応じて、25,000円〜60,000円ぐらい。それを人数分に切り分けて、デザート時に配るのです。イミテーションケーキの場合は入刀しても無料なので、それに比べると高いのですが、でもやっぱりケーキは食べれた方がいいですものね。



「なり多」の引き出物

 引出物に関しては、拘るとキリがないので……。結局のところ、
カタログが一番無難だと思います。それに鰹節とケーキをプラスして、総額5,000円〜10,000円くらいが相場かと。少々物足りない感もあるやも知れませんが、拘り出すと本当にキリが無いのです。以前、30,000円の引出物を見る機会がありましたが、大きめの袋にみっちりと雑多な物が詰っていて、持ち帰るのが大変そうでした。引出物は、持ち帰る人のことも考えて選ぶこと。見落としがちですが、結構大事です。遠くから来る人もいるのですから。
 あと、天野さんのお母様は素晴らしいと思いました。
引出物の袋代は負けやすいポイントですからね。さすが商売人。わかってらっしゃる。







杉田さん、ありがとうございました。

二ヶ月というごく短期間で駆け抜けてしまい、しかもほとんど「なり多」しか見ていなかった結婚式準備だったため、天野の結婚準備日記はかなり偏った内容だったと思います。
その中に一般的なホテルでの結婚式という視点は皆無でした。

それを、杉田さんがホテルの結婚式場側からの視点で、補ってくださいました。
自分たちが選択しなかったホテルウェディングについて、そして、自分たちが選択した「なり多」でのウェディングについては、その評価という形で。

式の準備を進め始めたとき、なによりも欲しかったのが相場の常識でした。
自分たちで通過した分は、書けるだけの数値を記載しましたが、まったく省みなかったホテルウェディングのそれが、杉田さんによって補完されているのが、本当にありがたいです。


この転載を許諾してくれた杉田さんに、あらためて感謝を。
そして、この内容が、結婚式に臨もうとするカップルの助けになれば幸いです。












絵描きと管理:天野拓美( air@niu.ne.jp