■ 2003.07.14
mon 「あたらしい仕事」
書店に復帰した。
とはいえ、正確には書店員としての仕事というよりは、その職質は書店運営支援とでもいうべき位置だ。
一介のブックマンではなく、わたしが就いたのは、書店が高クオリティで運営されていくためのシステム開発と、サポート業務だと言える。わたしと、もう一人の先輩とともにチームを組んで、これにあたっている。
従来の書店業務をやりながら、そちらの仕事を同時進行で憶えていくのだが、この仕事は大変ながらも意外に面白い。
わけてもクロカワでやっていた頭を使わない生活の反動が出るせいか、脳味噌の溝をもういちど彫りなおしているような感覚がちょっと痛快なのだ。
憶えることは多くて大変ではあるが「ああ、頭を使うってこんな感じだったっけ」とちょっと感動している。
ところで、書店員に限ったことではないが、いかなる仕事でも常にクリエイティブな発想は求められるものである。
そして、クリエイティブな発想には、常に全体像を見た考えが必要だ。
だが、実務ばかりに追われている状態では、今日やることだけを追う形になってしまい、これで書店員の時は過ぎていってしまう。そのせいで、なかなか柔軟な発想ができなくなってしまうのが現実だ。とくにわが社の場合は、いまでこそかなり早い時間に帰ることができるようにはなったが、それでも午後六時に終わるはずの業務がなんだかんだで朝六時に終わったりすることがあったりして油断ができない。新しいことを始めたい気持ちがあっても、ついルーチンワークに捕らわれてしまうのも無理はないといえる。
私を含む彼らが、その「新しいことをはじめる余裕」を生み出すために、ブックマンがしなければならない日常の業務・実務を、できるかぎり自動化するのが、わたしのいるチームに課せられた使命のひとつ目だ。
そして二つ目。
上記のような書店運営に必要なデータを自動化し管理する一方で、データ管理とは違い、書店員の実務において、より高度で実用的なシステムを模索し製作する業務を進めている。
現場レベルでたくさん存在する、あるいは顕在しようとしている人間的なノウハウを、普遍的に使えるように磨く仕事であるとも言えるだろう。
各自が持っていたり、あるいは検討検証するなかで得られるノウハウをまとめ、それをシステムにフィードバックし、活かしていく仕事だ。
三つ目は問題点の解決。書店において発生しやすい問題点がいくつかあるが、それを未然に防ぐためのシステムづくり。
業務の意義が会社の重要な中心位置にあることや、ネットという状況から詳細を書くわけにはいかず、具体的でないせいでよく分からないと思う。しかも現段階においてはまだシステムの勉強と業務の見習い程度なので、実感をもって書けるのはこの程度だ。だがまあ、おおよそこんな仕事である。
これを、かつての先輩社員と二人で進めている。
いまはまだ、わたしが足を引っ張ることが多い。
それにしても、一度とびだして戻ってくるとよく分かるのだが、会社で恐れるべきことは、ちょっと頭を使えば自動化できることを「これがわたしの仕事ですから」とばかりに愚直にこなしていく人やシステムが存在しつづけてしまうことだ。「自動化のプログラムなんてできない」「勉強している暇がない」「しょうがないから、とりあえずやっている」そして、そのせいで忙しいと訴える。
でも、これは「知的怠慢」だ。
忙しいからできない、といいつつ何年もその非効率的なやりかたをとおしており、いつの間にか、そこに変な誇りまで生まれ、慣れ親しんだ業務形態を手放そうとしないケースもある。
頭を使って、新しいシステムを構築したり、その技量がなければ本部に責任をもって提案したり、業務の効率化のためにやれることはたくさんあるはずだ。
とはいえ、現実に激務のなかにある店舗スタッフに対して、それを要求することはできない。
それが知的怠慢だと気がつきながらも「そんな暇があったら本を出しています!」と答えざるを得なかった、まさに知的怠慢そのものだった過去の自分の姿が目に浮かんでくる。(現在でもサイトのCGI導入とかぜんぜんやってなくて知的怠慢だけど)
だから、書店運営の支援者としての使命は、彼らに効率的なシステムを開発し、供給することだと思う。
ありえない人件費比率でがんばってきた泥の中を歩むような業務の苛烈さ。
歩きづらかったその道を、まわりを見渡す余裕ができるくらい、歩きやすい道に舗装するのがわたしの仕事だ。
