2001.03.30 fri

現在、私が勤めている店では、夜間アルバイトをド急募している。

「店長、前々からの約束通り、今月いっぱいで辞めさせていただきます」
「うん、そうか」

「店長、いきなりですが、今週いっぱいで辞めます」
「なにーっ !?」

当初の一名減は見越していたが、突然コンピュータの会社に就職が決まったとかいう事情で、週5日入っていたバイトが辞めてしまったのだ。とりあえず首を絞めておいた。

そんなわけで、現在は面接の仕事もあって、いろいろ忙しい。
以前の日記にも書いたが、この店で働くには、人格面(ひとがら)において、ある程度の水準を満たすことが条件である。
本屋さん向きの性格かどうか、という基準もある。
人がいないからと言って、店の基準を下げるわけには行かないからだ。
現在の店の水準を形成しているアルバイトたちも、面接における、さまざまな質問の結果えらばれた優秀な人材ばかりである。

「将来の夢は、いつか宇宙に行くことです」
「よし、採用!」

「好きな漫画家は、曽田正人です」
「よし、採用!」

「好きなモビルスーツは、ガンダムヘビーアームズです」
「よし、採用!」

「好きな言葉は、「覚悟完了」です」
「よし、採用!」

「いま、体重が95キロあります」
「よし、採用!」

「以前に、巫女のアルバイトをしていたことがありま」
「よし! 採用!」

こうやって振り返ると、自分がいったいどんな質問をしていたのかが、よくわかるがまあいい。

ただし、何度も言うが、人格面が水準に達した上での話だ。そうでなければ、たとえを眼鏡をかけたメーテルが来ても、採用はされないだろう。(うむ、我ながらすごい決意だ)そう、たとえ舞と佐祐理さんが来ても(・・・・う、佐祐理さんだけってわけにもいかんし)、榊さんとちよちゃんが来てもだ! (いや、これは採用するかもしれん)

そして、採用基準においては、オタクであっても、別に障害にはならないことをつけ加えておく。

ただ オタクでしかない人物では、けっして採用はされないだろう。

十分な水準を持ち、そのうえでオタクなら歓迎だ。

「大金持ちになったら、ホンモノのF−14をバルキリーカラーに塗装して庭に飾ることが夢です」
「そのカラーリングは、ぜひ、ロイ=フォッカー・スペシャルにしてくれ。でも不採用。」

「女性型のロボットが開発・量産され、家電製品として販売されるのが当たり前な時代になるまで長生きすることが人生の目標です」
「その気持ちは、一部とてもよくわかるがとにかく不採用」

「行ってみたい外国は、中国ですね。なんとかして支天輪を手に入れたいんですが。」
「お助け女神事務所の電話番号を、狙ってかけられるくらいの人間になってから出発したまえ。不採用・・・っていうか君、アニメイトへ行け」


現在も面接は続いている。
そしてコミックの強い本屋だけあって、かなりの数のオタクが受けては落とされている。

人格的に基準の高いオタクというのは、なかなかいない。



おまけの忠告:「一つのことに、すごく集中するタイプです」と自己アピールする人が多いようですが、自己管理のできないただのゲーマーである場合が多いという印象があります。これはすでに長所として認識されません。





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2001.03.14 wed : ホワイトデー

「なーんーでーもーできるはずだわ、そこーにあるもので〜♪」

プリティーサミーのオープニングを歌いながら、バターを白くなるまでかきまぜている。


バレンタインのお返しに、クッキーを焼こうと思った。
去年のクリスマスに、あろうことか「耳掻き」をもらったのだが、それに手作りのクッキーが添えてあったのだ。そのお返しである。
昔はよく料理や菓子をつくったものだったが、最近はご無沙汰なので、彼女のようにうまく作れるだろうか。

その不安は、いくつか現実のものとなった。いざ作ろうとしたときに、必要なものがないことに気がついたのだ。

まず薄力粉がない。

御存知の方も多いと思うが、クッキーにおける薄力粉とは、ガンダムにおけるガンダリウムのようなもので、これなしには、決してガンダムとは呼ばれないああいや、クッキーとはなり得ない。

「そういやガンダムと名の付くものの定義は「目が二つと、ツノが二本あること」っていわれてるけど、それだったら牛や鹿もガンダムだよなあ。」

ちょっとだけ現実逃避して、そんなことを考える。
レシピを良く読んでみると、クッキーの型抜きもないことに気がついた。

一瞬「お好み焼きのもと」を使おうかと思ったが、あきらめてコンビニへ買いに行く。でも結局、型抜きだけはソースのふたを使った。

一時間ほどかかって、クッキーの生地ができあがる。


そうだ。
焼くまえに、ボウルに残った生地を味見してみよう。

そう思って、一口食べてみた。








※イメージ映像





こんな光るゲロのもとを焼いて、はたしてうまくなるのだろうか。

口元を拭いながら、一瞬、保険用に買っておいた生チョコレートのセット(弱気)に視線がむく。


いや、ここまで来たら焼くしかない。

料理の最後の味付けが愛情だとするなら、そう

愛の深さ、試したるわ!


