2003.10.07 「ピノコ」


ブラックジャックのアニメを見ていて思った。
このアニメにも漫画にも、ピノコという愛らしい少女が出てくるが、
彼女のような人間が存在できるのだろうか、と。

ピノコは、コミックスのわりと初期のころに、奇形嚢腫という形で登場した。本来双子として生まれるはずだったピノコは、姉(18才)の身体にくっついた嚢腫としてひと揃いの内臓をもって成長してしまい、その状態で自意識をもつまでになった。ピノコは、彼女を摘出しようとする手術を超能力で妨害するも、ブラックジャックの説得によって摘出され、人工皮膚や骨格などによって合成された。そんなわけで見た目は幼女だが、本人は18才という自覚(だけ)を持っている。

だが、内臓などがひと揃いあったとしても、神経節や筋肉はあったろうか。
そしてあったとしても、それで動けるようになるものだろうか。

彼女の生い立ちが、すこしだけ「どろろ」に似ているな、と感じたとき思いついたのだが、たぶんピノコは、
自分の身体を、その超能力で維持・運用しているのではないかと思う。
彼女の動きは、筋肉の伸縮によるものではなく、
念動力の一種ではないだろうか。思えば「破壊魔定光」のコオネ・ペーネミュンデの秘密も、それに近いものだった。

そうだとすると、ピノコは人間の筋肉では不可能な動きもできると言うことになる。
漫画表現としてはよくやっているが、実際に空を飛ぶことも出来たかもしれないし、摘出手術妨害時のように他人の身体を操ることもできたかもしれない。でも今の彼女がそれをしないのは
「自分は普通の18才の少女であり、ブラックジャックの妻だ」という強烈な自覚があったからだと思う。

逆に言えば、彼女にはそれしかないのだ。それを失ってしまったら、彼女は自分がまともな人間でないことを認めざるを得ないし、ただでさえ不利なブラックジャックへの想いを持ち続けることもできない。ピノコが普通の愛くるしい少女に見えるのは、彼女がブラックジャックの妻でありたい(もしくは、なりたい)と、強く強く願っているからだ。「普通の人間のように生きる」という絶望的な願いをそれでも懸命にもっているからこそ、
彼女は持てる超能力を「人間らしく動く」ことのみに、わけてもブラックジャックの妻たろうという行動にのみ使用する。このあたりはもう無意識的なものだろう。だから彼女は、誰よりも人間らしく魅力的に見えるのだ。


最終巻の近く、ブラックジャックの夢だったと思うが、ピノコが八頭身の美女として現れるエピソードがある。このときのピノコは自らのボディに自信ありげだが、それでもすがるようにブラックジャックに「好きだといって」と懇願する。ブラックジャックは「八頭身にも美女にも興味はない」と言い捨てるが

「なにをしょげている? おまえわたしの奥さんじゃないか。それも最高の妻じゃないか」

そう言って、ピノコの随伴をゆるす。

現実がどんな形であれ、
指一本を動かすことからの全ての能力を愛する人のためだけに投じてきた彼女の想いは、ブラックジャックのこころにちゃんととどいていたのだ。

ピノコは、幸せな女だと思う。








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絵描きと管理天野拓美air@asuka.niu.ne.jp