これは、かつてその道を歩んだことがある人間にしか、成せないことだと思う。
ただ、そんな大義名分に胡座(あぐら)をかきはすまい。
現場をよく知っているという条件で再雇用を通った自分としては、こういったポジションで陥りがちな
本部のための本部や、開発のための開発という状態には、決して陥るまい。
そして、確実性やロスゼロを求めるあまり、むやみに現場の負担になってしまうシステムには、決してすまい。
たとえ必要性があって手間がかかったとしても、結果として楽になる着地点をなんとか探し出したいと思う。
そしてできた時間的余裕を使い、メンバーが、そこで怠けるのではなく、より面白い書店を創り出していけるような、そんなシステムを構築しよう。
それだけを肝に銘じて、今日も出勤している。
これは、自分の能力のちょっとだけ上を要求される仕事だ。
理解できないこともいまだ多いが、軋(きし)みながらもスキルが身についていくのが分かる。
自分が成長している感覚が、轟々と吹く情報の風の中で、すこしだけ分かる。
おまけ
ブックマンの喜びは本に触れることである。
復帰した書店で本をだしつつ、運営支援的な仕事もしているわけだが、いずれ完全に本から離れることになるだろう。それがちょっとだけ寂しいが、それでもいまの仕事は面白く、やりがいがある。本屋の仕事はいろいろあるが、これもいいと思う。
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■ 2003.07.17
thu 「お絵かき掲示板」
「お絵かき掲示板」に通っている。
CGIを使い、ブラウザ上で絵を書いて投稿できるサイトがあって、最近はそこで絵を描いているのだ。
ネタは葉鍵系、つまりリーフやKEYに関する絵のみで、描いているのもKanonやAIRのものばかりである。
ここでの絵の基準はじつに様々だ。凝る人はものすごく凝るが、最低限の線画と着色だけでなんとか見られるレベルになったら投稿してもかまわないようなので、わたしなどはごく気楽に描いている。
ここはいい。
感想がすぐにもらえるし、なにより真剣に絵をかかなくてもいいポジションであることにひかれた。
いま真剣に絵を描くと、仕事に対する浮気になってしまうような気がするからだ。
書店には鳴り物入りでのカムバックだったし、新しい業務に対して憶えるべきことがたくさんある。だから、いまはまだ、仕事をしっかりやりたい。
もちろん、休日はとれるし、炊事や洗濯の終わった後は、日記を書いたり本を読んだりする時間くらいはある。とうぜん絵を描く時間くらい充分にある。実際、その時間にこうして日記を書いたりしているわけだ。
だが、絵は、日記とは決定的に位置づけが違う。
いまや、私にとっての「ちゃんとした絵」は、そういう状態でパパッと描けるものではなくなっている。
すでにペインターを起動することが、一種の儀式のようになってしまっていて、ここを通過するとおいそれと戻ってこられないような気さえするのだ。もちろん人間の集中力など限界があるし、いまだと連続で7時間も絵を描いていたらフラフラになってしまう。絵にかける時間などその程度だ。しかし、たとえ10時間の余裕があっても、いまは絵を描くことができないでいる。できない、というより、ちゃんとした絵を描くことを自分に許していないのだ。
だから、1時間ほどでパパッとかける「お絵かき掲示板」はいい。
どうしても仕事ばかりつまっていたり、いい絵を見た後では絵を描きたい気持ちが高まってしまう。
それを上手くガス抜きできるのが、ここだ。
ちょっと絵を描きたくなったとき。
でも、ちゃんとした絵を描くには事情や心情がゆるさないとき。
そんなとき、ネットの「お絵かき掲示板」に、いま助けられている。
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■ 2003.07.20
holy 「鉄騎・1『コップ理論』」
「コップ理論」というものがある。
原因となる要素がコップの中に蓄積され、内容がいっぱいになったときにはじめてそれが溢(あふ)れ出る、つまり現象としてあらわれるという理論だ。
「『鉄騎』は、ゲームバカか、バカゲーマーかをはかる踏み絵である」
いきなりだが、「DANDOH!」の万乗大智さんが自身のサイトで書いた「鉄騎」のレビューに、そんな主旨の至言を発見した。
レビュー自体は感嘆と驚愕と愛情に満ちたものであり、そして最後にこんなことが書いてある。