私は、ソースのふたで型抜きしたクッキーに心を込めて、オーブン(余熱済み)にセットした。








ところで、人生というのは不思議なものである。


クッキーを焼くこと自体は、先週から準備していたのだが、

「よし、ホワイトデー一週間前の休日に、買い物に行っておくか!」

と思っていた、まさにその日、店長会議のため休みがつぶれた。

「ではホワイトデー直前の休日に作ろう! 前の日の疲労が残っているとイヤだから、一週間かけて徐々に先取りして仕事を片づけていくぞ!」

寝る間も惜しんだそのおかげで、前日には定時で帰宅できるくらい仕事が進んだ。
日記を止めて良かったと、心から思った瞬間である。
うむうむ、よしよしと思っていたら、営業部長を交えたミーティングが三時間に及び、振り出しに戻る。

「ああ、結局、いつものように朝帰りか・・・。まあいい。ルパンだって喰って寝れば回復したんだ。疲れはあるが大丈夫だろう。そして明日はクッキーづくりに集中するぞ! 3/12はクッキーの日サ! いま決まったんだヨ! 従って、もう明日はクッキーのことしか考えない! そう、おれはクッキーを焼くためだけに生まれてきた男なのだ! けけけけけ。うひひひひ。」

ブツブツ言いながら仕事をしていると、閉店間際、下の階でちょっとしたミスが発生し、お客様に迷惑がかかってしまった。明日、店長として謝りに行くことになる。




一瞬「神様! てめえ俺に怨みでもあるのか!」という長井健の絶叫が頭をよぎった。




朝まで仕事し、とりあえず数時間の仮眠を取ってから、菓子折もっての謝罪である。休みの日にネクタイを締める。例によって、謝りに行く前は、飯が食えない。

「行って帰って3時間。買い物に1時間。クッキーを作るのは、それからだな。」



彼女のために何かしようと思うと、なんらかの試練が来る。

そういえば去年の彼女の誕生日には、他店の社員がよりにもよって二人も、しかもいきなり休みやがって、やむなく応援にいったことがあったっけなあ。

そんなことをぼんやり思い出しながら、田原屋で菓子折を買う。



訪問先に電話をしようと携帯を取り出す。
ふと空を見上げると、電線に福良スズメがとまっていた。
ほんの数分、羽根をふくらませたスズメを見つめる。

「・・・これは、今後の、おそらくは試練の多い結婚までの道のりのための、訓練なのかもしれないな。」

口から言葉がこぼれた。

わかっている。
熱い恋が、甘いはずがない。

これは、むしろ試練の前払いだ。

「よし、行くか!」

そう決意して、先方に訪問の旨を電話した。



不思議なことがあるもので、電話で話してみると、その場で和解してしまった。
その上に、お客様は丁重にねぎらってくださった。
決意の後だけに拍子抜けですらある。選びに選んだ菓子折だけでもお渡ししようと思ったが、このうえ押し掛けてはかえって無礼と判断したので、お手紙に図書券を添えて、送ることにした。

「おお! 神よ!」

その足ですぐさまジャスコの食材売場へ向かう。

飛び込んでみたら、試練は大したことなかった。彼女を愛した上で仕事ができるか、神様に試されていただけなのかも知れない。

こうして、不思議な満足感をもって、私はクッキーづくりに取りかかることができたのである。




唸るオーブンレンジを見つめながら、彼女も同じような忙しさの中で、誕生日のクッキーを作ってくれたのかな、と想像を巡らす。
看護婦の忙しさは、書店店長の比ですらないだろうに。



やがて、クッキーが焼き上がった。
クッキーの生地というのは、そもそも、あまり美味いものではないのだろう。
正直ちょっと粉っぽかったが、うまく焼けていた。合格と言っていい。
彼女のものほど美味ではないが、まあ食べられるクッキーだ。