一人でも多くの人が一度(鉄騎を)手にとってあきれ返ってほしいのだ。
そして愛情を込めてこう言ってほしい。
「バカだけだよ!こんなの買うやつって」
たぶん、これがコップを満たす最後の一滴だったのだとおもう。
わたしは横溢する欲望とともに立ち上がって叫んだ。
「お、おれも馬鹿になりたい!」
鉄騎を手に入れたのは、その翌週だった。
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■ 2003.07.23
wed 「鉄騎・2『巨大格納庫』」
時間をすこし遡(さかのぼ)る。
翌週、と簡単に書いたが、実際に鉄騎を購入するのには、ずいぶんな手間がかかった。
まず中古はおろか新品ですらソフト(というかコントローラー)が置いてないのだ。
考えてみれば、「鉄騎」の大きさというのは、ゲームショップの陳列スペースをかなり圧迫する。
後に画像としてお目にかけるつもりだが、こんな場所をとる上に売れにくい穀潰しソフトを置いておくくらいなら、ソフト屋としては売れ線の商品をならべられる什器でも増やすか、スタンドポップの一体でも立てた方がマシなのだろう。
大垣から岐阜にかけてのショップを探してみたが、鉄騎はどこにも発見できなかった。だが、名古屋まで行こうかどうかと悩みながら各務原まで来てしまい、ふと入ってみた中古のゲームショップに、なんと鉄騎の実物を発見した。
カウンターへ持っていくときの、8kgというそのゲームソフトにあるまじき重さに思わず笑えてくるのをこらえながら「これください」と子供のような買い言葉で値段も見ずに購入を決定する。
しかしながら値段はなんと7980円。参考までに定価が19800円だ。ヤフオクなどで後から調べてみたが、箱付きでこの値段は破格に安い。
きいたところ、安値の理由は、箱があちこち破れているためらしかった。
家に帰って開梱してみると、まえの持ち主が、かなり興奮気味に箱を開いたことが分かって、なにか微笑ましい。
ふと思い直してふたを閉じ、記念撮影などしてみる。
こんなものを販売するとゆー企画が通ったとき、「カプコンの偉い人は酔っぱらっていたのではないか」とチラッと思った。
余談だが「カプコンという会社はこのゲームを作るために生まれてきたのかも知れないな!」と思いなおすのは、また後の話である。
比較対象物として、とりあえずザクを添えてみた。いかん、ちょっと興奮している、というか錯乱しているらしい。落ち着いて普通の牛乳パックを置いてみた。みなさんの記憶にあるパックの感触などからサイズを想定し、その向こうにこの鉄騎パッケージがあることを想像していただけると、けっこう笑えると思う。
上に積んであるのは、帰り道にハードオフで買ったXボックス(DVD再生キット無しで15800円)で、これもかなりでかい。鉄子さんも言っていたが、どことなくガイバーユニットが思い出された。
結局、ハード・ソフトあわせて25000円ほどで揃ってしまう。鉄騎の方は発見すら困難な状況を考えると非常な幸運だと言えよう。
激烈な場所争いの末に確定した新居の狭っ苦しい間取りの中で、そこだけ不自然なくらいにゴッソリとあいていた「米百俵空間」に、満を持して箱から出し、展開した「鉄騎」を配置する。
配線も完了し、いよいよ鉄騎の世界へ突入開始だ。
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■ 2003.07.26
sat 「鉄騎・3『見よ、大空の鉄の顔』」
「鉄騎」というのは、先の日記でも書いたがVT(バーチカルタンク)と呼ばれる二足歩行型陸戦兵器の俗称であるらしい。ゲーム中ではあくまでVTとのみ呼ばれる。そのパイロット候補生である主人公がプレイヤーだ。
物語は、まだシミュレーションもこなしていないヒヨッコである彼が、基地に配属されるところから始まる。
教官に連れられて施設を見学する主人公。しかし、訓練開始のまさにそのとき、とつぜん敵の攻撃が基地を襲った。新兵が初めて耳にする実戦の爆音。あまりにも突然な、爆撃機による空爆と敵VTおよび戦車隊による侵攻だった。爆発炎上する軍施設。パイロット負傷のため出撃できず、据えもの斬りになる味方のVT。蹂躙されつづける駐屯地で、負傷した教官の制止も聞かずに「教本を見れば何とかなります!」と血気にはやる主人公は爆炎に染まる戦場を駆ける。唯一壊滅的被害を免れているハンガーに飛び込んだ彼は、誰何する整備班の声と、ロールアウトしたばかりの新型VTに向かって、自分に言い聞かせるようにして叫んだ。「パイロットだ! 出撃する!」
テレビの前で、あわてて鉄騎のマニュアルを読んでみる。マニュアルの表紙に「V」と書いてないのがやや不満だが、ぜいたくはいわない。だが、なにせゲームは基本的にリアルタイムで一時停止などないためあっという間に戦闘準備になってしまった。やむなくVT起動シークエンスに入る。以下すべて手動だ。
コクピットハッチの閉鎖。
イグニッション。
酸素供給システム起動。
排気温度コントロールシステム起動。
機体位置測定システム起動。
コクピットブロック保護のための緩衝剤注入。
燃料流量調整システム起動。
機体各関節部アクチュエーターへの電力安定供給を確認後、各部関節をロック。
操作に連れ、鉄騎のコントローラーであるところのVTコンソールに次々と灯が入っていく。スタート直前にオールグリーンを示す意味か、全体のボタンが発光をもって力強く応えた。それが自分の恍惚としたカオを下から照らす。起動完了。最新鋭VT「ディサイダー」発進だ。
フットペダルを踏み込み、ローテーションレバーを動かす。重量物が移動するうなりと、金属の軋み、大型機械が駆動する重低音とともに、操作に応じた機体が、破壊音のような激しい足音とともに、のっそりと前に出た。
「こ、こいつ動くぞ!」
とりあえず叫んでみる。
顔が笑いっぱなしである。
シャッターが破壊され、格納庫の外にいたVTが確認できる。エーミングレバーで照準を合わせ、ロックオンとともにトリガーを引き絞る。軽い振動とともに、かすかに曳光してチェーンガンが敵VTを襲った。しかし装甲に弾かれているらしく跳弾の光跡が見られる。有効射程距離外だ。ならばと主兵装の315mm二連装ライフル砲で再度ロックオン。レーダー波が敵を捕捉する手応えとともに、主兵装の真っ赤なボタンを親指で押し込む。かすかに遅れて、安定翼をもった徹甲弾が一瞬視界を奪うほどの閃光とともに発射された。振動パックなどないのになぜか感じる砲撃の反動。一直線に滑空した巨大な砲弾が、攻撃態勢に入ろうとしていた敵VTに命中。逆関節の脚部が空を払うくらいの勢いで、着弾のエネルギーがかの機体を正面から吹っ飛ばした。思わず叫ぶ。
「さすがはガンダム。ジムとは桁違いだ!」(まちがい)
乗ったこともないくせに偉そうに「うはははは」と笑ってみる。
さすがに新型である。巨体を格納庫の出口に引っかけそうになりながら前進する新米のおぼつかない操縦でも、転倒させたVTになんとかとどめをさすことができた。とどめの一撃で真っ二つにへし折れ、そのまま爆散する敵VT。カメラを洗浄してから屋外に進み出ると、ハンガーから姿をあらわしたこの新型機に、敵の戦車隊が驚いている。自機である最新型のディサイダーは、実戦においてここが初見参なのだ。
とはいえ、実際の所かっこうをつけている余裕はない。
「マニュアルをよめばなんとか・・・」とは言うものの、箱に同梱されていたマニュアルは
「VT操縦およびVT小隊・特殊機甲科教範18-11(部外秘)環太平洋機構連合特殊機甲局2079年6月2日発行」
という、どうしようもなく、というか取りつく島もないくらいに本気な、一般的な「ゲームマニュアル」などとは間違いなく違う、まさしくVT操縦の仕様書というべきシロモノである。あくまでも実機としてのVT操縦を主眼においてパイロット向けに「完全に本気」で作られているため、実に読みづらく、分かりにくいことこの上ない。ローテーションレバーの使い方がわからず操縦に窮したり、旋回時にバランスを崩して転倒したりしつつも、しかし、なんとか敵戦力の撃退に成功した。
ほっと息をつく間もなく、敵戦力の親方である海市島から宣戦布告がなされ、この奇襲攻撃をもって世界が戦争状態に突入したとの情報がもたらされた。
以降、主人公は第七特殊機構師団第34大隊所属オスカー小隊に編入され、戦火に身を投じることとなる。
ここまでが第一話といったところだ、データによると「Misson:0」ということになっている。
正直なところ、第一話は、それほど燃える演出ではなかった。というか、VTの操作に手一杯で、そのへんを楽しむ余裕は実はあまりないし、そもそもこのゲームは、無闇に素人客を喜ばそうとは思ってないという硬質さを、とにかく実感する。