いまは遠くに離れている。
でも、いつか一緒にお菓子を作れる日がくることを、私は夢見ている。








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2001.02.21 wed

春のはじめの湖というのは、なぜこうも美しいのだろう。

休日、別用で早起きしたついでに、バイクで近場の湖へ行ってみた。
空色が湖に写し取られていて、水面が青い。


この湖には、水上に張り出したフレンチレストランがある。休憩しようと入ってみたが、喫茶はやっていないとのこと。ここでコーヒーでも飲めたら「喫茶アルファ」っぽいのに、残念だ。
仕方がないので、ケーキだけ買って店を出る。


ちょっと歩いてみた。湖を一周してみようと思う。本来は「池」なので外周もたかが知れている。
歩くうちに、日の当たる方向がくるりと変わる。湖に写る空の色が変わるのが面白い。

カメラを持った人が、ゆっくり歩く自分を追い抜いていった。

「素晴らしい景色ですね」

一枚撮るのを待って、声をかける。

「そうでしょう」

にっこりと笑うカメラマン。しばし景色について語る。そして別れる。また歩く。


水から上がった鴨(かも)が遊歩道で話し込んでいる。
人間になれているのか、こみいった話なのか、近づいても、逃げない。
こちらが道の端に寄ったら、むこうもどいてくれた。
気持ち会釈して、横を抜ける。


手には小さなケーキ箱をぶらさげて、てくてくと歩く。

まるで谷口ジローの「歩くひと」である。

うわー、じじむさー。

自分でもそう思う。でも、とても気持ちがいい。
書店員は、ほとんど一日中店の中にいるため、この仕事は日光に当たる機会が極めて少ない。
だから、かもしれないが、透きとおった空気を介して降る日差しが、とても気持ちがいいのだ。


カップルが歩いている。小さな声で話している。大声で笑ったりしていないが、二人とも笑顔で楽しそうだ。


二十歳くらいの女の子が、駐車場で、父親と運転の練習をしている。前傾姿勢になってる娘を父親が注意しているのが、窓ごしに見えた。


一周して、水上に渡された回廊に出る。足下30センチくらいに水面があった。
広くなっているところに腰を下ろして、バックパックから本を取りだした。

「夕暮れ巴水」(講談社)である。
ヨコハマ買い出し紀行の作者・芦奈野ひとし氏もおすすめの、川瀬巴水の木版画画集だ。

ページをめくるうち、描魔が刺激される。
絵が描きたくなってきた。


なれないせいか、直射日光が辛くなってきた。
日光浴は30分程度が良く、それ以上は毒になるという話を聞いたこともある。
巴水をとじて、バイクに戻った。


湖を後にし、街へ戻った。
陽気がいいせいか、歩道に人が大勢でている。

歩道で赤ちゃんをあやしている娘がいた。赤ちゃんのお姉さんだろうか。恥ずかしげもなく赤ちゃんの前で踊っているのを見て、頬が緩んだ。

犬が歩いている。
一時停止線でバイクを停めたら、見計らったように道路を横断しだした。
しばし待つ。
わたった先に飼い主とおぼしき少女がいた。
ぺこりと頭を下げるので、礼を返して発進する。


不思議だ。
今日は、見慣れた街が、きれいに見える。

逆に、仕事で相当にまいっていることも実感した。
ちょっとしたことにでも、癒しを感じてしまう。

ほんの二時間ほどの時間だったが、いちおうリフレッシュはできたようだ。
それにしても、じじむさい休日である。


そうそう。
ひとつだけ、若いことをやった。

「ひゃっほう! バレンタイン最高!」

バレンタインにもらったチョコレートを、この日、湖畔で食べて叫んだのだ。

ゴディバのチョコである。ゴディバというと、ブランドイメージ以前に、なんとなく宇宙戦艦ヤマトにでてきたプレアデス星団の要塞(あれはたしかゴルバ)を連想してしまう自分が少し悲しい。

それはともかく、大切な人からクロネコヤマトで送られてきたエリクサー(HP・MP全回復)なみにキくマジックアイテムである。

そのあまりの美味さに声が出た。幸い近辺には誰もいなかったが、叫びに驚いた鴨が水面を滑走して逃げ出していた。


この美味さを何と表現すればいいか、わからないが、まあ強いて言うなら

アフリカ象でも一撃

という感じの美味さだった。


でも、それをひとつひとつ丁寧に食べる。
忙しい合間を縫って、買ってくれたチョコレートなのだ。





それが、うれしかった。







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2001.02.10 sat

寝言日記終了座談会


語り手      :白天野、黒天野(既に分裂状態)

インタビュアー  :メールによる質問などに象徴される読み手の意識集合体(とりあえず友人Aと呼称)