この後、いくつものミッションを経て軍功を積むにつれ、もしくは戦局が進むにつれ、乗機や武装、作戦内容が変わっていくが、以降ドラマらしいものは何もなく、ひたすら戦闘である。総じてやはり硬派だという印象だ。浮ついた内容や遊びどころか、ドラマらしいものも一切ない。戦闘自体は、基本的に最新型を配備してもらえるので有利と言えば有利だが、圧倒的な戦力差ではないし、一発で全ての敵を倒せるような都合のよい兵器はない。地道に距離を詰めて射撃したり、障害物を利用して防御したり、ミサイルをチャフで攪乱したり、装甲の耐久度数を気にしたり、バッテリー残量を気にしたり、燃料を気にしたりと、爽快感などまるでない。シビアなゲームである。
鉄騎は、ゲーム自体にアニメ的な盛り上がりや演出は乏しく、エンターテイメント性に欠ける。お子様には向かない「甘くないゲーム」だろう。だがそのやりすぎなくらいに「渋い美味さ」がたまらない人にはたまらないと思う。娯楽のくせに客にまったく媚びてないのもいい。
鉄騎が素人にお勧めできないのは、買う前からよく分かっていたことだが、いまさらながら誤解でもなんでもなかったようだ。このゲームは、そんなわけでごくごく狭い評価しか受けられないだろう。
だが、あるていど慣れてこないと分からないが、VTを操縦するということは、実はものすごく地味に面白い(微妙な温度の誉め言葉)のだ。歓声を上げて喜ぶようなものとはまったく違う味わいの面白さがある。
それは多分、目の前のこの敵を、自分で操縦してやっつけたという充実感。
この操縦の面白さこそが、「鉄騎」というゲームの神髄なのだと思う。
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■ 2003.07.29
tue 「鉄騎・4『操縦の技能』」
肩部装甲をふくめ全長20メートルにおよぶ鋼の巨体。あらゆる地形に対応し、開豁地においては200キロ以上のスピードで侵攻する神速の制圧力。量産型機の装甲など紙のように打ち破る、卑怯なほどに圧倒的な火力。使用するのが気の毒なほどのそれら兵装を、同時に何本もぶら下げられる悪魔のような両腕。人間が乗っていようがいまいがおかまいなしに複合装甲ごと切り裂くプラズマの刃。そいつと対峙した瞬間に自らが「使い捨て」だったことを悟らざるを得ないという、環太平洋機構が天下に誇る世界最強の二本脚。それが「ディサイダー」に続く新型VT「プロミネンス」だ。
だが、そんなつよーいVTも、うかつに適当な操縦をすると、実はかんたんに転ぶ。
なにせ二足歩行の機動兵器なのだ。これは、宿命的な欠陥である。
VTは基本的に、高速移動しながら旋回するとバランスを崩して転倒してしまう。その後、慌てて起立しても搭載OSは無事なのですぐ戦闘再開できるのだが、それでもみすみす敵に対して大きな隙を作ることになる。そのため、高速移動旋回時にはRの内側にカウンターをあてて転倒を防いだり、同時に敵の死角に回り込みながら射撃を加えるという操作が必要となる。具体的にはアクセルペダルを踏み込みながらシフトレバーを操作して加速しローテーションレバーで旋回をかけながらサイトチェンジスティックで敵を視認しつつエーミングレバーとロックオンスイッチで捕捉しローテーション+サイドステップペダルの操作で転倒しないようにカウンターをあててコーナリングしつつ主兵装の砲弾を発射だ。(最近は反射でできるようになってきたが、最初のうちは難しかった)
鉄騎の操縦は、こういった普通のゲームではきっと十字キーとLRとABボタンだけでできてしまうであろうそのあたりまえな攻撃パターンを、ほとんど倍くらいのインタフェースを駆使して行う。
その「どこまでも自分で操縦している事実」が手応えとして面白いのだと思う。
「プロミネンス」を支給され、なんとか転倒しないくらいにVTを操縦できるようになって、やっとそんな鉄騎の面白さがわかってきた感じだ。
ミッションが進んでくると、敵側に「ジャララックス」と呼ばれるすごく強い傭兵団が出てくる。
彼らのVTの動きはすごくいい。フリーミッションという、過去のミッションを擬似的に再現したシミュレーションで操縦の腕を磨いておかないと、すぐにやられてしまうほどである。
さすがにジャンルを「操縦」と銘打つだけはあって、ミッションの本質や、敵VTの配置状況の把握などのはるか以前に、VTを手足のように操る能力が生死を分けるのだ。まさしく操縦ゲームである。
そして、その操縦ゲームの地味な面白さを支えるのは、当然ながら、いかに細かな機体操作ができるかという点であろう。