友人A「や、どうもどうも。寝言日記、二年間ごくろうさまでした。10日たって、今のお気持ちは?」

黒天野「日記〜、日記を書かせてくれ〜」

白天野「ってオイ、もう禁断症状かい」

黒天野「長いあいだ書いてきたものだから、ちょっとでも面白いことに出会うと、なんとか日記化しようとする思考回路が・・・」

白天野「捨てろ、その思考回路」

黒天野「ああ〜、プロフェッサー・ギルの笛が、日記を書けと命じるう〜」

白天野「ワルダー見習って手紙を書け。今月の三通目はどうした」

友人A「あの、そんなハイペースで手紙書いて辛くないですか?」

黒天野「向こう(婚約者)は驚いてたよなー」

白天野「日記に比べれば楽だけど、まあ、手紙はゆっくり書くことにしよう」




友人A「それにしても、1月終盤の日記は衝撃的でした」

黒天野「佳子のこととかね」

白天野「あれは、ひそやかに反響があったな。こっちは昔のことだし、客観的に書けているんだけど、読み手の方が動揺してたのが、新鮮だった」

友人A「夜想曲のイラストに添えられている文章や、過去の日記の端々に見える母の心情世界の、その原体験だったわけですね・・・」

黒天野「あの後、しばらくは何を見ても泣いてた。親子モノの物語だと「天才バカボン」ですら泣けたもんなあ」

友人A「それはちょっと凄いのでは・・・」

白天野「泣ける泣ける。朝っぱらから「エスパー魔美」とか読んで泣くし




友人A「寝言日記の休止にあたって、理由は書いてありましたが、きっかけは、何かあったんですか?」

黒天野「ある日、仕事を終えて帰ろうとカバンをつかんだら重かったのがきっかけかな」

友人A「はい?」

白天野「カバンを開けてみると、もってきた弁当が手つかずで入ってるわけよ。その時はじめて気がついたんだ。
    「今日は飯を喰う暇もなかったな。あ、そういや休憩時間自体とってないや」って」

友人A「・・・・」

黒天野「ちなみに会社でそのことに気がついたのは、朝の五時のこと」

友人A「え・・・・」

白天野「空腹とか超越するんですよ、忙しくて集中していると」

友人A「・・・・あの」

黒天野「で、帰っておじやにした弁当食べてから、日記を書くと。そんとき思ったわけ。「あーこりゃ、このうえ手紙書いたら死ぬわ」って」

白天野「翌日の休みは、昏睡したように寝てたしなあ」

友人A「・・・・・・・死ぬで、あんたら」

白天野「大丈夫。生命保険には入ってるし」





友人A「そうそう、御婚約おめでとうございます」

黒天野「なんか今さら、ってかんじですが」

白天野「去年のことだしな、婚約自体は」

友人A「いつごろのことなんです?」

黒天野「長期間、更新されなかった時期が怪しいな」

白天野「あやしいあやしい」

友人A「で、御結婚は」

黒天野「最短で二年後」

友人A「は?」

白天野「これは本当に。向こうの事情があるから」





白天野「ところで、あれは驚いた」

黒天野「いや、まったく盲点でしたな」

友人A「なんでも「店長! 御婚約されたそうですね!」と勤め先で言われたとき「誰に聞いた!?」と叫んだとか・・・」

白天野「誰にも何も」

黒天野「世界に発信しておいて、何を言うかい(笑)>自分」

白天野「寝言日記を読んでない人に言われたから驚いたんだが、まあ発信源は、F店だろうな」

黒天野「汚染度から言っても、間違いあるまい」

友人A「で、驚いたってことは内緒だったんですか?」

黒天野「親兄弟にはまだ言ってない」

白天野「もう半年くらいしたら話す予定だ」

友人A「おいおい・・・」

黒天野「だから、これを読んだみんなは、天野の肉親に婚約者のことを話したらダメだゾ!」

白天野「秘密だからな!」

友人A「秘密って言うか、これってある意味、弱味をさらけ出しただけなのでは・・・? しかも全世界に。」

黒天野「天野の関係者で、婚約の事実を知らないのは肉親だけだったりしてなあ。くすくす。」






友人A「長い時間ありがとうございました。最後にひとつ。寝言日記を休止して、いちばん嬉しかったことは何ですか?」

白天野「1月最後の日記を更新して、一日経ってからあけたメールボックスに、凄い量のメールが。
    ひとつひとつ読んでいるうちに、我しらず、つぶやいてました。」

黒天野「自分は・・・」

白天野「幸せ者だな・・・って」







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