鉄騎のコントローラーが「汚れたカメラを洗浄する」「コクピット内の火災を消火する」「空になったタンクを切り離す」などをはじめ、実に40個ものボタンを装備せざるを得なかったのは、まさにそのゲーム性のためだったのである。
このコントローラーの意義、むやみにでかいだけではないその意味は、ある程度の操縦ができるようになったころにはじめて納得することができるのだ。つくづく一見さんお断りなゲームである。
ところで、VTは信頼性最優先のCOOSという制御システムで運用されているのだが、Xボックスはともかく、VTのOSを作ったのが Microsoftじゃなくて本当によかったと戦闘中に何度も何度もこころから思った。
Windows2080の時代でも、どーせアプリケーションエラーは頻発していることだろうし、万が一正式採用などされていたとしたら、きっと何人もの優秀なパイロットが青い画面に罵声を吐きながら死んでいったことだろう。
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■ 2003.07.31
thu 「鉄騎・5『鉄騎の欠点と、コントローラーの秘密』」
鉄騎には欠点がある。
いや「ある」というか、むしろ「コントローラーが住環境を圧迫する」とか「プラットホームが凶(Xボックスの隠語)であること自体が」とか「ロボットのくせにドリルがついてねえ」など、挙げればきりがないほどに実に欠点ばかりのソフトなのだが、なかでも群をぬいているのが
鉄騎はものすごく疲れる
という点だ。
御存知のように鉄騎は、脱出に失敗したら最初からパイロットの人生ごとやりなおし、というかなり思い切ったコンセプトで作られている。かといって脱出ばかりしているとすぐクリア不能になるという二重のペナルティつきだ。
そのせいか、VT起動のたびごとにプレイヤーは嫌でも緊張する。正確には順に灯っていくスイッチのあかりに連れて、嫌が応にも精神が臨戦態勢にもっていかれるのだ。起動という「儀式」によって、自分でも肩に力が入っていくのがわかる。基本的にやや入れ込んだ状態で戦闘に突入することになるのだ。
しかも、ただでさえやりなおしのきかない戦闘な上に、ミッションによっては磁気フェライト塗りたくってステルスしてるようなレーダーに反応しない敵VTが突然目の前に現れて死ぬほど驚いたりするし、夜間戦闘ではノクトビジョンによる緑色の世界で、どこから襲ってくるか分からない敵にビクビクしながらミッションにあたらざるを得なかったりもする。
緊張状態のままでそんな感じの戦場を通過するため、勝っても死んでも非常に疲れるのが、現状、鉄騎最大の欠点である。猿のようにプレイしてすぐクリアし、友達に貸そうと思っていたが、実際、なかなかできるものではないのだ。
しかし、疲れるといっても、鉄騎は決して不快なゲームではない。
これは3Dで操縦要素のあるゲームに共通することでもあるのだが、「鉄騎」のVTはリアルな大型機動兵器であることもあり、多くの操縦系ゲームと同様に、思ったような俊敏な動きをしてくれないものである。そのため、Xボックスなどの標準的なコントローラーでは、イライラしたりやりきれなくなることもあるだろう。この手のゲームには必ずある、宿命的なストレスだ。
だが、鉄騎は違う。この、現在も私の横で生活空間を思い切り削り取っている巨大なコントローラーを使用することで、従来とはまったく違う操作感が得られるのである。
そう、このでかい専用コントローラーのおかげで、
別にVTが思うように動かなくてもなんとなく当然な感じがするのだ。
当然、というか、やむなし、というか、機動兵器のリアルなスケールに迫っているという説得力が、このコントローラーの巨体にはあるからだ。
鉄騎は、たしかに疲れるゲームである。だが、リアルなゲームに必要な緊張感を喚起する必要があり、「操縦」という極めてピーキーなジャンルを単騎で確保するこのゲームにとって、専用コントローラーのこの大きさは、けっして遊びでもハッタリではなく、ゲームバランスとして必要充分なポイントなのだと、私は思う。
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絵描きと管理:天野拓美(
air@asuka.niu.ne.jp
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